クライアントの自走をサポートするプログラムと体制づくり
YUMEMI Service Design Sprintは、ゆめみが外部パートナーとして、クライアントとともに新規事業や新しいプロダクト、サービスを作っていくための開発支援プログラムだ。具体的なアイディアや明確なゴールがまだない、社内を説得するストーリーが必要といったプロジェクトの模索段階からサポートを行い、ゴールを設計し、ゆめみのノウハウと技術を駆使して高速で具現化していくことを目指す。
一般にデザインスプリントというと、Google Ventureが開発したフレームワークがよく知られているが、YUMEMI Service Design Sprintは、アジャイル開発におけるスクラムの手法を取り入れ、同社の知見を生かした独自のフレームワークを設計している。
ゆめみでは以前から、「顧客体験設計・サービスデザイン」というサービス名でクライアントの支援を行ってきたが、従来のサービスとYUMEMI Service Design Sprintとの違いはどこにあるのだろうか。今回、PO(プロダクトオーナー)の立場で全体の統括を行った本村さんは次のように語る。
「ゆめみは、開発会社としては広く認知されているものの、サービスデザインができることについてはあまり知られていないのが課題でした。そこで、社内のノウハウをさまざまな人に知っていただけるよう、パッケージに落とし込んだのが、今回のYUMEMI Service Design Sprintです。従来提供していた『顧客体験設計・サービスデザイン』は、どちらかというと受託色が強い形でプロジェクトを請け負い、クライアントの要望や進めかたに合わせながら設計していく流れでした。
一方でYUMEMI Service Design Sprintでは、デザインの進めかたや思考の過程、プロジェクト推進の方法をクライアントと一緒に学びながら進めていく。私たちからクライアントにノウハウをインストールし、学んでいただきながら、YUMEMI Service Design Sprintに対してもフィードバックを繰り返しいただく。このように、クライアントもゆめみも、ともに成長していくことを前提としたサービスです」
また背景には、クライアントが求めるものの変化もあるという。サービスデザイン領域での長年の経験を経てゆめみに入社し、本サービスのプログラムづくりに携わった栄前田さんは次のように補足する。
「ここ数年、クライアントの姿勢が『自分たちが欲するものの制作を外部に依頼する』ではなく、外部ベンダーが作ったものを評価したり、作るプロセスから見直すといったものに変化しています。ゆめみとしてもクライアントから依頼されたものを作るだけではなく、クライアントが自走するための伴走力を強くしていく必要があると考えています。そのために寄り添い、ともに取り組んでいくプロセスをもつのが、このYUMEMI Service Design Sprintの大きな特徴です」
実際のプロジェクトに入ると、丁寧なヒアリングを行ってクライアントのフェーズに合わせたチーム構成を行い、深くコミュニケーションが取れる体制づくりを行う。
「現在リリースしているYUMEMI Service Design Sprintは、システム開発の上流工程をメインのスコープとしています。そのため、支援させていただくプロジェクトの初期段階ではプランナーやデザイナー、PdM(プロダクトマネージャー)など、プロジェクトの要求の洗い出しや要件の整理に長けているメンバーが中心となり推進します。より具体化が必要な段階では、ビジュアルデザインが得意なデザイナーや、プロトタイプが得意なUXエンジニアが中心となりプロジェクトを進めていきます。
このように、サービスやプロダクトが具体化されたあとに大規模なPoCやリリースに向けた要件定義・開発が必要となる場合には、ゆめみの開発チームにプロジェクトのバトンを渡すという流れになります」(本村さん)
「本気になってもらう」マインドセットもインストール 開発のこだわりとは
YUMEMI Service Design Sprintはスクラムの開発手法を取り入れている。ゆめみには栄前田さんをはじめ、スクラムマスターの資格をもつスタッフが複数いるほか、過去の開発案件における実績もあり、社内の知見を生かしたプログラム開発を行った。
とくにこだわったのがサービスデザインの初期プロセスで、コンセプトづくりやアイディアだしを行うワークショップの設計だ。
「クライアントによっては、ワークショップはあまり気が進まないとおっしゃるケースも多い。それは、何につながるのかがわかりづらい、どう成果に結びつくのかがイメージできない部分があるからです。ではどうすればいいか。これから自分たちが取り組んでいくものや位置づけを確認し、ゴールを理解したうえで進んでいくという意思をプログラムにもたせること。そうすることで、いままでクライアントがお持ちだった不安やワークショップなどに対する不信感を払拭できるのではないかと考えています」(栄前田さん)
