なぜA.C.O.はブランド設計を体系立てて扱えるのか
A.C.O.では創業当初、広告関連のウェブサイト制作などが多かった。だが2010年頃からそれだけでなく、デジタルブランディングの領域へとシフト。およそ2年前、デジタルコンサルティング事業やプロダクト事業(RPAツール、店舗向けオーダーシステムなど)をグローバルで展開するモンスター・ラボグループにジョインしたことで、開発もふくめたUXやサービスデザインなどの案件に取り組んでいる。そんなA.C.O.の特徴を倉島さんはこのように語る。
「UXと開発を同時並行的に進めるための体系的なプログラムを持っており、デザインも開発もシームレスにつなげることができる。そのため、ブランドエクスペリエンスを一気通貫で提供できることは、A.C.O.の強みだと考えています」
「ブランディング」という言葉は、クリエイティブの現場のみならずビジネスシーンでもよく耳にする。だがA.C.O.ではクライアントから「ブランディングをしてほしい」というオーダーが舞い込むことはほとんどなく、それよりも「こんなサイトを作りたい」、「こういったサービスをこれから提供していきたい」といった要望のほうが圧倒的に多いそうだ。
だが、その際にクライアントがイメージするのは「機能選定」や「アイディア」といった比較的表層的な部分。事業として進むべき方向や企業として提供したい価値といった「前提」が抜け落ちてしまっているケースも多い。そこで、その前提を捉え直す手法として、A.C.O.は人間中心設計とともに、ブランド設計を提案しているのだという。
「なにかを作る、つまり『まず目に見えるものにする』ということをA.C.O.はいままでやってきました。それもあって、コンサルティングフェーズの段階から『まず作ってみる』という文化が根付いています。
ですが、とりあえずであっても、作ったものをお客さまに見せる時には『なぜそうしたのか』を説明しなければなりませんよね。そうやって作る人が考えることを強いられていった結果、ブランド設計について論理的に説明できるスタッフが少しずつ増えていきました。ブランド設計を体系的に扱えるようになったのはそのおかげです。もともとブランド設計についてのキャリアやスキルがあったわけではありません」(倉島さん)
A.C.O.には「多様な案件で得た知見を次の現場で試せる」環境がある
では具体的にどのように組み立てていくのか。A.C.O.ではまず、クライアントに「辿るべきプロセス」を提示する。
「そのプロセスは、共感と課題定義、発想と仮説立て、調査と分析、作成と検証といった4段階に大別されています。事業の状況に合わせてどうアプローチしていくかの調整をすることはあるものの、大まかな流れは変わりません」
そう説明するのは、デザインプログラムマネジメントを実践するCXOの津山拓郎さんだ。
「まずは、顧客の事業にどんなミッションがあり、それを考えた事業に関わる人と社内文化はどうか、この事業ではどういった顧客に届いてほしいと考えているのか、それはなぜか――。根幹となる情報をまずは探っていき、クライアントが当初想定していた市場と顧客ターゲットや規模が合っているのか、市場調査と分析を通じて、着手すべきことを定義していきます」(津山さん)
そこからアイディアを出し、仮説を組み立てたのち、それが真にユーザーが求めるものなのかを調査で確認。その結果を分析したうえで、製品やサービスを発想して作っていく。デザインと開発、それぞれのサイクルを回し、かつ双方の間を行き来しながらプロジェクトは進められていく。製品やサービスをリリースしたあともユーザーの声をもとに、新たに見つかった課題を随時改善し、仮説立てとヒアリングを繰り返す。
「そこで重要なのは、デザイナーもプロジェクトの『全体』に関わっていくことです。たとえばビジネスの仮説立てやユーザー調査の過程においても、ブランド設計を担当するデザイナーがプロジェクトの最初から全体を通して関わるようにすることで、企業や事業としてユーザーに表顕すべき事柄を掴みやすくすることができます」(津山さん)
このように、デザイナーが関わりを求められる領域はどんどん広くなっている。サービスデザイン、ブランド設計、プロダクトデザイン――。A.C.O.に舞い込む案件の規模や業種も多種多様だ。だが「それが醍醐味である」と津山さんは考える。
