[新連載]Web3時代、クリエイターは夜明けを迎える――自身の価値を高めるヒントを明石ガクトさんが解説

[新連載]Web3時代、クリエイターは夜明けを迎える――自身の価値を高めるヒントを明石ガクトさんが解説
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 メタバース、NFT、Web3など、クリエイターにとって避けてはとおれないキーワードがトレンドとなるなど、クリエイターを取り巻く環境は、大きく変わりつつあります。そんな変革期を迎えた今、クリエイターが自身の価値を上げ、Web3時代を生き抜くためには何が必要なのか――。そのヒントをワンメディアの明石ガクトさんが解説します。

テキストコンテンツの夜明けと、Web2.0型プラットフォームビジネスの始まり

 私がインターネット業界に就職したちょうど2006年、新書『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』(梅田望夫、筑摩書房、2006年)がベストセラーになっていました。それまでのいわゆるWeb1.0の時代、一般の人のインターネットに対する関わりはread onlyでした。かつてread only memberの略でROM専という言葉があったように、情報を作り出すのも、そこからお金を作り出すのもパブリッシャーだけだったのです。

 そういったパブリッシャーによるニュースサイトが乱立していたところに、ポータルサイトが生まれたことで徐々にそれらが集約されるようになりました。そしてブログの普及と同時にWeb2.0の幕が開けることになります。ウェブの進化の歴史を語る上でブログとそれ以前のウェブの日記がよく比較されます。それまで、ウェブ上に自分の日記を書くということは、HTMLやFTPの知識がないとできないことだったからです。

 そこにブログが現れました。まさにWeb2.0を象徴するものですが、これによって専門的な知識がなくても、管理画面から文章を投稿することで誰でも簡単にコンテンツをつくることができるようになります。日本だとココログからアメブロに至るまで、さまざまなブログサービスが生まれました。

 このようにして、ブログをきっかけにユーザーは自分でコンテンツを生みだすことができるようになりました。しかしアメーバブログでブログを書いてもその広告収益はアメブロが得るように、新たにプラットフォームと言われる存在が、インターネットビジネスの基幹を構成するようになっていきます。つまりコンテンツの作り手はパブリッシャーからユーザーへ移り、そのコンテンツによって収益をあげる存在がサービスを提供するプラットフォームへと変化していったのです。これはFacebookのようなSNS、Twitterなどのミニブログ、そして写真をメインに扱うInstagramから動画を扱うYouTubeまで、現在隆盛を極めているすべてにあてはまります。ユーザーがコンテンツをつくり、それを利用してプラットフォームが利益をあげるという構造は、実はこの15年間変わらずに続いてきたことなのです。

非中央集権化・分散化が進んだ先の次世代のインターネットとは

 ここに新しい波として登場したのがWeb3という言葉です。これは、パブリッシャーが情報をつくりだし、利益をあげていたWeb1.0とも、ユーザーがつくりだした情報を利用してプラットフォームが利益をあげる構造のWeb2.0とも違います。コンテンツをつくるのはもちろんユーザーで、さらにそれをもとにお金を稼ぐのも、そのネットワークを管理するのもユーザー自身だという、まったく新しい次世代のインターネットです。ウェブの世界には、非中央集権化・分散化の流れが確実におとずれているのです。

 ここで次の図をご覧ください。クリエイターが個別の経済圏を勝ち取るまでのロードマップが描かれています。クリエイターが現れて、SNSから独立し、自らビジネスを展開し、ついに個別の経済圏を勝ちとる。from dependence to independence、つまり依存から独立への過程が描かれています。

 この連載でクリエイターと言うとき「SNSによってエンパワーされたクリエイター」をとくに指していきたいと思っています。たとえばぬいぐるみの制作をしているクリエイターの場合、これまでのクリエイターというものは、クリエイターが稼ぐことができる収益は単純に、モノとしてのぬいぐるみの価値でしかありませんでした。クオリティの高いぬいぐるみを頑張ってつくることで、たとえば「シュタイフの5万円のテディベアと比べても出来はいいし、無名の作家だけど2万円なら出してもいいかな」というのが作家としての価値だったわけです。

 しかしその創作活動がSNS上で発信され、作家がファンコミュニティを持つようになることで、ぬいぐるみはその商品価値以上に、それをつくっているクリエイターの魅力や創作のプロセスを含めた価値を持つようになっていきます。それによってぬいぐるみに興味がない人にも売れたり、あるいはぬいぐるみの制作風景をYouTubeにアップしてチャンネル登録者数が増えることで「クリエイターの生み出すぬいぐるみ」というコンテンツを超えて、クリエイター自身がメディアとしての価値を帯び始めるのです。

 このようにしてクリエイター自身が何らかのSNSで発信力を持ち始めると、クリエイターはいわゆる「インフルエンサー」と呼ばれるようになっていきます。クリエイターはその成長の過程で特定のSNSに依存することすらしなくなっていきます。インスタグラマーが自身で洋服のブランドを始めたり、有名なツイッターアカウントが本を書くようになるのもこの段階です。こうやってクリエイターは、自分自身への熱狂をお金という価値に変換することができるようになります。

 いよいよ本格的に人気が出てくると、日本だとゆうこすさんやヒカルさんがそうであるように、自身のファンコミュニティに対して複数のビジネスを展開し始めます。そこからさらに先(この段階のクリエイターはまだ日本には現れていませんが)ブロックチェーンなどの技術の発展もあいまり、いずれ個別経済圏を通じて個人が金融ビジネスを行うようになるとまで言われています。

 この流れをわかりやすくしたのが先ほどの図です。今の日本はPHASE1とPHASE2の間くらい、アメリカがPHASE3、そして世界の最先端はここからPHASE4になろうとしています。たとえば東方神起や少女時代が所属している韓国の有名事務所「SMエンターテイメント」の創業者であるイ・スマン氏は「ブロックチェーンがアーティストの人生そのものを価値にしていく」と発言しています。実際、SMエンターテインメントから2020年にデビューしたガールズグループ「aespa(エスパ)」のメンバーは、メタバース上に公式のアバターが存在し、リアルとメタバースの両方で活動しています。

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