企画から開発まで プロジェクト全体に寄り添う岩野さんのスタイル
コロナ禍になり、いっそうデジタル化が進んだ。たとえば、従来は銀行まで足を運んで用事を済ませていた生活者のなかには、情勢をふまえ、スマートフォンなどを使ってオンライン上で手続きをするようになった人もいるだろう。デジタル化が急速に進んだだけではなく、生活者にとっていままで以上にデジタルの活用が当たり前となり、だからこそ求められるようにもなっている。
そんな社会全体の変化をプロの観点から捉え、サービス設計に落とし込んでいくのが、ゆめみにおけるサービスプランナーだ。サービスプランナーが関わるプロセスは細分化されており、同じ職種でも担う分野は異なる。上流のコンセプトづくり、ワークショップの設計など、上流から開発を行う一連の過程のなかで、それぞれが得意領域を担当している。
もともとエンジニアだった経験を活かし、アプリやウェブサービスの具体的な設計から開発のフェーズまで入り込んだ企画・提案を行っているのが岩野真理子さん。家電、化粧品、金融、生協など、さまざまな業界のクライアントとともにサービスやアプリ開発のプロジェクトを進めてきた人物だ。
経験とわず、新卒者全員がプログラマーからスタートするというゆめみの当時の方針のもと、最初はプログラマーとしてECサイトのパッケージソフト開発に関わっていた。将来的には企画に携わりたいことを伝えていたため、ECサイトを導入するクライアントへのカスタマイズ提案なども並行して担当。プログラマーとして3年ほど経験を積んだのち、東京で立ち上げるプランナーチームに加わったことで企画へと軸足を移すことになる。
それからおよそ10年にわたり、さまざまな案件に関わってきた岩野さん。現在のプロジェクトでは、クライアント企業の大まかな要望が顕在化してきた段階で、エンジニア、デザイナー、PM、プランナーなども加わり、ある程度の実現可能性も加味したうえで提案をすることが多い。だが、当初からこのような方法で進めていたわけではない。
「もともとはプランナーのみで検討・提案をし、クライアントからの了承をもらったあとに開発チームに依頼をしていました。ですがそうするとエンジニア側から『その仕様では実装が厳しい』と伝えられることも多くて……。プロジェクトのフェーズごとに、クライアントと話をする社内メンバーが分かれてしまっていたんですよね。それだと手間も時間がかかるため、関わる職種の代表者が提案から同席するようになりました」
ここでひとつの鍵となるのは、提案の際にプランナーが果たすべき重要な役割でもある「課題のヒアリング」だ。すでに公開されているサービスの場合には、その事前準備として、岩野さんはSNSを活用している。
「サービスに関するさまざまなキーワードをSNSで検索するようにしています。実際にそのサービスを使用している人たちがどういう気持ちなのか、どのような経緯でサービスを利用するようになったのかなど、エンドユーザーさんのニーズを探ることができるからです」
もちろん、実際にサービスを試すことも怠らない。その際に岩野さんが心がけているのが、サービス開発に関わるプロとしてではなく「“いちユーザー”の視点」でサービスを使うことだ。
「サービスの仕組みや裏側を把握しているため、アプリの使いかたなど検討がついてしまうことも当然あります。ですが大切にしているのは、あくまでも一般ユーザーとして使用すること。店舗のレジで使うアプリであれば店員さんがどのように使いかたに関して声をかけてくれるのかなど、プロとしてではなく、いちユーザーに近い立場で試すようにしています」
言わない言葉は「できない」と「私の仕事ではない」
案件を発注するクライアント企業と、受注する制作会社。そのふたつはどうしても区別されがちだが、クライアントとともに案件を進めるために、その分断が少ないほうが良いことは想像に難くない。受発注の関係を超え、クライアントと共創しながらプロジェクトを進めるためには何が必要なのだろう。現在関わっている案件では、各職種のリーダーがクライアントと密にコミュニケーションをとるものの、とくに取りまとめの立ち位置を担うことも多い岩野さんは、次のふたつを心がけていると言う。
「ひとつは、サービスを届けるのはエンドユーザーだと意識することです。私たちはデジタルサービス開発の会社なので、どうしても企業さんの要望を叶えることを優先してしまいがちです。しかし、あくまでサービスを利用するのは、その先にいるエンドユーザー。そのためのサービスを一緒に作っているんだといった意識は、常に持つようにしています。それは一緒に開発を進めているエンジニアをはじめとしたチームメンバーも同じなので、 ユーザーの声などを共有するようにしています。
