リモートワークが増えた今だからこそ考えたい これからのデザイナーに必要なコミュニケーションとは

リモートワークが増えた今だからこそ考えたい これからのデザイナーに必要なコミュニケーションとは
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 新型コロナウイルス感染拡大を受けリモートワークが広がりつつある今、通信環境、作業するモニターや椅子・机といった物理的な問題からコミュニケーションの取りかたまで、さまざまな課題に直面している企業も多いように感じます。チームで作業を進めることが多いとされるクリエイティブワークにおいて、企業はどのように対応しているのでしょうか。今回は事例を交えながら、RelicのCCO・黒木裕貴さんにアフターコロナを見据えたチームづくりについて紹介していただきます。最終回となる第3回は、「コミュニケーションの観点から考える、今後のデザイナーに求められる能力」がテーマです。

 本連載でもお伝えしてきましたが、アフターコロナにおいては働きかたが大きく変わってきています。一定期間にわたって在宅期間が実行されたことによって、今まで習慣的に継続されていた業務が「本当にやるべき業務なのか?」「出社しないとできない業務なのか?」と改めて考えるきっかけを得た企業も多いのではないでしょうか。

 とくにデザイナー/エンジニア職のような専門職はひとりで作業に向き合う時間も多く、緊急事態宣言が発令されていた自粛期間中においても比較的スムーズにリモートワークへの勤務形態へと移行できたのではないかと思います。

 しかし、自宅でひとり作業ができるのは、周りに頼らずとも仕事が完結できるレベルであるからにほかなりません。

 プロダクト開発の仕事の多くはチームで生まれます。とくにデザインは、デザイナーだけでなく、エンジニアやマーケター、プロダクトオーナーなどさまざまな専門家との協力よって作り出されます。

 デザインの領域は抽象度の高い意見やフィードバックもたびたび発生するため、正しく伝えなければ、思い描いていたものとは異なる仕上がりになる可能性もあるでしょう。また、直接会ったことがないクライアントにむけて、制作したデザインの意図を説明する機会も増えれば、言葉だけのコミュニケーションでは齟齬が起きることもあるかもしれません。

 そのような状況で重要なのは、リモートワークで得た効率的な働きかたを活用しながらもコミュニケーションのリスクを減らし、リアルな場にいるときと変わらない意思疎通ができることです。今回はそのようなコミュニケーションの課題を解消するために必要な「曖昧な表現との向き合いかた」について述べていきたいと思います。

株式会社Relic Designer 石山さん
株式会社Relic Designer 石山さん

曖昧な表現が招くコミュニケーションの崩壊

 「曖昧な表現」というのは便利なようにも思いますが、チーム開発に悪影響を及ぼす危険性もはらんでいます。

 デザイナーの中には「なんかイケてない」、「UXを改善してほしい」といった抽象度の高いフィードバックに、頭を悩ませた方も多いのではないでしょうか。「UX」「デザインシンキング」など、海外発の新しい言葉や概念が広く使われるようになったものの、言葉の意味を深く理解せずに用いてしまうケースも多々あります。

 書籍『UX言論 ユーザビリティからUXへ』では、UX白書やISO、W3Cといった著名な人たちや組織の定義を紹介したうえで、UXという言葉を以下のように伝えています。

  • ノーマンが最初に提唱して以来、UXという用語は多数の人々によって、それぞれ異なる意味に使われるようになってしまった。
  • 相互にかなり近い内容を語っているとはいえ、これらの定義には表現だけでなく内容についても揺れが大きくなっている。
  • また巷では、なぜかUI/UXというようにUXがUI(ユーザインタフェース)に対して用いられることが多く、そのため、その違いが良く分からないとまで言われている。

 個人によって定義や考えかたが異なる要因は、理想的な「UX」について関係者間でしっかりと認識あわせができていないからだと思います。UXという言葉はあえて使わずに、サービスの目的や利用者についてじっくり考える必要があるかもしれません。

 UXだけではなく「なんとなく伝わるけれど定義は人それぞれ」という言葉も多いように感じます。だからといって「良いUI」、「かっこいい」、「使いづらい」といった感覚的な言葉を禁止することはできません。重要なのは曖昧な表現を深堀りすることで、その裏に隠れているフィードバックを言語化し、プロダクトに反映することなのです。

 ここからは、曖昧な表現を深堀りするための方法、そしてフィードバックを言語化するための枠組みについてそれぞれ解説したいと思います。

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