多様なビジネスに活かせる3つのUX 使いたくなる体験設計「ゲームフルデザイン」をSEGA XDが解説

多様なビジネスに活かせる3つのUX 使いたくなる体験設計「ゲームフルデザイン」をSEGA XDが解説
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2025/04/21 11:00

 コンテンツがあふれる現代において、ユーザーを惹きつける「体験」の重要性は増している。そんななか、わかりやすいUI/UXの設計から一歩踏みこみ、人が「夢中になる体験」を追求するのが「ゲームフルデザイン」という考えかただ。従来のゲーミフィケーションは、ランキングや報酬といったゲームの仕組みをいち手法として取り入れるだけのものであったのに対し、ゲームフルデザインは人の欲求や行動の仕組みを捉え、人を夢中にさせるゲームの力を体験設計として活用できる。この概念を提唱しているのが、ゲーム会社であるセガグループのセガ エックスディー。実際のビジネスにどのようにゲームフルデザインを導入できるのか。3月19日に開催されたイベント「Creators MIX 2025」にて、同社の取締役 執行役員 COO 伊藤真人氏が解説した。

ゲーミフィケーションの一歩先、「ゲームフルデザイン」の考えかた

 セガ エックスディーの伊藤氏は、「長年、人が夢中になる体験を作ってきました。これをゲーム以外の産業にも活用する方法として『ゲームフルデザイン(※解説記事)』の考えかたを紹介します」とセッションを始めた。

 ゲーム会社セガのグループである同社は、エンタテインメントが持っている「人を動かす力」を活用し、課題解決に役立てる事業を行っている。

 伊藤氏は、昨今のビジネスの市場状況を「情報が増えていくにつれて機能的価値がコモディティ化している」と説明。合理性や利便性よりも、「好きだから買う」「何となく買う」といった感情の価値が非常に重要になってきていると指摘した。

 また、DXの推進が叫ばれるようになって久しいが、その言葉は「効率化」や「競争力の向上」といった文脈で用いられることが多い。しかしそんなDXツールも、実際に使われなければ意味はない。「ツールを使う人の体験の変革」が重要なのだ。伊藤氏は「機能的価値である『使いやすさ』だけでなく、『使いたくなる』体験にまで踏み込んだアプローチが必要」だと語る。

 そういったユーザーの「やりたい」という欲求を刺激するのが「ゲーミフィケーション」の手法だ。

「ゲーミフィケーション」は、2010年ごろから使われるようになった言葉だ。ビジネスにおいても、ランキングや報酬の付与といったゲーム的な要素を入れることで、ユーザーのアクションを促す手法として注目されてきた。しかし伊藤氏いわく「ゲームはランキングがあるから“おもしろい”わけではない。ゲームには本質的に、のめり込んでしまう要素がある」のだ。

株式会社セガ エックスディー 取締役 執行役員 COO 伊藤 真人さん
株式会社セガ エックスディー 取締役 執行役員 COO 伊藤 真人さん

 そこでセガ エックスディーが提唱するのが「ゲームフルデザイン」の考えかた。従来のゲーミフィケーションは、ランキングや報酬といったゲームの仕組みをいち手法として取り入れるだけのものだった。しかし伊藤氏は、人の欲求や行動の仕組みを捉え、人を夢中にさせるゲームの力を体験設計として活用できると指摘。これを「ゲームフルデザイン」と呼んでいる。

ゲームフルデザインの具体的なアプローチとは

 では、そんなゲームフルデザインを使ってどのように体験設計をするのか。伊藤氏は具体的に説明を始めた。

 最初のステップは、「解決すべき課題」を定めること。そのあとにUXを設計するのだが「『瞬間UX』と『習慣UX』のふたつがある」と伊藤氏。瞬間UXは、見た瞬間に使いたくなってしまうような体験のことで、習慣UXは継続的に使い続けたくなる体験を指す。さらに瞬間UXは、「無意識」についやってしまうものと「意識」的にやるものに分けられる。

 「無意識の瞬間UX」「意識的な瞬間UX」「習慣UX」の3つを設計する方法について、事例を交えながら説明がなされた。

1.無意識の瞬間UX

 伝統的な経済学は、人間が論理的であることを前提としていた。しかし、現代では人間は感情や欲求に左右される不合理な生き物であることがわかっている。そういった特性を体験に組み込むのが「無意識の瞬間UX」のつくりかただ。