ふたつめは、クライアントに『できない』という伝えかたをしないことです。エンジニアも企画の段階から加わっているため、クライアントの要望に対し技術的に難しいことが事前にわかったときも、チームとして『これはできません』とはお伝えしません。『この方法は難しいかもしれないけれど、こういう形に変えれば実現できると思います』。そんな風に、ほかの案を提案するように心がけています。
要望を形にするための方法をクライアントと一緒に考えていくことで、受発注の関係ではなく、全員がサービスを作っていく一員なんだという姿勢を共有できるのではないかと考えています」
2点めの心がけは、対クライアントに限ったことではない。岩野さんが仕事全体を通じて大切にしている信条「『私の仕事ではない』と言わない」にも通ずる部分がある。
「職種だけで考えれば積極的に取り組む必要のない業務や、誰も手にしていない仕事ってどの企業にもありますよね。そういったタスクがあったときに、それがチームやお客さまのために私ができることなのであれば、どんどん拾っていくことを心掛けています」
自身の役割外のタスクであっても能動的に取り組む――。普段の業務もまっとうしながらこのマインドを持ち続けることは、決して簡単なことではない。だが岩野さんは、考えかたが変わったターニングポイントを、数年前のある案件ではないかと振り返る。展示会用のデモアプリを開発するプロジェクトでエンジニアとふたりで進める機会があった。その際に、エンジニアが担うことができない役割を、岩野さんが一手に引き受けたのだ。
「当時は私がやらざるを得なかった部分ももちろんありましたが、私自身のプロジェクトの進めかたとしても非常にフィットしたんです。あの案件から意識が変わった気がします」
上手くいかないのは「期待値調整ができていないとき」 その解決策とは
もちろん、コミュニケーションが大切なのはクライアントだけではない。同じかそれ以上に重要となるのが、ともにプロジェクトを進める社内メンバーとの関係構築だ。さまざまな職種のメンバーとともにプロジェクトを進めるからこそ、価値観やスキルなどの違いからその進行が上手くいかないケースも多いのではないだろうか。
そんな社内のコミュニケーションを円滑に、ひいてはプロジェクトで成果をだすために行っているチームビルディング手法のひとつが「ドラッカー風エクササイズ」だ。プロジェクトを始めるときに「自分は何が得意なのか」、「自分はどうやって貢献するつもりか」、「自分が大切に思う価値は何か」、「チームメンバーは自分にどんな成果を期待してると思うか」の4つの質問をチームで共有するというものである。(出典:Jonathan Rasmusson『アジャイルサムライ−達人開発者への道−』オーム社、2011年)
「実際にこの手法に取り組んだときに社内のメンバーから、『岩野さんには驚くような企画をだしてほしいです』と言ってもらったことがありました。ですがそれは、私が得意なことではなかったんですよね。そこで『斬新な企画を考えることが、実は苦手なんです。少し粗い企画をブラッシュアップすることは得意なので、そういった部分で貢献できればと思います』と共有しました。
チーム内のコミュニケーションが上手くいかないケースの多くは、自分やチームが期待していることを相手ができていないとき。それがストレスや軋轢を生む原因となることが多いのではないでしょうか。自身が何で貢献するのか、そして何を期待してほしいかを共有することが、メンバーとのスムーズなコミュニケーションに役立つと考えています」
プランナー、サービスデザイナー、グラフィックデザイナー、エンジニアなど、ゆめみに在籍するメンバーの職種やそれぞれがもつ価値観もさまざまだ。だが、このドラッカー風エクササイズや、案件共有会をはじめ、月に100回ほど行われている社内勉強会などによって、社内メンバーと期待値のすり合わせができていることが、クライアントワークにおけるコミュニケーションにも活きているのだろう。
今後もデジタル化がいっそう進んでいくことはおそらく避けられない。新たなテクノロジーが生まれ、日常も変化していくはずだ。だが、「『できない』、『私の仕事ではない』と言わない」という岩野さんの信条は、時代によって左右されるものではない。長年培ってきた知見を武器に、そしてこのコミュニケーションにおけるマインドセットを胸に、これからもクライアントと走り続ける岩野さん。その挑戦は、まだまだ続く。
ゆめみ 公式サイト 「みんな知ってるあのサービスも、ゆめみが一緒に作ってます。」