新コンセプトの軸は「仕事探しの不安解消」 企業とのマッチ度の数値化も
転職したい。そう考えたときに、多くの人はまず転職サイトを閲覧するのではないだろうか。
ミクシィ・リクルートメントが運営する転職サイト「Find Job!」は、1997年にサービスの提供を開始して以来、IT・Web業界に特化した転職サイトとして多くの求職者を支えてきた。Find Job!が生まれた当時は、多くの求人媒体は紙であり、求人の作成から掲載、応募などすべてがウェブだけで完結するのはFind Job!が先駆けであった。
だが、IT・Web業界における転職市場の変化は激しい。およそ23年にわたってサービスを運営してきたからこそ、時代の流れに対応しきれていない部分もあったようだ。今回のフルリニューアルプロジェクトの前にも、Find Job!には何度か大きな開発改善やサイトのデザインリニューアルが行われてきた。またビジネスモデルにおいても、採用が上手くいった場合に所定の費用が発生する「成功報酬型」が主流のなか、Find Job!が採用していた広告の掲載に対し費用がかかる「掲載課金型」の仕組みそのものが、時代とマッチしづらくなっていた。
そんな状況を打開する一手としてサービスの根幹から見直すための「Find Job!フルリニューアルプロジェクト」が始動する。2018年11月ごろのことだ。
そのプロジェクトに携わるべくミクシィ・リクルートメントに加わったのが、今回話を聞いたプロジェクトマネージャー(以下、PM)をつとめた上月健成さんとデザイナーの成智恩(ソン ジウン)さんだ。前職では制作会社でウェブサイトのデザインに携わっていたソンさんは、リニューアル前のFind Job!の印象をこう振り返る。
「デザインリニューアルは行ってきていたのですが、20年以上運営しているサービスですし、まだまだ昔の画面を使っているページも残っている状況でした。競合サービスが次々とトレンドに合わせたデザインリニューアルを行っていく中、このままではいけないという危機感を感じていました」
IT・Web業界に特化していること、またスピーディーに求人掲載ができ、ウェブで完結することをサービス開始時から一貫してうたってきたものの、それだけで差別化することはいまの時代には難しい。だからこそ「ほかのサービスが掲げていない明確なコンセプト」が必要だと上月さんは考えた。
「リニューアルの軸に置いたのは『不安』です。ITがこれだけ進化した状況下でも、転職活動をスタートしてから新しい会社に入社するまで、求職者には多くの不安がつきまといます。フェーズごとにさまざまな不安がありますが、その根本にあるのは情報不足だと思っています」
求職者の不安を解消したいという思いは、新たに制定されたコンセプト「IT業界に不安のない仕事探しを」にも表れている。公平性と透明性をあげ、企業側、求職者側それぞれがもつ不安を解消したうえで採用活動ができるプラットフォームを目指す――。
それを成し遂げるための目玉としてリリースされたのが、求人と求職者のマッチ度が数字でわかる機能だ。求職者の希望条件と求人内容、求職者のスキルと求人の応募条件、このふたつがどれくらいマッチしているかを数字で知ることができる。
「求人サイトには、会社の理念や思い、雇用条件などの情報がテキストで並んでいることが多いと思うのですが、文章のままだと求職者は各企業を比較しづらい。そこで、企業Aと企業Bのどちらがより自身に適しているのかをわかりやすくするべく、その企業とのマッチ度合いを数字で提示するようにしました。
また、求人情報を比較しやすくするために、企業側がフリーテキストで入力する欄を大幅に減らし、必要な項目をテンプレート化しました。これにより求職者は、いくつかの企業を同じ軸で比べやすくなります」(上月さん)
入社してすぐという求職者に近い目線で本プロジェクトに加わったからこそ、ソンさんは「手間を減らすこと」にこだわった。
「私自身、転職活動中はひとつの媒体だけでなくさまざまなサービスを利用していましたが、そのたびに同じ情報を入力することがとても億劫だったんです。そこで、情報を入力するのではなくボタンで選べるようにしたり、スライドバーで入力できるようにするなど、少しでも手間を減らすにはどうしたら良いか、を常に考えていました」
デザインが進まずエンジニアの手が止まる 試行錯誤した最初の半年間
