トラブルを回避し、コンテンツの武器となる「リーガルリテラシー」とは

トラブルを回避し、コンテンツの武器となる「リーガルリテラシー」とは
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 日々どれだけの契約を結んでいるか、自身の会社を思い浮かべてみてほしい。外部のクリエイターや制作会社に発注する場合もあれば、逆に発注を受ける場合もあるだろう。口頭契約も含めると、意外と身近に存在するのが契約だ。しかし、実際の制作業務と比較すると軽視されがちな業務でもある。本連載では、「Contract One」を提供するSansan株式会社が、コンテンツに関わる企業が意識すべき、契約業務の重要性や、課題などを解説。今回は、契約トラブルを回避しながら、契約情報をビジネスの武器として活用するために必要な「リーガルリテラシー」について紹介する。

「リーガルリテラシー」は契約書を主体的に活用するために必要な力

 リーガルリテラシーは直訳すれば「Legal(法的な)」「Literacy(知識)」という意味になる。しかし、その本質は単なる法律知識ではない。クリエイター含め、ビジネスに携わる人が持つべきリーガルリテラシーとは、「契約書など法律に関連するものを、自らの仕事で主体的に活用するための意識と行動」だと考えている。そのための最低限の知識は必要になるが、まず大切なのは「意識」を持って「行動」することではないかと思う。

 それでもハードルが高いと考えてしまう人も多いかもしれないが、そもそも「契約」とはビジネスにおけるさまざまな取引の前提が記載されているものであるため、遵守することはすべてのビジネスパーソンにとって重要であることは理解してもらえるだろう。

 しかし契約書と言えば法務の領域と考える人が多いのが実態だ。Sansanが実施した「ビジネスパーソンの契約リテラシーに関する実態調査」では、法務以外の職種で契約締結業務に関わる900名のビジネスパーソンのうち、契約書の内容を「すべて自分で確認している」と答えたのは42.3%に留まっている。実際に、先方から届いた契約書を法務に丸投げした経験がある人も少なくないのではないだろうか。

 しかし、こうした事業部門の契約業務に対する姿勢が、さまざまなリスクの要因にもなっているだけではなく、事業部門にとってビジネスチャンスを逃している可能性すらあるのだ。

 たとえば法務では、ビジネス視点で最適な契約内容かどうかまでは確認できないことが多い。そのため、法的には問題がなくとも自社にとってビジネス的に不利な条件が含まれていたことが後々発覚し、本当に実現したいことができなくなったというケースもある。

 こうした現状を改善し事業部門が主体的に契約書を確認するようになれば、自身のプロジェクト進行に必要なポイントを押さえながら、専門的な部分を法務に相談するといった新たなプロセスが生まれる。そのようにして作られた契約書は「ビジネス的」にも「法的」にも最適なものになるだろう。

 また、そのプロセスで事業部門の契約理解度が向上すれば、現場における契約トラブルも大幅に削減できるはずだ。今まで逐一法務に確認していたような契約上の支払期限や納期なども自分たちで把握できるようになり、判断スピードも向上するだろう。

 万が一トラブルになったとしても、場合によってはその場で契約知識をもとに交渉することができるかもしれない。たとえばプロジェクト進行途中に「それはできません」と先方に言われた場合も、「契約ではこうなっています」などと返答しながら実現に向けた交渉もできるだろう。

 海外では、早くからリーガルリテラシーの考えかたが浸透している。私自身、イギリスの企業とのやりとりでそれを実感したことがある。当時担当していたプロダクトで、イギリス企業と提携しており、その機能アップデートを行うためにミーティングをしていた。その際、先方の営業担当者から唐突に「今回の仕様は契約にないためできない」と言われたのだ。日本企業とのやりとりでは、アップデートの中身に対する感想や助言がくることが多いため、法務も同席していない「契約」の話がミーティング中に出てきて驚いた。

 結果、契約の再締結が必要になってしまったのだが、取引企業とのコミュニケーションは、海外の企業にとってプロジェクトを進めるための場でありながら、契約が守られているかを確認しあう場でもあったのだと気が付いた。その担当者の一言で、このプロジェクトは契約トラブルを回避することができただけでなく、先方の企業はビジネスチャンスを逃すこともなかった。これは営業担当者が、自分のプロジェクトに関する契約について深く理解しており、契約条件を遵守する重要性を把握しているからこそ実現することだ。法務部門に限らずリーガルリテラシーの向上に向き合っていることがよくわかる事例だろう。

 このように、現場でも契約情報を活用するためには「リーガルリテラシー」を身に着けることが不可欠なのだ。