ユーザーの真のニーズを探るために有効な「親和図法」 正しく実践するうえでの悩みとは
――まずは自己紹介をお願いします。
羽山 「ユーザーにとって本当にうれしいものを作る」専門家です。
僕は2010年に、UXデザインの師匠である安藤昌也先生の社会人大学院コースに通いました。当時は「UX」という言葉が世に広まりはじめたころでした。良いプロダクトを作るためにはユーザー理解が不可欠だと考えていたためです。
現在はUXデザインやUXリサーチの人材育成やコンサルティング、セミナーなどを行っています。そのひとつとして「親和図法」という手法をテーマにした資料を公開しており、米山さんの目に留まり、「toitta」開発の参考にしていただきました。
米山(はてな) 広告営業としてキャリアをスタートし、はてなにも営業として入社しました。数年前にプロダクトマネージャーに転身。現在は新規事業であるtoittaのプロデューサー兼プロダクトマネージャーを務めています。プロダクトマネジメントを始めて間もないころ、右も左もわからないなかで、羽山さんが公開している資料に助けられました。
――羽山さんがUXデザイン・UXリサーチにおいて軸にしていることはありますか?
羽山 「ユーザーを理解する」のはビジネスの基本ですが、苦労するものでもあります。クレジットカードのUXリサーチをしたときのことを例に挙げると、消費者にクレジットカードの利用について1人ひとりユーザーインタビューをしてまわりました。
1人目のユーザーは「すべての買い物をクレカでしている」と言いました。理由を聞くと「すべての履歴がクレカの明細になるので、家計が管理しやすい」とのことでした。7人目のユーザーは「クレカなんて絶対使いません」と言いました。「クレカにしたら、何にいくら使ったか見えづらくなって、家計が管理できない」というのがその理由でした。
お気づきになりましたでしょうか。どちらのユーザーも本質的なニーズは「家計を上手く管理したい」ということ。ところが表出した行動はまったく正反対。ユーザー理解が浅いと「じゃあ7人目のユーザーはターゲットではないね」となってしまいがちです。
しかし7人目のユーザーは「家計を上手く管理したい」のであって「クレカを使いたくない」わけではない。むしろクレカによって家計が管理しやすくなることが伝われば、ターゲットそのものです。
ユーザーの本当のニーズを見つける専門技術を「UXリサーチ」や「UXデザイン」と呼びます。表面的な言葉や行動をパッと見ただけだと気がつきづらいユーザーの本当のニーズを、調査者のスキルに依存せず再現性をもって見つけるために、ユーザーインタビューや親和図法という手法が存在します。
親和図法は安定してユーザーのニーズを見つけることができる代わりに、正しく実践するには時間がかかることが悩みでした。研修のワークショップなどでは3時間で終わりますが、いざ実務で行おうとなると膨大な量のデータと向き合うことなり、それこそ何日もかかりっきりです。僕がご支援しているクライアントさまでも、分析にそこまでの工数を費やすのは覚悟がいると聞きます。
――ユーザーへのインタビューはどのように行うのでしょうか。ポイントはありますか?
羽山 プロダクトではなくユーザーの視点に立って話を聞くこと。「この機能を使いたいですか?」と聞いてもあまり意味のある情報は得られないでしょう。あなたにとってプロダクトがすべてでも、ユーザーにとって、プロダクトは自身のゴールまでのひとつの手段でしかないからです。
仮に英語の資格試験向けのアプリを作っているなら、「勉強の目的は何ですか?」「どんな方法で勉強していますか?」といった、ユーザーの行動や動機にフォーカスして質問します。明らかになったユーザーのアクションに対して「自社のプロダクトが寄り添える余地があるのか」。寄り添えるのであれば使ってもらえるでしょうし、そうでなければ無理やりプロダクトを押しつけても使ってもらうことはできません。
toittaの無料トライアルについて
toittaでは現在、toittaを一定期間無料でトライアルいただける機会をご提供しています。 ご利用を希望の際には、toitta公式サイトからお問い合わせください。(ご応募多数の場合は先着順で締め切らせていただく可能性がございます)
年間240件のインタビューを行うも労力は膨大
UXリサーチのペインを解決すべく開発した「toitta」
――「toitta」は、UXリサーチ、とくにユーザーインタビュー調査の分析におけるペインを解決するプロダクトです。そもそも、どのような課題があるのでしょうか。
米山 プロダクトマネージャーを始めた当初は、ほかのプロダクトを担当していました。定量データや行動ログなどの数字を重視した意思決定をしていたのですが、思うようにユーザーに価値を伝えることができませんでした。数字は結果を示してくれるものの「なぜこの結果なのか」までは教えてくれないからです。そんな当たり前のことに気づいてから、定性的な情報、とくにユーザーがどのような考えを持っているかといったことがらをもっとしっかり把握しようとUXリサーチに取り組み始めました。
