「重要なのはAI利活用サイクル」 電通デジタル、新たなAIサービスブランド「∞AI」のもとビジネス革新推進へ

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2023/10/06 16:00

 電通デジタルは、AIを活用した企業の次世代マーケティング活動を統合的に支援するため、同社が展開するAIサービスブランドを新たに「∞AI(ムゲンエーアイ)」(※)と定めた。そして、生活者が商品・ブランドを発見し、理解し、ファンになることをサポートする3つのAIアプリケーション「∞AI Ads(ムゲンエーアイ アズ)」、「∞AI Chat(ムゲンエーアイ チャット)」、「∞AI Contents(ムゲンエーアイ コンテンツ)」と、それらの基盤となるプラットフォーム「∞AI Marketing Hub(ムゲンエーアイ マーケティング ハブ)」の提供を開始する。

※:2022年12月に発表した「∞AI(ムゲンエーアイ)」は「∞AI Ads」に改名した。

「∞AI」ブランドの全体図
「∞AI」ブランドの全体図

 昨今、生成AI市場の急激な拡大にともない、多くの企業で顧客とのエンゲージメント向上を目指したAI活用によるサービス・プロダクト開発の検討が行われている。そのような中、企業の目的や特徴に沿った最適なAIソリューションの活用や、企業が保有するデータとAIのシームレスな連携など、事業成果を最大化させるための対応が急務となっている。

 これについて、AI事業戦略発表会に登壇した執行役員データ&AI部門長の山本覚氏は「顧客接点がパーソナライズ化されるだけではない」と指摘。次のように続けた。

「対話をとおすことによって生の声を蓄積できるようになるため、リッチなデータの取得が可能になります。さらにそのデータを生成AIが学習し、それらをもとに人間が新たな価値や事業を生む――。そんな『AI利活用サイクル』を回すことが重要だと考えています。それを実現するために我々は、3つのアプリケーションとハブとなるプラットフォームをリリースしました」

 「∞AI」の各サービス詳細は次のとおり。

∞AI Ads(ムゲンエーアイ アズ)

 デジタル広告の運用型広告において、広告クリエイティブ制作のプロセス「訴求軸発見」「クリエイティブ生成」「効果予測」「改善サジェスト」ごとに搭載された各AIが一連の流れを途切れることなく支援し、バナー広告や検索連動型広告の改善に寄与するアプリケーション。

 2022年12月に「∞AI」という名称で一部企業への先行導入を、翌2023年3月にはGPT-4の実装を行い、今回同社のAIサービスブランド制定にともなう「∞AI Ads」への改名とサービスアップデートを行い、本格提供を開始する。

「∞AI Ads」の概要図
「∞AI Ads」の概要図

今回のアップデート内容

  1. 対応する広告配信プラットフォームの拡大:広告配信プラットフォームを拡大し、「効果予測」「改善サジェスト」機能において、より精度の高い予測や改善案の提供が可能になった。
  2. 対応する広告メニューの拡大:すべての工程において、従来のバナー広告に加え検索連動型広告への対応が可能になった。

実績

2022年12月より一部企業への先行導入を実施し、「改善サジェスト」機能などを反映することにより、CPA(1件のコンバージョンを獲得するためにかかった費用)が50%以下に削減される事例もあった。

今後の展開

新機能として、広告バナーの自動生成と動画広告の効果予測を開発中で、PoC(実証実験)を通じ順次提供予定。

 これについて山本氏は「今後ますます動画広告が増えていきますし、とくにブランド広告ではより具体的なイメージを持ってもらうことが重要です。動画を絵コンテに落とし込むことで、全体感をふくめ予測できるようになっています」と自信をのぞかせた。

∞AI Chat(ムゲンエーアイ チャット)

 企業の独自データを活用し、ユーザーへのパーソナライズ対応を実現した対話型AI開発を支援するアプリケーション。ウェブサイトやLINEなどのコミュニケーションツールとの接続が可能なため、顧客や従業員とのコミュニケーションの質と効率の向上を支援する。

サービスの特徴

1.対話型AIを容易かつ手軽に作成可能

参照する企業の独自データをCSVやpdf形式でシステムにアップロードすることで、簡易に対話型AIを作成することができる。また、アップロードされたデータは自動で構造化(重要な情報のみ抽出)され、対話の精度向上やLLM使用コストの削減が可能となる。

発表会のデモンストレーションでは、同社の紹介資料PDFを読み込ませたあと、∞AI Chatが質問に回答する様子が披露された。
発表会のデモンストレーションでは、同社の紹介資料PDFを読み込ませたあと、∞AI Chatが質問に回答する様子が披露された。
2.各種コミュニケーションツールとの接続

