博報堂DYホールディングスと体験拡張企業のMESONは、共同で研究を進める、現実世界とサイバー空間を融合させた新たなコミュニケーション体験構築プロジェクト「GIBSON（ギブソン）」において、東京都渋谷区神南エリアを舞台としたAR／VR融合の周遊体験の実証実験を実施した。同取り組みは国土交通省主導の3D都市モデル整備・オープンデータ化プロジェクトである Project PLATEAUの一環として、2021年3月8日から3月16日にかけて実施された。
同プロジェクトは、現実世界の3Dコピーである「デジタルツイン」を用いて「サイバー空間」を構築し、そこにログインする遠隔地のVRユーザーと現実世界のARユーザーとがあたかも同じ空間で場を共有しているようなコミュニケーション体験を可能にするもの。
今回の実証実験では、3D都市モデルを活用して構築されたバーチャルな神南エリアに遠隔地からアクセスするVRユーザーと、実際に神南エリアにいるARユーザーとが、あたかも同じ空間を共有しながらともに周遊散歩体験をしているかのような体験を提供した。渋谷の魅力を新たに発見してもらうことを目的に、現実空間とバーチャル空間中の同じ場所にその場所に関するAR／VR共通の空間コンテンツを設置した。
2021年3月8日から3月16日にかけて、これまで検討してきたAR／VRの横断型のコミュニケーションを都市スケールで展開すると、ユーザー間のインタラクションがどのように変化し、どのようなユースケースが可能になるか、ふたり1組で4組にGIBSONを体験してもらい、その効果を検証。
実験の結果、フィジカル空間にいる人とサイバー空間にいる人が物理的距離を超えて「街歩き」体験を共有し、離れた人とも一体感を持ってコミュニケーションを取れること、さらに、AR／VR共通のコンテンツを配置することで、街に関する発見や街の魅力向上につながりうることがわかった。
今回の実証実験でおきたXR技術を用いた情報呈示による生活者の都市の回遊行動に生まれた変化は、GIBSONプロジェクトが当初想定していた、観光、イベント、ショッピング体験といった特別な日の体験ユースケースのみならず、日常のコミュニケーションプラットフォームとしての活用にも大きく可能性を開いたものと考察される。
実施概要
現地にいるAR側の参加者がARグラスのNreal Lightを使用して渋谷区の神南エリアから、遠隔地にいるVR側の参加者がVRグラスのOculus Quest 2を使用してMESONのオフィスで今回の体験に参加。ふたり組の体験者は30分間の空き時間のなかで、お互いの好きな場所や、盛り上がっている場所を探してなるべく多く紹介し合う、という想定で街歩きを行った。
3Dモデルには国土交通省がProject PLATEAUで構築している都市3Dモデルを活用してVR空間を構築。渋谷・神南エリアの新たな魅力を発見してもらうための仕掛けとして、街のスポットに関する情報コンテンツを、ARによって提供される拡張現実空間とVR空間の両方に設置した。
街歩き体験における次の3点を通常の街歩きと比較するため、GIBSON体験者と同数の体験者に通常の街歩きを行ってもらった。
- コミュニケーションの質
- 街に関する発見性
- 街に感じる魅力
街歩き中の行動ルートを記録し、どのような場所にどのくらいの時間滞在したかを測定。また、体験終了後に体験に関するアンケートとヒアリングを実施することで、体験の質やGIBSONに対する改善要望について確認を行った。
実験結果サマリー
アンケートやインタビューの分析を通して、次のことがわかった（n=4） ※各設問に対し7点満点で回答（街に関する発見性を除く）
コミュニケーションの質
- 離れている人とも一体感を持ってコミュニケーションが取れる：6.0／7点（対通常の街歩き比+1.4点）
- 街のなかに配置されたコンテンツやGIBSONの機能（空間に写真やコメントを投稿・閲覧できる機能。またARユーザー目の前で起きていることを動画を通してVR空間に配信できる機能）により新たなコミュニケーションが生まれる：6.0／7点（対通常の街歩き比+0.5点）
- 相手とのコミュニケーションにより、親密性が高まる：6.0／7点(対通常の街歩き比+0.4点）
街に関する発見性
街歩き体験中の行動パターンの分析を通して、次のことがわかった。
- 立ち止まる場所の数は増える：対通常の街歩き比+109.7％
- 訪問場所と記憶の一致率が高まる：対通常の街歩き比+400.8％
街に感じる魅力
- GIBSONで見たお店や建物のなかに入りたいと思う：6.6／7点（対通常の街歩き比+0.5点）
- ほかの人ができないような体験を実現出来た：6.4／7点(対通常の街歩き比+2.4点）
