大日本印刷(以下、DNP)は、映像制作会社などに向けて、地域の文化資源を活用したバーチャルプロダクション用の高精細3次元コンピューターグラフィックス(3DCG)データの提供を開始した。
DNPは2021年から、リアルとバーチャルの空間を融合する「XR(Extended Reality)」の技術を活かし、新しい体験と経済圏を創出する「XRコミュニケーション事業」を展開しており、今回、「神田明神(東京都)」「世界遺産 仁和寺 国宝『金堂』(京都府/以下、仁和寺「金堂」)」を高精細3DCGデータで制作。外観を忠実に再現するため、歴史ある建築物ならではの外壁や木材の質感、屋根の勾配や曲線、また、それらが醸し出す自然な陰影の表現力が特徴となっている。
9月4日(月)に「神田明神」を、ソニーピーシーエル(以下、ソニーPCL)が運用するデジタル背景のライブラリー「BACKDROP LIBRARY」で公開、3DCGデータの提供を開始した。なお、「仁和寺『金堂』」は、2023年11月中旬以降に同サイトで公開、提供開始予定。
取り組みの背景
バーチャルプロダクションは、スタジオに設置したLEDに3DCGを背景として投影し、その前で人や物を撮影することで、あたかも現実の世界で撮影したような映像をつくり出す手法。近年、国内外での利用が拡大していることに対して、高精細の3DCGデータのバリエーションはまだ少なく、使用許諾に時間や手間を要する公共施設や、破損などの防止から保護対象となる文化財などの3DCGでの利活用ニーズがとくに高まっている。
このようなニーズ・課題に対してDNPは、文化財のデジタルアーカイブ事業などで培った高解像度画像の変換・加工・最適化技術と、XRコミュニケーション事業で培った3DCG制作の強みを活かし、バーチャルプロダクション用の高精細3DCGデータの提供を開始した。
バーチャルプロダクション用の背景3DCGデータの特徴
1.3DCGデータとして文化財を活用することで、「文化の継承」と「映像制作」に貢献
DNPは対象物へ負荷をかけずに3Dデータを取得し、3DCGとしてバーチャルプロダクションへ展開することで、文化財の保存や活用と、映像制作における課題解決の両立を目指す。また、文化財の所有者にデータとしての使用対価を還元することで、新たな収益モデルの構築を目標としている。
2.高精細でリアルな背景(ロケーション)用3DCGデータ制作技術
今回、3DCGデータの制作には、DNPが文化財アーカイブ事業などで培った独自の撮影・加工技術による3Dデータ上での微細な凹凸情報などの表現に加え、バーチャルプロダクション特有の撮影に連動したリアルタイムな陰影情報の表現を施した。それにより、光源の位置や撮影アングルが変化しても、適切な陰の形状や陰影の強弱が表現できる。映像制作会社などは忠実に再現した文化財を背景に使用できるだけでなく、3DCGならではのエフェクト(効果)の使用など、演出の幅を広げることができる。
3.3DCGデータの制作時間を短縮し、早期提供を可能に
DNPは、文化財以外にも国内外で3,000件以上の豊富な計測実績を持つ協力企業と連携し、同社保有の“点群データ”を活かしたバーチャルプロダクション用データを提供。計測済みの点群データの活用によって、精度が高く臨場感のある3DCGデータを短期間で制作できるため、企業などが求める背景(ロケーション)の早期提供を可能にする。
今後の展開
DNPは、バーチャルプロダクションで求められる多様なロケーションニーズに対応するとともに、提供する3DCGデータのさらなる品質向上を推進する。また、関連サービスの展開や海外での販売も視野に入れて、2028年度までに累計20億円の売上を目指す。今後も、地方自治体の文化資源の活用による地域活性化の支援など、さまざまな事業を展開していく。