こんにちは。SmartHR プロダクトデザイングループのおうじ(@OujiMiyahara)です。
連載初回の記事「大量データとパフォーマンスを見据えたインターフェースの設計」に続きまして、今回も業務アプリケーションにおけるインターフェース設計アプローチについてご紹介しますね。
前回の最後に「スケジュールに注意せよ」とあったので、真面目さが唯一の取り柄である私はドヤ顔でこの記事の原稿を締め切り1週間前に提出しました。
原稿提出で安心したのも束の間、ただちに私の文章は優秀な社内広報のレビューにかけられ、「社会性に大いに欠ける」とのことで大幅に書き直すこととなりました。現在、108 回にもおよぶ改稿の果てに、このマイルドな文章が皆さんにお目見えしているわけです。
「業務アプリケーション改修のワナ」を語る以前に「執筆のワナ」があったというわけですね。おほほ。おほほほほほ。
業務アプリケーションの特性
SmartHR は、入退社手続きから年末調整に至る、さまざまな人事労務業務に役立つ機能を提供するアプリケーションです。業務のアプリケーションを提供するということは、これまでのユーザーの業務に成り代わることになりますので、とても大きな責任がともないます。
私たちデザイナーも、普段業務で使っているデザインツールやエディタのインターフェースが突然変わって業務効率が落ちてしまった経験があるでしょう。
いつも利用していた機能が見つけにくい場所に移動されたといった変化は比較的マシで、ショートカットが消えた、機能がオミットされたなど、これまでできていたことができなくなると、デザイン制作業務のプロセスをまたイチから設計することになり、効率が大幅に落ちます。
皆さんに馴染みの薄いかもしれない人事労務業務においても、その経験は、同様、いや、それ以上の痛みをはらんでいます。
人事労務業務は世の流れに合わせて変化しつづける「法制度」と「人」という、どうしようもなく多様な変数を取り扱います。
そして、多様な変数を取り扱う以上、世の中が変わったり社員数が増えるほど、指数関数的に業務量は増加していきます。膨大な業務をこなすためには、ツールが効率を阻害してはなりません。
程度の差はあれど、業務とはかくも効率が求められるのです。
本記事では、業務アプリケーションを開発するにあたり私たちデジタルプロダクトのデザイナーがどんなことに気をつけていくべきか、いくつかの実例とともに紹介していきます。
「慣れ」のワナ
人にとって「使いやすい」インターフェースはなにかと問われれば、多くのデザイナーは「慣れた」インターフェースであると答えるでしょう。まれに「直感的」といった表現が使われることもありますが、直感的というのは、つまり脳の学習コストが低い状態を差しており、「慣れた」と同義です。
ユーザーはどのようなインターフェースであっても、変化がなければいつかは慣れます。そして、慣れることが業務効率に結びつきます。
業務アプリケーションの改修で、ユーザーの「慣れ」を阻害してはいけません。
しかし、ことクラウドで提供するアプリケーションにおいて、事業や時流の変化にあわせた画面や機能の変化はつきものです。リリース当初は妥当だと思われた画面も、モデリングから見直さざるを得ない場面は頻繁に発生します。
そういった場合では、新旧画面の切り替え機能を提供することがユーザーにとって親切かと思います。いきなり新しい画面を提供せず、ユーザーの意志で新しい画面を選択させ、ユーザーに新しい画面に慣れる時間を用意しましょう。
業務アプリケーションを利用しているユーザーは、例外なく“業務として”アプリケーションを利用しています。仕事のなかで利用する以上、新しいことを学習することは業務上のコストであり、会社の成長や業績に直結します。
もちろん、いつまでも旧画面を残しておくことはプロダクトにとって技術負債となるのでいずれはすべてのユーザーに新しい画面を使ってもらわなければなりません。
しかし、我々が業務アプリケーションをユーザーに提供するのは、ユーザーの業務効率化、ひいてはユーザーの経済的繁栄を目的としているので、ユーザーに新しい業務コストを負わせてしまう可能性には慎重になるべきです。