第5回目を迎えた今回は、いままで見てきたものをふまえ、原点へと立ち返ります。連載を重ねるなかで、デザインの良し悪しとはなんだろうか、ブランドとはなにか、ECやサステナブルといった環境面など、パッケージをとおしてさまざまなものを見てきました。
そこで今回は、私たちの生活に欠かせない「包む」という行為、そしてパッケージがどのような変遷を経て今日の私たちの生活に溶け込んでいるのかを探っていきます。過去を知ることによって、今あるものの見えかたに少しだけ変化が生まれ、現代に活かすアイディアの原石となるでしょう。
「包む」ということ
まず「包む」とはなにかについて、改めて考えてみましょう。以前はパッケージデザインという視点で見ていましたが、「包む」そのものについてはあまり言及していませんでした。
考えるうえでひとつの手がかりになるのが、その漢字の成り立ちです。「包む」という漢字は、妊娠した女性を横から見た姿を表しているそうです。
これが根源的な「包む」です。思ってもないところに存在していました。手で包み込んだり、抱く形で包み込んだり、もとを辿ってみると「包む」には大切に守るようなニュアンスを感じます。
それではそもそもなぜ包むのか。行為としての「包む」にあるメリットについて考えてみると、下記のような利点が挙げられるのではないでしょうか。
- 複数あるものを括り、取り回しを良くする。
- 包むことで外の環境から中身を守る。
- 容器を使うことで液体を持ち運ぶことができる。
包むことによって、より扱いやすく、そして利便性をあげることが可能です。また、細かいものや液体を、「一升」、「一俵」といった包装の単位で数えることができるようになる点もポイントでしょう。
日本の伝統的なパッケージ
日本ではとくに「包む」という行為が生活に深く根付いています。風呂敷や袱紗、祝儀袋、おひねりと、人の手から他者へと渡す際には包むことが礼儀とされています。利便性の観点からだけでなく、丁寧に扱っているというさまを示すことで、それを渡す相手への思いやりや気持ちをも間接的に伝える。つまり、相手への気持ちも一緒に包んでいると言えるでしょう。
渡す相手のために、包む行為そのものを大切にし、儀礼的な行いとするのはとても日本らしい感じがします。
さて、それとは別に日本には竹や藁、笹の葉といった自然の素材を用いた数多くのパッケージも存在します。これらは抗菌性や携帯性、調湿性といった自然素材がもつ特性を存分に活用し、機能的で審美性も高いパッケージデザインです。代表的なものをいくつか見ていきましょう。
竹筒[おさめる]
竹はアジア圏の幅広い地域で自生している植物です。建材、工芸品や日用品などあらゆるものに用いられているため馴染み深い素材ではないでしょうか。
これはパッケージにおいても同様で、食料品を含む多くのものに容器として活用されています。竹がもつ中空であるという構造的な特徴や、節を活用することで容器としての加工が容易である点、そして抗菌作用がある点などがさまざまな場面で使用される理由です。容器としての機能性に富んだ、自然のパッケージですね。
現在、竹を使った容器でもっとも目にするのは水羊羹のパッケージでしょうか。そのほかにも竹筒の形状は、伊右衛門のペットボトルのモチーフにもなっていました。
いまお話したような竹筒だけでなく、竹の皮もさまざまなものを包む際に使われています。握り飯が包まれている様子は昔話でもお馴染みの描写ですね。昔は生肉を包むときにも使われていました。