「いまはデザイナーの役割が広がり、各人が専門領域を越境した活動をする中で、デザイナーはデザインに関わらずさまざまな知識に触れることができますよね。もちろんプロジェクトを成功させるという前提はありますが、A.C.O.ではそうやって得た知識を次の案件で実際に『試す』ことができる。実践で得た方法論を試して組織で振り返っていける環境が整っているのは、A.C.O.の魅力だと言えます」
BtoB案件の増加とサブスク普及の関係
A.C.O.が携わる案件で最近増加傾向にあるというのが、BtoBとブランディングにまつわるものだ。その理由を倉島さんは、「サブスクリプションの普及が一因にあるのではないか」と独自の見解を示した。
「BtoBサブスクリプションというのは、毎月ある企業やサービスにお金を払っていますよね。つまりクライアント企業は、毎月のようにそのサービスを査定しているような状態にあるわけです。そこで、『いまあるこの機能は使い勝手がいまいちだけれど、来月には改善してくれるかもしれない』というように、現時点での機能性よりも、今後への期待感を持ってもらうことが関係構築として重要になるんですよね」
とくにBtoB向けの社内ツールなどは、一度導入すれば付き合いが長くなることが多いものの、サービスや機能そのものに大きな差があるケースは意外と少ない。
そこで重要になるのが「ブランド」というわけだ。
「サービスそのものに搭載されている機能やできることが同じとなると、決定打になるのは、ビジョンへの共感や愛着、もっと言ってしまえば『なんか好き』という気持ちだったりする。とくにBtoBだと最終決定権は経営層が持っているケースが多いと思うのですが、やはり社員が好きなものを導入したいと思うんですよね。私もイチ経営者としてそう感じます。BtoBも意外と感情のゆらぎのなかで選択されている。それが『ブランド』という言葉に内包されているように思います」
だからこそクライアントとプロジェクトを進めるうえでも「正直な姿を見せることが求められていると思う」と倉島さんは明かす。
A.C.O.では2年ほど前まで、その多くは請負契約であった。ウェブサイトやスマホアプリなどを納品することで対価を得る形だ。だが最近ではブランド設計はもちろん、UIデザイン段階でも、稼働した人員とその時間が対価の基準になることが多くなってきたという。一緒に併走しながら案件を進めていくことにクライアントが価値を感じていることへの表れでもあろう。
「正面に座って『いかがでしょうか?』と提案するのではなく、横についてパートナーとしてお客様と併走していく。極端な言い方かもしれないですが、すべてを正直にさらけ出すことができる会社には勝てないと思うんですよね。僕ら自身がそれをきちんと示すことは大前提ですが、お客さまのそういった『正直さ』を引き出すような役割が求められているように考えています」(倉島さん)
それを受けて津山さんはこう続ける。
「いくら理想的な計画を立てることができても、それが実践できるもので、かつ成果がでなければ意味がない。クライアントが真に必要としているのは、ともにビジネスを考えながら進めてくれる、パートナーのような存在だと思います」(津山さん)
B2Bのビジネスでこれから求められるのは「マイクロブランディング」
今後、ブランディングはどのように変化していくのだろう。そう尋ねると倉島さんは「BtoBが顕著なだけですが」と前置きしたうえで、これから大切になるのは「マイクロブランディング」との見解を示した。大多数に向けてブランドを届けるのではなく、ユーザーの細かな嗜好にあわせたブランドを展開するマイクロブランド化が進んでいるといわれるなか、ブランディングでもそれを意識する必要があるという。
「ユーザーは、あらゆる接点を通じて、そのブランドを感じていますよね。だからこそ、普段の営業活動やカスタマーサクセス、マーケティング、サイトのUIなどそのすみずみまで『こうありたい』という姿勢を行き渡らせることが大切。そういった、マイクロ“ブランディング”が今後はより求められていくのではないでしょうか」
デザイナーが「なぜそうなのか」を論理的に説明するスキルを身につけ、その方法が体系化されていることで、ユーザーが求めることを作るだけでなく、“ブランディング”にまで踏み込むことができる。そうやってプロジェクトの全体にデザイナーが関わることが可能になるからこそ、企業と併走できるのだろう。A.C.O.は今後もさまざまな企業の横にぴたりと寄り添いながら、そしてときには鼓舞しながら、課題解決に向けて走り続けていくに違いない。