羽山さんのスライドを参考に、「親和図法」を用いながらユーザーインタビューを分析した結果、大きな手ごたえを感じました。親和図法は、インタビューでの発話をもとにユーザーの真意や価値観に迫り、意思決定に活かすことができる非常に優れた手法。異なる職種のメンバーが協働しながら実践することで、共通認識を育む試みとしても有用です。バックグラウンドの異なるメンバーが同じユーザー像を描くことができた、とても素晴らしい取り組みでした。
一方、分析の過程は本当に労力がかかりました。1年間で240件のインタビューを実施したのですが、分析を行う際にはそのすべての録画を見て、いつ、誰が、何を話したのか書き起こす必要があります。ニュアンスがわかりづらいところは巻き戻し、忠実に書き出しました。それを切片(心理がひとつに読み取れる単位に分解)にし、出来事に対しての心の声・価値を言語化しながら抽象化を重ねていく。この一連の作業は、数人がフルコミットしても1件あたり数日かかりました。
素晴らしい手法であるのに、頻繁に実践できないのはもったいない。自分たちで使うために開発したのが「toitta」の前身となるプロトタイプでした。生成AIを活用したら良いのではないかというエンジニアのアイディアで開発したところ、気づけばチームのリサーチ活動になくてはならないツールになっていました。
羽山 ユーザーインタビューを年間240件も実施されたのはすごいですね。なかなかインタビューに踏み出せないプロダクトマネージャーも多いなかで、米山さんはなぜ実践できたんですか?
米山 前述のように、定量データのみを見ていては正しいゴールが描けないと強く感じていたことが大きかったです。くわえて、新規事業創出のプロジェクトだったことも、UXリサーチを実践しやすい要因でした。既存の事業であれば機能開発や顧客対応に大きくリソースを配分する必要があるでしょうから、インタビュー調査とその分析だけをここまで愚直に進めるのは難しかったのではないかと思います。
親和図法を通してこれまでにない深さで顧客像を理解する体験が得られた。メンバー全員がその体験をしたことが、親和図法という手法に強い信頼を寄せるきっかけになりました。
ただ同時に、メンバー全員が体験したからこそ、親和図法の各工程における作業の大変さも痛感しました。私たちが新規事業創出で直面したペインは、多くの企業も同じく抱えています。このペインを何とかできれば、もっと多くの企業で顧客体験や心理への理解が進み、日本のものづくりやビジネスがさらに顧客の心に響くものに進化するのではないかと考えたんです。
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羽山さんが衝撃を受けたのは「前後の文脈をふまえた切片化」
――羽山さんはtoittaに初めて触れたとき、どんな印象を持ちましたか?
羽山 プロダクトのリリース前に、はてなさんのオフィスに呼んでいただき、画面を見せてもらいました。衝撃的だったのは、発話を書き起こした文章を「前後の発話の文脈までふまえて」ユーザーの心理がひとつに読み取れる単位に分解してくれることです。
音声の書き起こしをしてくれるAIサービスはたくさんあります。要約や議事録をしてくれるサービスもある。ですが、インタビューの分析で必要なのは切片化です。「ユーザーの心理を解釈できる文」を作ること。単に発話の一部を抜き出しただけでは不十分なんです。
たとえば「今日は暑いね。エアコンをつけて」というユーザーの発話があったとします。これを単に分解すると「今日は暑いね」「エアコンをつけて」となる。これを別々のふせんに書きます。
ふせんを一枚一枚めくり、いざ分析するときに「エアコンをつけて」という文だけしかないと、分析者は、ユーザーがなぜエアコンをつけてほしかったのかわからない。暑いからか寒いからか、ひょっとしたら蒸して湿度を下げたかったのかもしれず、分析することができません。
親和図法で分析をするためには「暑かったのでエアコンをつけてほしい」というように、「ユーザーの心理がわかるように」発話を切り出す必要があります。ただ機械的に文章を切るのではなく、前後の発話で何が言われているかをふまえて切り出します。
toittaは、見返したときにユーザーの気持ちがわかるように、前後の文脈を加えて文章を抜き出している。「UXリサーチの実務をよくわかっていらっしゃる」とお伝えしました。
米山 そこを理解していただけたのはとても嬉しかったです。
羽山 「生成AIで親和図法を効率化できないか」ということは、多くのUXデザイナーが期待しつつも誰も実現できずにいました。切片化は、「月がきれいですね」という発話を「あなたが好きです」と捉えるようなもの。さすがにAIにはまだ難しい領域で、人間の解釈がどうしても必要だろうと考えていました。
