[新連載]トラブルがつきもの? 調査で見えてきた、コンテンツ事業における契約業務の難しさ

[新連載]トラブルがつきもの? 調査で見えてきた、コンテンツ事業における契約業務の難しさ
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 日々どれだけの契約を結んでいるか、自身の会社を思い浮かべてみてほしい。外部のクリエイターや制作会社に発注する場合もあれば、逆に発注を受ける場合もあるだろう。口頭契約も含めると、意外と身近に存在するのが契約だ。しかし、実際の制作業務と比較すると軽視されがちな業務でもある。本連載では、「Contract One」を提供するSansan株式会社が、コンテンツに関わる企業が意識すべき、契約業務の重要性や、課題などを解説。初回では、契約業務を軽視するとどのようなリスクが発生し得るのか、Sansanが実施した「IPビジネスの契約実態調査」をもとに解説する。

経営者や管理職は気付きづらい、多発する「契約トラブル」の実態

 Sansanは2023年8月、IP(知的財産)を活用したビジネスに携わる610名のビジネスパーソンを対象に「IPビジネスの契約実態調査」を実施した。その結果、7割以上が、コンテンツの使用範囲の違反や、期限超過などの「契約違反によるトラブル」を経験していることが判明。6割以上が「契約書を結んでいないことによるトラブル」を経験しているという結果になった。

 この数値を見て「こんなに多いのか」と驚いた読者もいる一方、小さなヒヤリハットも含めると、実は経験がある人も少なくないのではないだろうか。私が経営者や管理職の方々に同じ質問をすると、「うちはしっかりしているからトラブルなんてないよ」との答えをもらうケースも多いが、現場での実態と経営者の認識には乖離が生じているような気がしてならない。

 経営者が認識している契約トラブルは氷山の一角で、IPビジネスの現場では日常茶飯事だということが調査の結果からも明らかだ。その多くが大きな問題になる前に処理され「ヒヤリハット」で済んでいるため、経営者の耳に届いていないことが多いのだろう。

最大1億円の出費、契約トラブルから訴訟に発展するケースも

 契約トラブルの多くがヒヤリハットで済んでいると先述したが、当然ながら、大きなトラブルに発展するケースもある。Sansanの調査では、超過金や追加費用などで、最大1億円のコストが発生したとの回答があったほか、トラブルの結果としてプロジェクトに進捗遅れが発生した場合の日数は最大700日、平均37.1日という結果になった。

 さらにトラブルが拡大し、訴訟にまで発展するとニュースとして報道されることもある。最近では、ある企業が長年使っていた同社にとってはお馴染みのコンテンツを、類似商品の広告に活用しようとしたところ、それが契約に抵触し、訴訟に発展したというもの。SNSでも拡散され、大きな話題となった。今までヒヤリハットで済んでいたからと言って契約業務を軽視し続けると、トラブルが拡大した際、会社やプロジェクトに多大な影響を及ぼすことがおわかりいただけるだろう。

 とくにIPビジネスの場合、トラブルがコンテンツ自体の評価を下げることにもつながりかねない。そうなると、影響は長引き、いちプロジェクトにとどまらない将来的な損失となる可能性もあるのだ。

トラブルの増加につながる、IPビジネスの大きな変化

 なぜこれほどまでに、契約トラブルが頻発しているのだろうか。その背景のひとつにあるのが「法律の複雑化」だ。IPビジネスに関わる法律は多岐にわたるうえ、頻繁に法律が改正、アップデートされていく。ルールの変化を見落としてしまうと、思わぬところでトラブルにつながるケースが少なくないのだ。

 たとえば今年2023年、フリーランス・事業者間取引適正化等法、いわゆるフリーランス新法が成立した。これは、組織に対して立場の弱くなりがちな個人が、安心して働けるようにするための法律で、フリーランスに業務を委託する企業には、仕事の範囲や報酬額を書面やメールであらかじめ明示することが義務化される。

 近年、フリーランスのクリエイターが増えており、彼らと仕事をする機会が増えた人も多いのではないだろうか。普段から付き合いのある人と仕事をする場合だと、都度契約書を交わすことなく、口頭発注で済ませてしまうケースも多いかもしれないが、今後は書面での取り交わしが必要になる。今まで口頭発注だったものをすべて書面に残すことになれば、それだけ契約書の数も増え、支払い期限や金額、委託範囲や納期など、管理が複雑になるため、注意が必要だ。従来の業務フローの見直しが、トラブル発展を抑えるために不可欠となるだろう。

 また逆説的ではあるが、コンプライアンスに対する意識の高まりも、契約トラブルが増加した一因と言えるだろう。これまで目をつむってきた法律的にグレーな部分も、近年はしっかり契約書を結んで管理するケースが増えている。曖昧にされてきた部分が明確になり、契約の管理も複雑化している。

 たとえば、相手の情報の管理方法まで契約書で定めることも増えてきた。取引先に情報漏洩などの問題が発覚すれば、自分たちにも大きな影響があるためだ。こうした、取引先のコンプライアンスまで厳しくチェックする企業が増えている中で、従来から契約書の内容も変化し、複雑化している。今までと同じ運用を続けることで、トラブルに発展してしまうリスクが高まっているのだ。