作成された対話型AIはウェブサイト、LINEアカウント、Teams、Slackなどのコミュニケーションツールとの接続が可能なため、企業と顧客との対話への活用だけでなく、社内利用への活用もでき、従業員とのコミュニケーションにおいても質と効率の向上が期待される。

3.対話型AIの導入・運用支援

同社のクリエイティビティを活かし、対話するキャラクターの性格設計やチャット画面のUI/UXデザインの支援、プロンプトインジェクションやハルシネーションの対策についてのコンサルティングなどの実装支援もあわせて行うことが可能。

実績

 担当商材に関する過去の流行データや傾向を学習させた対話型生成AIを開発した。企業の扱う商材に関して、今後どのような商材が流行するのかなどを予測、方向性や切り口の提案などをAIが行い、企業内での企画業務の効率化に成功した。

今後の展開

 限られた時間内での営業活動の効率化を支援する「∞AI Chat for Sales」、またコンタクトセンターにおける従来からの電話応対だけでなくウェブ上での接客などを支援する「∞AI Chat for Contact Center」など、企業のニーズに合わせた、より専門性の高いバージョン展開を予定している。

∞AI Contents(ムゲンエーアイ コンテンツ)

 電通デジタルがこれまで培ってきたクリエイティビティを活かし、AI活用によるバーチャルヒューマンやオウンドメディア構築など、ユーザーエンゲージメントを高めるサービス・プロダクトを提供する。同社の500人を超えるクリエイターがプランニングならびに実装支援を行う。

サービスの特徴

1.バーチャルヒューマン構築

過去の会話データや企業データに加え、対象者の表情や仕草、声サンプルをAIに学習させることによって、自然な会話を実現するバーチャルヒューマンを生成する。回答が用意されているデジタルツインなどと異なり、リアルタイムでの質疑応答ができ、より人間らしい対話が行えるため、ユーザー体験価値を向上させる。

発表会では、同社代表取締役社長 瀧本恒氏のバーチャルヒューマン(画像右)と山本覚氏(画像左)が実際に会話する様子も見られた。15分程度で声を事前収録したのち、2週間程度で開発されたものだと言う。
発表会では、同社代表取締役社長 瀧本恒氏のバーチャルヒューマン(画像右)と山本氏(画像左)が実際に会話する様子も見られた。15分程度で声を事前収録したのち、2週間程度で開発されたものだと言う。
2.オウンドメディア構築

バーチャルヒューマンをオウンドメディアに配置し、ユーザーとのリアルタイムな音声対話を可能とする。企業のそれぞれの課題解決や新しい価値創造のため、音声対話によるパーソナライズされたコンテンツの提供を通じて、ユーザーの体験価値向上を目指す。

今後の展開

 これらのケイパビリティを活用し、今後も「∞AI contents」で支援可能なサービスラインアップは順次拡大していく予定。

∞AI Marketing Hub(ムゲンエーアイ マーケティング ハブ)

 生成AIのパフォーマンスをさらに高めるためのプラットフォーム。多様なデータを一元管理できる「データハブ」、データハブ内のデータを処理し目的に応じた最適なAIの選択・統合・制御を行う「AIハブ」で構成される。これらふたつの機能をシームレスに連携させることで、企業の広範なニーズに対応しながら最良のマーケティングパフォーマンスを生み出す。また、「∞AI」内のアプリケーションの基盤としてだけでなく、企業独自のサービス開発の基盤としても活用できる。

サービスの特徴

データハブ

国内電通グループが保有する広告配信データ、ソーシャルリスニングなどのトレンドデータ、パネルアンケートや実施調査によるナレッジデータを蓄積・連携している。また企業が保有する1st Partyデータとの接続も可能で、さまざまなデータを一元的に活用することができる。

AIハブ

データハブで取得・連携したデータを処理し、そのデータの整理や画像・テキストを生成する。ChatGPTなどのLLMや画像生成AIなど、多様なAIにアクセスできる。これにより、企業の目的に応じ、公平性や安全性を保持し最適なAIの選択・統合・制御を行い、またログ解析を通したアウトプットの効果最大化を実現する。

実績

 すでに国内電通グループ内での運用を開始しており、世界中のニュースの動向をデータハブで学習し、AIハブが最適な広報活動を提示する国際広報AIを開発し、株式会社電通内で導入が進んでいる。

今後の展開

 既存のLLMに独自のデータを学習させ、より企業のニーズに対応することができる電通デジタルカスタマイズのLLMの開発を行い、展開を予定している。