こんにちは!UI/UXデザインカンパニー・アジケでUXデザイナーをしている佐藤李里(サトウリリ)です。この連載のテーマは、UXデザインの中でもとくにおざなりになりがちな「リサーチ」についてです。
「リサーチってやらなければいけない気はするけど難しそうだし、お金と時間もかかりそう」という印象を持っている方もいるかと思いますが、この連載では、限られた工数でできる実践的な方法を紹介していきます。「やらない理由あれこれ」を抹消し、連載が終わる頃には皆さんが「まずは始めてみよう!」と思える状態になっていただけたらうれしいです。
大切なのは、自分とユーザーは違うという前提でユーザーを知ろうとすること
そもそもUXデザインにおけるリサーチとはいったいどんなものなのでしょうか。
『ウェブ戦略としての「ユーザーエクスペリエンス」―5つの段階で考えるユーザー中心デザイン』の著者、Jesse James Garrett氏は同書のなかで以下のように述べています。
user-centered design means understanding what your users need, how they think, and how they behave—and incorporating that understanding into every aspect of your process.
(訳)ユーザー中心デザインは、ユーザーのニーズ、考え、そして行動を理解すること。そしてその理解をプロセスの全ての側面に組み込むことだ。
※UXデザインやuser-centered designの違いについては諸説ありますが、ここでは本題からそれるため、同様の意味で使っています。
また、UXの世界的権威であるニールセンノーマングループでも、「UX Without User Research Is Not UX」、つまりユーザーリサーチなきUXはUXではないという記事も書かれています。
UXデザインというと、とかくペルソナやカスタマージャーニーマップなどに注目が集まりがちなようにも思いますが、まずはユーザーのことをよく理解することが必要であり、その方法がユーザーリサーチだと考えています。
とはいえ、実際のデザインの現場では「時間がないのでリサーチはできないけれど、ユーザーの立場で考えて作っています」という状況になることも意外と多いかもしれません。ですが、リサーチせずにサービスを作ることは、以下のような状態に近いのではないでしょうか。
- 「音楽が好き」という友人に自分の大好きなメタルバンドを教えてあげたら、「それはあまり興味がない」と言われた。
- 友人の悩みを打ち明けられたので解決方法をアドバイスしたものの、反応がイマイチだった。
これらに共通するのは、「相手のためを思って行動したものの、自分の価値観と相手の価値観が違ったので、相手には響かなかった」ということです。
リサーチなしにユーザーのことを思って作るというのは、“自分の”想像上のユーザーに対して、その人に価値があると“自分が”思うものを提供することと同じ。それが本当に相手のためになっているとは限らないのです。そのギャップを解決せずにそのまま開発を進めリリース後に玉砕してしまったら、それまでデザインや開発に費やした多くの時間を無駄にしてしまいますよね。
一方、まずは友人にどんな音楽が好きなのかを聞き、そのジャンルに精通するまで調査したうえでオススメを教えることができていたら。また、友人は悩みを解決してほしくて相談したわけではなく、ほかのことを期待していた、ということが想像できていたら――。より相手に刺さる価値を提供できていたのではないでしょうか。
人間同士は、思っている以上に理解しあえていないものです。とくに、サービスを作る側と使う側の理屈は大きく違うように感じる場面は多々あります。たとえ自分がそのサービスのユーザーだったとしても、自分はあくまで「ITを仕事にしており、ある程度のリテラシーを持ち合わせる人」や「そのサービスの機能を考える人」であって、一般ユーザーとは異なります。まずは自分とユーザーは違うという前提に立つこと。そして、ユーザーをよく知ろうとすること。これこそが、ユーザーにしっかり使ってもらうプロダクトを作るための第一歩なのです。
リサーチは、早い段階でリスクを減らすためのものでもあります。時間がない場合には、リサーチではない別の部分を削りましょう。ユーザーは自分に“役に立つ”サービスを利用するのであって、おしゃれでも自分に“役に立たない”サービスには見向きもしないのですから。