クリエイターエコノミーはあらゆるビジネスを包み込む
ある晩の会食終わり、せっかくだからと歩いて帰宅している途中、立ち寄ったラーメン屋でひとりの男性に声をかけられました。その場で少しお話をし、そして後日その彼からInstagramのDMももらったのですが、どうやら彼は私の著書の『動画2.0』を本当に何回も読んでくれており、そのおかげで商売も上手くいっているということのようでした。もともとは愛知県の岡崎でスーパーをやっていたそうですが、フルーツサンドをつくってそれを動画でPRすることで全国的に有名になり、今では中目黒にお店を出せるまでになったと。
私はそこでやっと、彼はあのダイワスーパーの取締役で、中目黒店の店長もつとめる大山颯介さんであると気付いたのです。ダイワと言えば断面映えのフルーツサンドでは元祖と言っていい有名店で、私自身もよく利用しています。そしてその裏側には「インスタ映えするものをつくり、動画でアピールすれば良いのではないか」というストーリーがあったことを知ったのです。
単にクリエイターになるのではなく、SNSを上手く商売に利用し、地方のスーパーが全国的に名を知られるようになった――。このことに私は非常な感動を覚えたのですが、これこそがこの連載を通して説明してきたクリエイターエコノミーです。
前回まではこれからクリエイターになりたい人や企業内のクリエイター向けに連載を続けてきました。最終回となる今回は、クリエイターエコノミーがあらゆるビジネスで大きな影響力を持っていることと、クリエイターエコノミーについて知り、それを前提にプロダクトやサービスを設計する必要性について、具体例を挙げながらお伝えできればと思います。
新しい情報の流通スタイルがもたらした変化
先ほどのダイワのフルーツサンドについて考えてみましょう。ダイワのフルーツサンドはもちろん味もおいしいのですが、それが人々に知られるようになる過程は、まさにクリエイターエコノミーの芯を捉えています。ダイワのフルーツサンドはたしかにInstagramで人気ですが、大山颯介さんの投稿を見てそれを買いに行く人は全体からするとごく一部です。それよりもむしろ、友達や同僚が投稿した写真を見たことがきっかけで買いに来たという人がほとんどでしょう。そしてそのきっかけになった人たちもやはり、同じようにしてフルーツサンドを知って買いに行き、その写真をInstagramに投稿していたはずです。
この例では「Instagramに写真が投稿され、それを見た人が自分で買いに行き、やはり同じようにInstagramに投稿する」までが一連の流れになっています。このような情報の流通は、ブランドや有名人など特定の発信者による情報がそのほか多くの人に一方的に広まっていくような、テレビや雑誌が中心のモデルとはまったく異なります。テレビや雑誌から発信される情報は言わば上から降ってくる情報ですが、ダイワのフルーツサンドが知られるきっかけは、身近な知り合いなどからの、「横から回ってくる情報」と言えます。
これは、誰でも手軽にクリエイターになることのできるスマホというツールと、それを発信するSNSという媒体が普及したことで可能になった、従来では考えられなかった広がりかたです。そしてこのような情報の流通スタイルが登場したことで、人々がプロダクトやサービスに出会うきっかけは大きく変わってきています。もはや自身がクリエイターであるという自覚の有無に関わらず、個人にとっても企業にとっても、クリエイター的なエコノミーはあらゆるビジネスにおいて大きな影響力を持つようになっているのです。