第1回は、古今東西の「発明」から学ぶことで、デザインはすでに何百年と前からビジネスの中に内包されており、それはすでにしっかりと機能していたことを紐解きました。そして、現代におけるデザインとは製品やサービスの色や形といった表層的なことだけではなく、システムへの貢献(社会実装)ができているかが鍵だということをお伝えしました。
第2回の今回は「ビジネス成長させる原動力」という内容で、現代デザインに大きな影響を与えたバウハウスを題材として、今日のビジネスを創るうえでの秘訣を探ります。
バウハウスが持つ影響力の秘密
デザイナーやクリエイターの皆さまならよくご存知の「バウハウス」は2019年、設立からちょうど100年を迎えました。世界各地でさまざまなイベントが行われていましたから、参加された方もいらっしゃるのではないかと思います。
あらためて簡単におさらいをしますと、バウハウスは1919年に建築家であるヴァルター・グロピウスによってドイツに創設された革新的なデザイン学校です。同氏は、「芸術と技術—新しい統一」に挑み、近代デザインに大きく貢献したことでも知られています。それは単なるデザイン学校という域を超えて、社会に影響を与える機関であったことは史実が物語っています。
合理的かつシンプルなモダンデザインの枠組みを確立した教育機関であり、世界的な画家のパウル・クレーや、家具デザイナーのマルセル・ブロイヤーなどの教育者が多数在籍していたことでもよく知られています。今日に至るまで建築家やデザイナーはもちろんのこと、ほかのさまざまな領域にまで影響を与えています。
※参考書籍 『ル・モンド・ディプロマティーク』仏語版2019年2月号「バウハウス、形態の精神」,嶋谷園加 訳
ここまでの影響力を持つバウハウス、その秘密はどこにあるのでしょうか。バウハウスがわずか14年という短い期間であったにも関わらず、ここまで世界に影響を与えているのかという点について、ビジネスの観点から考えてみましょう。
ウォルト・ディズニーが信じた理念
実は、その秘密を解き明かすのに、世界的企業がヒントになります。少し視野を広げて、ビジネスの世界に目を移してみましょう。バウハウスと同じように、世界に大きな影響を与えた企業のひとつにウォルト・ディズニーが挙げられます。
エンターテイメントを今日まで発信し、かつ感動やおもしろさを提供し続けている企業はそう多くはありません。さらに老若男女を問わず、人々を魅了してやまない企業はほんの一握りと言えるでしょう。
そんなウォルト・ディズニーの創業者であるウォルト氏はどのように考えかたをもって、世界の人々に夢や感動を与えようとしたのでしょうか。彼らの掲げる企業理念はこちらです。
- 皮肉な考え方は許されない
- 一貫性と細部にあくまでもこだわる
- 創造力、夢、想像力を活かして絶えず進歩する
- ディズニーの「魔法」のイメージを徹底的に管理し守る
- 何百万という人々を幸せにし、健全なアメリカの価値観を讃え、はぐくみ、広める
※参考文献:ボブ・トマス著,Bob Thomas原著,玉置悦子 訳,能登路雅子 訳『ウォルト・ディズニー(日本語)』講談社,1995年
これらの理念を体現している代表的な言葉が、「イマジニア(Imagineer)」です。これは、“イマジネーション(Imagination)”と“エンジニア(Engineer)”を組み合わせたウォルト・ディズニーの造語であり、ディズニーのたくさんのアトラクションを設計・製作する集団を指します。生前のウォルトが肝いりで、自ら彼らの仕事を映像で紹介するほどです。
企業理念を体現するために必要な要素を、Imagineerという職能として規定することで、ウォルト・ディズニーは存在し続けることができたのではないでしょうか。イマジニアをはじめとするあらゆるメンバーの毎日のたゆまない努力によって、我々はウォルトの理念をテーマパークや映画といったものを通して体験として享受しているのです。