IT関連およびデジタルコンテンツの人材育成スクール「デジタルハリウッド」 が運営をする、動画教材とライブ授業専門の「デジハリ・オンラインスクール」は、過去1年間に入学した受講生2,034名を対象に「クリエイターと生成AIに関する意識調査2024」を9月に実施し、その調査結果を公開。
本調査では、生成AIがクリエイターの創作活動に与える影響や、それに対する意識が浮き彫りとなった。生成AIの利便性を評価する一方で、法整備の遅れや情報不足に対する不安を抱く声も多く、クリエイターたちが直面する課題が明確になっている。
調査の背景
生成AI技術が急速に進化するなか、デジタルクリエイティブ分野において、クリエイターの意識や心情が必ずしもその変化に追随しているとは限らない。デジハリ・オンラインスクールでは、クリエイティブ初心者からベテランまで幅広い層を対象に、2024年のクリエイターたちが生成AIに対して抱く印象や、それがクリエイティブな視点や価値観に与える影響、さらには生成AIに関する情報収集の手段について調査を実施した。この調査を通じて、クリエイティブ業界の持続的な発展に向けて何が障害となっているのか、解決すべき課題を明らかにすることを目指している。
「クリエイターと生成AIに関する意識調査2024」の詳細
- 調査期間:2024年9月14日(土)~2024年9月19日(木)まで
- 調査機関:デジハリ・オンラインスクールの独自調査
- 調査対象:2023年9月1日から2024年8月31日までにデジハリ・オンラインスクールのクリエイティブツール(Adobe Creative Cloud)を利用する講座へ申し込んだ人
- 有効回答数:2,034件
- 調査方法:ウェブアンケート
本調査では上記の内容に加えて、生成AIサービスへの課金率や、クリエイティブ観の変化などさまざまな角度からデータを深掘りしている。
「クリエイターと生成AIに関する意識調査2024」主な結果
半数のクリエイターが、週に1回以上生成AIを利用している
「生成AIを利用したことはありますか?」という問いに対して、47.3%のクリエイターが「週に1回以上利用している」と答えた。世代別では、「毎日利用している」と回答した割合がもっとも高かったのは50~54歳(13.19%)、次いで35~39歳(12.46%)であり、これらの世代は仕事の生産性向上や効率化のために生成AIを積極的に導入していることがうかがえる。一方で20代においては、「利用したことがない」割合が高く、教育機関での生成AI利用が限定的であったり、SNSでの批判的な意見を目にする機会が多かったりするため、より慎重になっている傾向があると考えられる。
世代別に生成AIの利用用途を集計したところ、いくつかの特徴的な傾向が見られた。とくに「コード生成」の割合は全体としては少ないものの、20代から30代の世代においては10%を上回っており、プログラミングスキルがキャリア形成において重要視されている世代では、生成AIが良き学習相手・相談相手として活用されていることがうかがえる。
一方で、20代における「画像生成」や「動画生成」の利用が低い点も着目すべき点。30代以降の世代がビジネスの効率性を重視し、時間を節約しながらプロフェッショナルな結果を得るために生成AIツールを活用しているのに対し、20代では既存のSNSプラットフォームやアプリが充実しており、これらを利用して手軽に制作が可能なこと、著作権に関する懸念やリスクを総合的に判断した結果、他世代に比べて生成AIの利用を控える傾向がある可能性もある。
利用している生成AIサービスは、ChatGPTとAdobe Fireflyが人気
もっとも利用している生成AIサービスを問う設問では、「ChatGPT」が全体の71.7%、「Adobe Firefly」が38.8%と、とくにこのふたつのツールが多く利用されていることがわかる。なかでも「ChatGPT」は割合が高く、文章生成や対話型AIのニーズが強いことが示されている。また「Adobe Firefly」の利用率が高い理由については、回答者がデジタルハリウッドの受講生であることから、常に最新のテクノロジーを取り入れ、実務や学習に活用している様子がうかがえる。
グラフィック制作に携わるクリエイターはやや消極的
「イラストや音楽をはじめとした「クリエイティブな活動における生成AIの利用」について、あなたはどのように考えていますか?」という設問では、全体の約58%が「活用したい」と回答した。
年齢別では、年齢が上がるにつれて生成AIの利用に対する積極的な姿勢が強まっており、とくに40歳前後の層が生成AI活用に対してもっとも積極的であることがわかる。また、年齢が上がってもAI活用に対する関心が低下せず、50歳以上でも前向きな姿勢が多く見られる。
その一方、クリエイティブ分野別で見たときに、動画編集に携わっているクリエイターの43.2%、ウェブ制作に携わっているクリエイターの39.6%が「生成AIを積極的に活用したい」と答えているのに対して、グラフィック制作に携わっているユーザーは33.4%にとどまっており、より慎重になっている様子がうかがえる。
学習モデルへの利用47%が受容もガイドラインの整備が必要
自分の創作物が生成AIの学習データとして使われることに対しては、47%の人がポジティブな反応を示し、13%はニュートラル(中立)、40%はネガティブな反応を示した。ポジティブな意見の中でも「データの許可・不許可が選べること」や「報酬が発生する仕組みがあること」が条件として挙げられることも多く、「(受け入れはしつつも)時代の流れなので仕方がない」といった声も見られた。また、テキストデータならOK、写真ならOKといった、創作物のカテゴリによっても異なる反応があった。
ポジティブ・ネガティブを問わず、共通して生成物の著作権やクリエイターの権利に関する不明確さが問題視されており、法整備やガイドラインの確立が、安心して生成AIを利用できる環境の構築に必要であることがわかった。
また、Adobe製品の利用歴別では、1年未満の初心者から10年目を迎えるまでは、段階的にネガティブな傾向が強まる傾向が見られた。利用開始から6年以降、10年目のクリエイターは、ちょうど創作活動が軌道に乗ってくる時期であり、生成AIによる学習に対して危機感を抱くことが多いと考えられる。一方、11年以上Adobe製品を使っているクリエイターはポジティブな割合に転じており、業界全体の発展に貢献したいという思いが強い傾向にあることが示唆された。
情報源は主にSNS、「いやでも耳に入ってくる」状況
「生成AIに関する情報を積極的に集めていますか?」という質問に対しては、「集めている」と答えた割合が30%、「どちらともいえない」が38%、「興味がない」が22%と、多くのクリエイターが生成AIを利用しているにもかかわらず、積極的に情報収集をしていないことが明らかになった。また、「生成AIに関する情報を知るために、参考にしているメディアやウェブサイトはありますか?」という問いに対しては、「特定のメディアはない」が42%、SNS(22%)、YouTube(13%)、ニュースメディア(6%)の順となった。
クリエイターが「生成AIに任せたくない」分野とは
あえて「ここは生成AIに任せたくない」と考えていることはありますか?という質問に対しては、「アイデアやコンセプト、独自性を確保するといった制作の基となる部分」という回答がある一方で、「作品の最終仕上げやクリエイティブな判断とする部分」という回答もあった。