このリニューアルプロジェクトの専属メンバーはおよそ10名。そのうちデザイナーは、ソンさんと外部のフリーランスデザイナーの2名で、フロントエンドエンジニアも2名。残りの6名ほどでバックエンドの開発を行っていた。
2018年11月からプロジェクトは始まっていたものの、ビジネスモデルや要件定義に予定より時間がかかり、実際に開発がスタートしたのは翌年の7月ごろ。大規模なリニューアルプロジェクトとしては少人数で進めてきたこともあり、デザイン側、開発側ともにおよそ半年は試行錯誤の日々が続いていた。「とにかく時間が足りず、デザインが出来上がるまでエンジニアは待ち状態になっている」という状況に陥ったそうだ。
「1つひとつの画面にもっとこだわりたい、もう少し時間をかけて考えたいと思う場面も多かったのですが、進めていかないとエンジニアの手が止まってしまう。そのバランスをどのようにとっていけばいいのかとても悩みました」
さらにソンさんの頭を悩ませたのは、デザイナーとしての役割の範囲。どこまでをデザイナーとして進めるべきか、開発側に任せるべき部分はどこなのか。その線引きが上手くできずにいた。
「デザイナーもフロントエンドも人数が十分ではなかったので、できる限りコーディングまで行うことで開発も進めやすいのではないかと考えたときもありましたし、一方でデザインに集中したいという気持ちもありました。最初から開発メンバーのみなさんに相談すればよかったのですが、ひとりでとても悩んでしまって……。
結局、できる人が進めればすぐ終わるのに、自分の得意領域ではない部分まで私が行うのはとても非効率だという考えに至りました。やはりこれではいけないと感じ、『ここから先はお願いします』と自分のできる範囲を明確に伝えました」
開発側の手が止まり、デザインが進むのを待つという状況に直面したとき、PMをつとめていた上月さんも焦りを感じた。
「開発もデザインもお互いに完璧なものを作りたい気持ちはわかりますが、最初からサービスを完璧にすることは難しい。上手く折り合いをつけてもらうべく、『一旦はこの工程まで進めるようにしましょう』といったテコ入れをしていきました」
試行錯誤が続いていたもうひとつの背景には「デザインの進めかた」も関係していた。
今回のリニューアルでは、プロジェクトが始まる段階からアトミックデザインを用いることがエンジニア側でほぼ決まっていた。アトミックデザインとは、ボタン、テキストボックスといった最小単位のパーツから組み立てデザインしていく。デザイン修正のスピードが格段に速くなるのが最大のメリットである。だが本来の手順に従い進めた結果、テンプレートを使用したようなシンプルなビジュアルになってしまった。新規プロダクトにおいて、トーンの確定やコンセプトが反映しづらいことが、スムーズにデザインが進められない原因にもなっていた。
そこでアトミックデザインを活かしながらもその枠にとらわれるのではなく、デザイナー同士で独自のやりかたを模索した。たどり着いたのは、こんな方法だ。まず、サービスコンセプトを軸にトンマナを決定し、それをもとにパーツが多く登場する主要な画面を“先に”デザインする。その画面をふまえ、トンマナとデザインイメージをチームで確定。メインとなる画面から抽出したパーツを単位ごとに分け、アトミックデザインに沿った方法でデザインしていく――。
この進めかたをソンさんから説明したことでチーム全体の理解度が高まり、一気に開発のスピードは上がっていったのだ。
サービスロゴの刷新も 大規模な既存サービスをリニューアルする難しさとは
今回ミクシィ・リクルートメントが行ったのはサイトのリニューアルだけではない。サービス名称と表記も「Find Job!」から「FINDJOB!」に刷新し、サービスロゴも新しく生まれ変わった。
「サービスの表記も、英語は大文字にし、FINDとJOB!の間のスペースもなくしました。リニューアル前の名称である『Find Job!』は、英語として正しいものではありません。そこで、『Facebook』のようにふたつの単語をつなげることで、これからは『FINDJOB!』という固有名詞として認識されることを期待しています」(ソンさん)
だが、たったふたりのデザイナーですべての画面デザインを進めていたため、リニューアルのプロジェクトと同時にロゴを刷新することは至難の業だった。「リニューアル完成時には既存のロゴでもいいから、今はサイトのデザインを優先してほしい」とチーム内から声が挙がることもあったとソンさんは言う。