toittaがそこに挑戦しようとしているのを目の当たりにして衝撃を受けました。「UXデザイン業界の待望のプロダクトだ!」と非常に興奮しました。
――そんな理想のプロダクトを実際に使ってみた感想もお聞かせください。
羽山 先日のことです。UXリサーチのセミナーで、ユーザーインタビューを実演し、さらに翌週までに親和図法で分析し、受講生に見せることになっていました。ところが仕事が忙しく前日の夜まで手を付けられませんでした。いつもなら一日では終わらない作業です。どうしよう。
そのとき、toittaのテストアカウントを使わせていただいたところ、なんと親和図法の分析が一晩で完了したんです。
toittaにインタビュー動画をアップロードしたあとは自動で書き起こしができており、切片化もされている。いつもなら、切片を100枚抜き出すだけでも一晩では足りません。AIが生成した切片にはハルシネーションがあるためチェックは必須ですが、いちから手作業で時間をかけるのではなく、自動で切片化されたものをレビューするだけで良かった。間に合うかどうか焦りながら夜中から始めた親和図法が、なんとカーテンの外が明るくなる前に完成していました。
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新機能では「AIの思考の過程」も提示 toittaは「顧客との対話を深める」ために活用を
――toittaを最大限活用するためのポイントはありますか?
羽山 toittaに限らず「AIはハルシネーションをする」ことを理解しておく必要があります。「AIがすべてやってくれる」というのは、過剰な期待です。画像や動画の生成AIもよく利用しますが、不自然な描画も生まれるんですね。もう手で直していくしかない。100%完璧ではないのが、2024年時点でのAIです。
toittaでも、どこまでを自動化できるのかを理解しておく。先ほど僕が「レビューするだけで良かった」とお伝えした部分がポイントです。「だいたいの切片の抜き出しまでをtoittaが担い、レビューからが人間の仕事」と考えると良いでしょう。
とはいえ、最新機能ではその先のグループ化もしてくれるらしいと伺ったのですが……。
米山 そうなんです。これまではインタビューの発話から切片を抜き出して提示するだけに留まっていましたが、最新機能では、切片のデータを抽象化する「1段階目のグループ化」まで自動で行います。単に切片をキーワードでまとめるのではありません。切片のもとにある書き起こしのデータをインプットし、文脈をふまえながら切片同士の近似性を見出してまとめるようなアプローチで抽象化を行っているのが特徴です。さらに、「なぜこのグルーピングになったのか」という理由も「グループサマリー」というテキストで添えられます。
羽山 素晴らしいですね。切片を正しくグループ化するためにはユーザーインタビュー全体の文脈が必要。AIにもとの書き起こしをもう一度読み込ませなければいけないという判断からも、UXリサーチや親和図法を解像度高く理解してプロダクトにされていることがわかります。
「AIがなぜこのグルーピングをしたのか」という理由が提示されるのも、AIプロダクトの体験として優れています。重要な意志決定や利害が大きいものほど、ユーザーはAIによるレコメンドなどロジックがわからない結論を提示されたときに鵜呑みにできません。たとえば重要な会議に遅刻しそうなとき、経路検索AIが予想と異なる経路を示したら、「どうしてこの結果になったの?」とユーザーは不安になります。もしAIが間違っていたら、遅刻してしまいますからね。
AIに結論だけを言われても人間は動けない。AIの思考はブラックボックスであることを理解しつつも、何とかしてAIの思考の過程を見せることは、AIプロダクトのUXデザインにおけるひとつのセオリーです。そういった観点から考えても、toitta自体も適切なUXデザインを体現していると思います。
米山 ありがとうございます。そう言っていただけて大変うれしいです。
私からtoitta活用のポイントとしてお伝えしたいのは、「顧客との対話を深め、UXリサーチを底上げするツールである」ということです。
toittaは、あなたが顧客を深く理解するための道筋を整えてくれます。導入するだけでインサイトを見つけてくれるサービスではありません。最終的に意志決定をして、どのようなプロダクトを開発するかを考えるのは、どこまでいっても人間の役割。toittaでファクトを取り扱いやすい形に整えたあとは、そこから顧客を深く理解し、良いプロダクトを作るために活用していただけたら嬉しいです。
親和図法をまだ取り入れていない企業もtoittaを通して始められると思いますし、すでに実践している場合は、間違いなくtoittaによってそのプロセスが楽になるはず。ぜひ活用してみてください。
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