こんにちは。tacto株式会社のCo-Founder / Creative Directorの板倉です。前回の記事では、ストーリーを作り出し、人々の記憶に残るデザインにしていく方法についてお届けしました。
前回の振り返り
- Why/Who/What/Howを点ではなく、面として捉え、理解し、デザインすること。それにより、考えかたに広さと深さが生まれ、デザインの先にいるユーザーに届き、記憶に残るものに昇華する。
- ストーリーテリングの考えかたは、ストーリーが共感・共鳴を生み出し、人の心を揺さぶることが重要。それにより人々の記憶に「良いデザイン」として残り続ける。
- ストーリーテリングをつくる際は、「背景・文脈を理解し捉えること」「登場人物を定めること」「あらすじを考え、物語を理解すること」「テーマ・世界観を定めること」の4つのステップで進める。これにより「ストーリー」が生み出される。
初回の記事で、「体験のデザインにおける『美しさ』の観点でもっとも重要なのは『見た目』ではない」「エンドユーザーにとっての『美しさ』とは、見た目(情緒的価値)と中身(機能的価値)、それを繋ぎ合わせるUXのすべてが機能しているデザインから生み出される包括的な『体験』にある」とお伝えしました。
デザインをするうえで重要なのは、体験やストーリーを通じてユーザーに何かしらの「価値」を感じてもらうこと。その「価値」を理解することこそが、デザインを理解することにつながるのです。今回は、そんな機能的価値と情緒的価値についてお伝えしていきます。
深掘りする「機能的価値」と「情緒的価値」
機能的価値とは
機能的価値とは、商品やサービスが実際にどれだけ役立つか/使いやすいかという、実用面にもとづく価値のこと。たとえば、サービスを使ったときに「これ、本当に便利!」「問題をすぐに解決できた!」と感じる部分を指します。ユーザーが必要としている要件を、商品やサービスがしっかり満たしているかどうかがポイントです。
つまり「その商品で何ができるのか、どのように役立つか」が機能的価値です。
情緒的価値とは
一方、情緒的価値は、その商品やサービスを使ったときに「気分が良くなる」「特別な感じがする」という、感情に関わる価値です。これは機能とは異なり、「使っていて楽しい」「このブランドだから嬉しい」といった気持ちや雰囲気が重要です。
つまり「その商品を使用したり、手に入れたりすることにより心理的満足感を得られる」のが情緒的価値です。
違いをまとめると、機能的価値は、カメラの画質が良い、速く動くパソコンなどのように、商品やサービスが「何ができるか」「どう役立つか」に焦点を当てたものを指します。また情緒的価値は、その商品やサービスを使うことで「どんな気持ちになるか」「どんな体験を得られるか」にフォーカスしたもの、つまり「オシャレなデザインで気分が良くなる」「特別な感じがすること」に寄与する価値のことを言います。
このふたつの価値は、体験をデザインするうえで両方とも重要な要素です。たとえば、便利で使いやすいといった機能面での価値があったとしても、製品の見た目や使用時の感覚が期待に沿えない場合、ユーザーの使用頻度は低下するかもしれません。一方、気に入ったデザインや雰囲気など情緒的価値があると、少し機能が劣っていてもユーザーは継続して使用することもあります。
ユーザーが何を求めているのか、どのような課題を感じているか。それらを深く理解したうえで、機能的価値と情緒的価値のバランスを最適化したデザインを生み出すことが必要です。
デザインにおける機能的価値と情緒的価値
機能的価値、情緒的価値の定義を理解していても、実際にどのようにそれらの価値をデザインするかわからない方もいるかもしれません。
「機能的価値をデザインする」とは、「使う」「体験する」とはどんな行為であるのかをしっかりと整理・理解・追求し、設計すること。つまり、問題解決のためのアクションです。
ではどうすれば機能的価値を感じてもらえるのか。そのために必要なのは、ユーザーの「理性を揺さぶる」ことです。
理性の揺さぶりは、論理的、概念的な思考にもとづいて判断されます。要するに、体験する人それぞれの記憶、経験、習慣、身体的要素に直接的に紐づいている体験を「使いやすい」「便利」「わかりやすい」「読みやすい」「耐久性が良い」と人は判断するのです。
一方、「情緒的価値をデザインする」とは、心の変化に焦点を当てた問題解決行為です。曖昧な感性にカタチを与える「自分でさえ気づかないような心の働き」を、デザインというフィルターを通してどのように操作できるかを考え、具現化することを指します。
情緒的価値は、ユーザーの「感性を揺さぶる」ことで感じてもらえます。そしてそれを判断するもととなるのは「感情的/感覚的な思考」です。つまり、「文化や環境などの背景に起因する感覚」「感情への働きかけに直接関係しているモノや体験」が、「安心」「憧れ」「強さ」「嬉しさ」「幸せ」を感じるものだと判断されます。