「ですが、ロゴはサービス全体のデザインを左右するとても大切な要素ですし、やはりデザイナーとして諦めたくなかったんです。そのためひたすらラフを描くことと並行し、『ロゴが決まらないとサービス全体のデザインも定まらない』ということをメンバーに都度説明するようにしました。その積み重ねによって、少しずつ周りにも理解してもらえるようになったと思います」(ソンさん)
今回のリニューアルプロジェクトで特徴的なのは、既存サービスの“リニューアル”でありながらも、システムやビジネスモデルは新規サービスのようにイチから開発したことだろう。上月さんがもっとも苦労したと振り返るのもこの点だ。実際に行っていることは新規サービスの開発だが、既存サービスの機能も踏襲しながら開発を進めなければならなかったからである。
「新規サービスの開発といえば、まずはサービスをミニマムかつスピーディーにリリースし、ユーザーの反応を見ながら改善していく形が一般的だと思います。ですが、今回は既存サービスのリニューアルという立ち位置のためそういった手法を用いることができず、とてもやりづらさを感じていました。新規サービスの開発手法をとりながらも旧版から踏襲する仕組みや機能がたくさんあり、ジレンマに陥ることも多かったです。
また、ビジネスモデルも大きく変更したので、求人制作のライターさんや求人広告の販売代理店、連携サービス、といったステークホルダーにどう説明していくかといった点も悩みのひとつでした」
とくに関係各所への説明は、ひとりでは対応しきれないと判断。上月さんは、旧Find Job!の運用チームにもサポートを依頼する。
ただ、最初から気兼ねなく依頼できる関係性があったわけではない。フルリニューアルの開発チームと運用チームが明確にわかれていたためコミュニケーションがとりづらかったり、全体像を把握していながらも、上月さん自身がメンバーに共有するべき項目を整理できていない部分もあった。そういった状況を改善するために、上月さんは細かな内容でも共有することを徹底。その積み重ねからか、徐々に両チームの連携もとりやすくなり、プロジェクトも一気に前進していく。
開発チームと運用チームで任せるべき部分を遠慮なく任せる関係が構築できたことで、ステークホルダーにも説明ができる体制を整えた。
「正直なところ、マンパワーに頼ることになったとは思うのですが、最後は全員の気持ちをひとつに進めることができました」(上月さん)
今後は「採用候補者」のよりよい体験へ注力
2020年の9月にフルリニューアルした新生FINDJOB!。これから取り組んでいきたいのはサービスのアップデートだけではない。「CXの向上」をキーワードに、求職者が“IT業界に不安のない仕事探し”をするための啓蒙活動も行っていきたいという。
一般的にCXとはカスタマーエクスペリエンス(Customer experience)のことを指すが、ここで意味するのは「キャンディデイトエクスペリエンス(Candidate Experience)」、つまり採用候補者の体験である。
そう考えると、候補者に提供すべきCXを設計し実践していく主体となるのは企業側ということになるが、FINDJOB!は転職サイトの立場からどのようにこれを実践したいと考えているのだろう。
「CXの大切さを企業側に伝えるのと同時に、求職者が知りたい情報を企業側に提供してもらう仕組みやフォーマットを用意することこそが、プラットフォーマーである私たちの役割だと考えています。どの求人情報サービスよりも濃く、そして正しい情報が揃うプラットフォームを目指し、機能の追加や整備に一層取り組んでいきたいです」(上月さん)
「企業側が求職者に対する行動や情報提供の仕方を工夫することで、候補者がその企業とご縁がなかったとしても、引き続き応援したい気持ちになるなど、継続性のある関係を生むことができるのではないでしょうか。企業が良いCXを提供しやすくするためのサポートも、今後は進めていきたいと思っています」(ソンさん)
プラットフォームだからこそできる“CX”向上を、新生FINDJOB!はどのように進めていくのか。新たに生まれ変わった老舗転職サイトの挑戦と進化に、今後も注目したい。
IT業界に不安のない仕事探しを「FINDJOB!」
FINDJOB!は、「IT業界に不安のない仕事探しを」をコンセプトにしたIT・Web業界特化の求人情報サイトです。デザイナー・エンジニア職種を中心に、「業務委託」求人や「実務未経験OK」求人なども多く掲載されています。新しくなったFINDJOB!をぜひご体感ください。詳細はこちら。