具体的には、スクラムのマインドセットをクライアントに共有したうえで一緒に進めていくこと、スプリントプランニングで、スプリント内のやるべきタスクに分解し、そのなかでも見える化すべきものを一緒に決めること、そのうえでデイリースクラム(朝会)を行っていくことなどが挙げられる。クライアントにインストールしてもらうマインドセットを一言で言えば、「本気になること」だと栄前田さん。
「受発注の関係ではなく、同じスクラムのチームであるというところを最初の段階で時間を取って確認しあう。関係性をきちんと作る。これをプログラムに組み込んでいます」
開発段階では、エンジニアの視点をサービスに盛り込み、実践的なプログラムにするため、フロントエンドチームのテックリードである桑原さんがレビューを行った。
「たとえばスプリントひとつとっても、どこまでタスクをバックログに詰めこむか、スプリントスパンとそのレビューの体制をどうするか、というような実践的なレビューを行いました。ただし、出てきたアイディアを尊重し、なるべく否定はせずに意見を言うことを心がけました」(桑原さん)
最大限活用できるクライアント像とは
受発注の関係ではなく、同じチームとして一緒に作っていくための仕組みを盛りこんだYUMEMI Service Design Sprintだからこそ、「これは自分たちのプロジェクトで自分たちのプロダクト、サービスだということを意識して、力を入れていく意志が強いクライアントにフィットするのではないか」と本村さんは語る。
とくに今後、自社でチームの組織や内製化を検討している企業にとっては、学びが得られるベストな選択となりそうだ。
「これからUXのチームを作ろうと思っているクライアントにこのサービスを経験してもらうことで、どうやって考えていけば良いのかを学ぶ機会にもなると思います。そのようにして一緒に学んでいくプロセスで活用することも、ひとつの使いかただと考えています。
もうひとつは、サービスやプロダクトだけいいものを作ろうと思ってもうまくいかず、それらを作るための組織、チームを作らなければならない。そのプロセスを知りたい、経験したいというクライアントにはピッタリではないでしょうか。また、社内のリソースを割くことが難しい場合には従来の顧客体験設計のサービスを用意しているので、そちらを活用していただければと思います」(栄前田さん)
「エンジニア目線で言えば、『コンウェイの法則』と近いのではないかと感じています。『システムを設計する組織は、そのコミュニケーション構造をコピーしたような構造の設計を生み出してしまう』、というメルヴィン・コンウェイ氏が提言した法則です。つまり、良いプロダクトやサービスを作るには、良い組織設計が、もっと言えば良いコミュニケーション設計が必要で、そのようなチーム、組織設計を考えているクライアントとは相性が良いのではないでしょうか」(桑原さん)
既存のサービスをもっているクライアントの場合は、ゆめみが提供している「UX/UIレビュー」サービスから接点をもってもらう形も効果的だという。
「UX/UIレビューで、どのようにしてデザインというマインドセットをサービスやプロダクト開発に取り入れていくかを経験してもらい、そこで洗い出したユーザー体験やUIの設計における課題を、このYUMEMI Service Design Sprintで一緒に開発する。このような手順を踏んで活用していただくのも良いかもしれません」(本村さん)
共創を生み出すサービスで「BnB2C」を実現する
最後に、本サービスの展望についてそれぞれ語ってもらった。
「現在のYUMEMI Service Design Sprintは、デザインやプランニング寄りのフェーズをメインスコープとしています。今後はこれまで以上に、ゆめみのコアのコンピタンスであるプロジェクトマネジメントチームやエンジニアリングチームともコラボレーションを深めていき、ゆめみが目指すBnB2Cを実現できるクロスファンクショナルなチームを提供できるようなサービスにしていければと考えています」(本村さん)
「本村も述べたように、ゆめみは受託開発の企業というイメージが強いかもしれませんが、本来目指すのは共創パートナーとしてともに作ること。このサービスが、その先駆けになってくれたらうれしいです」(桑原さん)
事業会社と受託会社の境目がなくなってきているのではないか――。栄前田さんはそう指摘する。そしてだからこそ、YUMEMI Service Design Sprintが受託会社と事業会社の境目を越境し、つないでいくサービスになり得るのではないかと見解を示した。
「共創は、実際にプロセス自体をともにすることが大切ですし、同様にスクラムを固定化しないこともとても重要です。そのため、このYUMEMI Service Design Sprintも今はこの形だけれども、1年たったら違う形になっているかもしれない。そのときに適した形に変わっていくことが、サービスとして目指していく姿ではないかと考えています」(栄前田さん)
ゆめみとクライアントによる共創をカスタマーへと届ける。それが、ゆめみの「BnB2C(ビー・アンド・ビー・トゥー・シー)」のビジネスモデルだ。YUMEMI Service Design Sprintは、そのモデルを今まで以上に実践・拡大していく一手となるだろう。