 東京・八王子市が大腸がん検診の訴求のために配布したチラシには、従来「受診した場合、来年度も検査キットをお送りします」と記載されていた。それを「受診しないと来年度は検査キットをお送りできません」という文言に変えたところ、受診率が7.2%も向上したのだ。これは「損失回避性」という人間の特性を利用した設計である。

 このように、人間の特性・欲求を刺激する体験設計をすると、行動変容を起こしやすい。これを実務向けにフレームワークに落とし込んだものが、次の図だ。

 たとえば、松竹梅の価格設定で商品を用意すると、真ん中の竹が選ばれやすいのは「フレーミング」を利用した体験設計だ。「簡単な施策で実現できるので、ぜひ活用してもらえたら」と伊藤氏は続けた。

2.意識的な瞬間UX

 意識的な瞬間UXの例として「手を入れたくなる消毒器」が紹介された。イタリアのローマにある「真実の口」に見立てた消毒器で、つい手を入れたくなる。ほかにも、鳥居を設置すると「神聖な場所」という意識が働いて不法投棄が減ったり、階段の左右に「A派」「B派」という投票の文言が書かれていることで階段を上りたくなるように促したり、といった事例を紹介。

 こうした意識的な瞬間UXを設計するにあたり、先述のようなフレームワークはないが「原体験の洗い出し」が必要だと伊藤氏は言う。

「『クイズがあったら答えたくなる』というように、ついやりたくなってしまった体験にたくさん出会ってきたと思います。そういった体験を洗い出していくのです」

 セガ エックスディーでは自治体と「町ちがいさがし」という取り組みを実施。住民に財政に興味を持ってもらうことを目的に、今の街と20年後の街の間違い探しを作成した。

3.習慣UX

 習慣UXを考えるにあたってカギとなるのは「人間の9つの原理的な欲求」だ。「お金がもらえるから」ではなく、「やりたいからやってしまう」という人間の行動は、次の9つの定義で網羅的に説明できる」と伊藤氏は言う。

 「達成欲求」を例に挙げよう。人は進歩を実感することによってモチベートされる。ラジオ体操のスタンプや、歩数計の数字でやる気が出るのはそうした達成欲求があるからだ。「ロボット掃除機に名前をつけて愛着を持つ」といった行動は、「保存欲求」に分類できる。

 とはいえ、こういった9つの欲求を刺激する習慣UXは、どのように設計できるのだろう。セガ エックスディーでは、9つの欲求を刺激する101個の手法を定義している。次の図に注目してほしい。これは、ゲーム開発における体験設計から要素分解してマッピングしたものだ。

 たとえば、達成欲求を刺激するやりかたとしては、「ストックポイント」という報酬が溜まる仕組みと「アチーブメントシンボル」という成長度が可視化される仕組みなどが一例として紹介された。

ゲームフルデザインが「課題解決」の新たなアプローチに

 セガ エックスディーでは、こうしたゲームフルデザインを活用してさまざまな体験を設計している。

 ベネッセコーポレーションとともに開発した英語学習のアプリは、勉強のモチベーションがなくゲームにばかり夢中になっている子どもも、いつの間にか勉強に取り組んでしまう仕組みになっている。

「ゲーム要素を入れた学習アプリはこれまでもありましたが、これは正真正銘、ゲームとして勝負しています。ゲームアプリで課金すると強くなるように、勉強すると強くなる。普段のゲームでは課金できないお子さまも、勉強することで課金したときのように強くなっていくので、もっとやりたくなるのです」

 今回紹介されたゲームフルデザインの手法は、決して万能ではない。課題解決の手段として使うためには、当然ながらシーンを選ぶ必要がある。ただ、真正面からは解決できない課題にアプローチを提示してくれる、新たな一手になり得るのではないだろうか。

「世の中には、正攻法で合理的に解決できる課題ばかりではありません。そういった課題に対して、つい夢中になってしまうゲームの行動変容が活用できるはずです。ゲームフルデザインを皆さんの事業におけるひとつの武器として、ご活用いただけたらと思います」

 そう語り、同社の「使いたくなる体験のつくりかた」のフレームワーク(下図)を公開。セッションを締めくくった。

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