第8回から第10回では、創造と破壊を繰り返すアーティストの思考から変化への対応する力について考えた。変化は常に起こりうる。NFTアートといった新しいアートのかたちも生まれている。今回も、引き続き変化への対応力とアートという観点から、新しいサービスとの向き合いかたについて考えていきたい。
未来に残す感情とアート作品
COVID-19が急速に蔓延してから約1年が過ぎた。今振り返ると、緊急事態宣言が発令された昨年2020年4月は、先の見えない不安や恐怖で情報が錯綜し、状況をきちんと見極めることはできていなかった人も多いのではないだろうか。
入学式や卒業式は中止となり、人々の出会いと別れにも少なからず影響した。会議はリモートにシフト、対面での接待や会食はなくなり、人々の付き合いかたも変化を強いられている。試行錯誤の中、私自身も慣れないリモート対応でプロジェクトを推進していたのを覚えている。
現在はというと、少しずつであるが以前の日常に戻りつつあると感じる場面もある。外出する人は確実に増えているし、Zoom飲み会よりも会って人と話をしたいものである。COVID-19によるデジタル化・DXの加速とは言われつつも、多くの人にとってはこれまでの生活や働きかたのほうが自然なため、意識的に変化に向き合わない限り、多くの部分は元の日常に戻る可能性が高い。
だからこそクリエイターやビジネスパーソンは、これまでの負の遺産はこのタイミングできちんと清算しなければいけない。今変化することができなければ、一生変われない可能性すらあるように思う。会社や組織の制度、個人の働きかたやマインドなど、意識的に改革する必要がある。
先が見えない中で、変革を進めることはとても困難だろう。だからこそ、今を生き抜いた組織や人は強い。シリコンバレーで有名なユニコーン・ベンチャーが生まれたのは2001年と2008年と言われているが、これらの年はネットバブル崩壊とリーマンショックが起こった年である。クリエイターやビジネスパーソンも、次の時代を創るというマインドで、これまでの負の遺産と向き合うべきではないだろうか。
5年後や10年後の未来はどうなっているのだろう。デジタル化が進んで、より便利で快適な暮らしをしているかもしれない。その時はおそらく世の中の人々はマスクを外していて、あの頃はみんなマスクをしていたよねと笑い話をしているのかもしれない。我々の記憶は、新しい出来ごとに上書きされ、次第にその時の感情や感覚が薄れていく――。
少し話は変わるが、先日、アートフェア東京2021に行ってきた。多くの海外ギャラリーが出展を見合わせていたため、国内のギャラリーが中心となっていた。個人的には、日本らしい、良い意味でローカルな会期であったと思う。2020年は直前で中止となってしまったため多く関係者が待ち侘びていたのか、会場には熱気があり、多くの作品が売れていた。
COVID-19を主題とした作品も多かった。その中でも、共感したひとつの作品を購入した。米原康正氏の『祈り』という作品。COVID-19により物理的には口を塞がないといけなくなったが、生命力や想いは溢れ出るということ、医療従事者への感謝といった点が心に響いた。
アートの素晴らしい点は、このような感情をカタチとして残すことにある。どんなに時間が経ったとしても、作品をみればその感情が蘇る――。10年後、20年後でも、私は作品を通してこの2020年~2021年の世界的パンデミックを思い出すと思う。自分の人生に寄り添う作品に出会うことが、いちばんの醍醐味なのかもしれない。