トラブルを回避し、コンテンツの武器となる「リーガルリテラシー」とは

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相次ぐ不祥事によって日本でもリーガルリテラシーが話題に

 近年日本でもリーガルリテラシーは重要性が認知されつつある。その背景にあるのは、昨今頻発している企業の不祥事だ。SNSの普及などによって今まで以上に拡大し社会問題へ発展することから、リスク回避は企業にとって重要な課題のひとつになっている。そもそも日本では、経営層のリーガルリテラシーの低さも指摘されている。

 たとえば、リーガルリテラシー先進国であるアメリカでは、法務担当役員の設置率はほぼ100%だが、日本ではごくわずかに留まっている。昨今ニュースで流れてくるような企業の談合事件などにおいて、意志決定の場に法務の責任者、あるいは法的知識を持って同席した社員がいれば未然に防げた可能性もあるのではないかとたびたび議論にもなっている。

 一方この話題に触れたとき、「一般社員がリーガルリテラシーを持っても仕方がない」と思ってしまった方もいるのではないだろうか。

 しかしそんなことはない。現場のリテラシーの低さが要因となった不祥事も大きなニュースになっている。最近の事例だと、新型コロナ給付金の不正受給問題で摘発された企業では、その一因として現場社員の契約に関する知識不足が指摘されている。「円滑運営に支障がなければ、自治体との契約に沿った人数などの内容を遵守しなくてもよい」と現場が判断してしまったという。こうした企業意識を放置してしまった会社側に大きな問題があるのは明白であり現場社員に責任転嫁することは許されないものの、社員がリーガルリテラシーを持って判断していれば、どこかのタイミングでブレーキがかかった可能性もあるのではないだろうか。

 経営者や法務がより高いリテラシーを備え、リスクを管理できる体制構築も重要だが、それでも現場で日々交わされる契約書や関連する業務のすべてを確認することは不可能に近い。各担当者がリーガルリテラシーをもって臨まなければ防ぎきることは難しくなってきているのだ。

 たとえ法務が管理しリスクを回避できたとしても、コンテンツ事業では他社の不祥事に巻き込まれてしまうことも想定しなければならない。芸能事務所が不祥事を起こせば、予定していたコンテンツが使用できなくなるケースもあるだろう。協力会社への対応に加え、顧客や社会への謝罪などを求められたりする場合も多い。

 このようなケースではかなり迅速な対応が求められるが、事業部門が契約情報をしっかり把握していれば、影響を最小限に抑えつつビジネスを止めないために必要な対応を、法務部門とともに即座にとることができるだろう。

コンテンツ制作に携わる人は、まず契約情報に触れてみよう

 事業部門にとってもリーガルリテラシーが重要であることは理解してもらえただろう。しかし、実際にどのようにリーガルリテラシーを高めていけば良いのだろうか。理想を言えば、経営者が強いリーダーシップを発揮し、経営層の意識を変え、法務部門の地位を向上させ、事業部門が主体的に契約情報に触れる必要のある環境を整えること。さらには、リーガルリテラシーをもとにした人事評価基準を策定するなどが考えられるが、こうした抜本的な改革は時間がかかるうえに、非常にハードルが高い。

 では個人が今すぐできることでぜひ試してもらいたいのは、自分のプロジェクトに関する契約情報に触れてみることだ。自身が発注する側であれば、契約条件が自分の実現したいことに沿っているのか、期限や納期は守られているのか。発注を受ける側であれば、発注者が無理な要求をしていないか、要求されていることは妥当なのかなど、ほかのプロジェクトと比較しながら確認してみてほしい。隣のプロジェクトでは、もっと自社に有利な条件で仕事を進めていた、といった意外な発見があるかもしれない。契約書に何が書かれているのかがわかると、次のプロジェクトではどうすべきか、何を織り込んでほしいのか、取引先と交渉すべきポイントは何か、など少しずつ論点が見えてくるはずだ。

 そうすると次第に口頭発注のリスクや機会損失も実感でき、可能なかぎり書面に残したいと思うようになるのではないだろうか。たとえさまざまな事情から口頭発注になってしまったとしても、交渉すべきポイントや論点が明確になっていれば、その内容も少しずつ変化してくるだろう。

 「リーガルリテラシー」という言葉だけを聞くと、とてもハードルが高く何から手を付けるべきか戸惑う人も多い。しかし、まず契約書という比較的身近な「法的文書」を読んでみることで、少しずつ苦手意識を取り除き、自分の新たな武器を見つけてほしい。