アートからアプローチ 不確実性の高い今こそ考えたい、「変化への対応力」の磨きかた

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2021/02/01 08:00

 本連載のテーマは「ビジネス×アート」。コンサルティング会社に勤務するかたわら、アートの作品制作に関するワークショップへの参加、イベント運営などを積極的に行う奥田さんとともに、アートとの関わりを探ります。第7回では、アートで変化への対応力を磨く方法について考えていきます。

 第7回では、ユニークだからこそ美しいアートと、ビジネスで求められる「再現性」の関係を紐解いた。

 成功要因を認識し、再現する力はビジネスの世界で闘うためには必須スキルとなっている一方、COVID-19がいまだ終息しない世の中では、変化に対応する力も求められているように思う。第8回では、不確実性の高いリスクが至るところに存在する中、どのようにアート思考を活かしていくのかについて考えたい。

先が見えない中で、リセットする勇気

 2020年に蔓延した新型コロナウイルスCOVID-19。社会に大きく影響を与え、仕事・食生活・娯楽など我々の日常にも変化が求められている。リモートワークやソーシャルディスタンスという言葉はまたたくまに一般化した。

 当然、アート業界も大きな影響を受けた。2020年のイベント「アートバーゼル香港」はオンラインビューイングへの移行、世界各国の美術館の休業や人数制限、アートフェア東京の直前での中止などを余儀なくされた。このような大規模な企画だけでなく、アーティスト個人で企画していた個展、団体・グループで企画していた展覧会の多くも対応が迫られた。

 かくいう私自身も、2021年1月上旬にグループ展を企画していた。当初、2020年3月下旬に企画していたが、感染者数増大にともない約1年リスケしていたものだ。

 そのため、2020年の年末は非常に悩んだ。その時はまだ二度目の緊急事態宣言の前であり、感染者の増減が読めなかったのである。私の中では、大きく3つの選択肢があった。

  1. 人数を絞り、感染症対策を万全にして開催する
  2. 開催を延期する
  3. 企画を中止する

 プロジェクト運営において私は、「できない理由を見つけるのは簡単」をひとつの判断軸にしていたため、可能な限り[1.開催]の方向で考えていた。だが変異株の蔓延の予兆などこれまで以上に不確実な要素も増えてきたことを受け、徐々に[2.延期]も検討し始め、最終的には年末のうちに再延期を決めた。これは結果論に過ぎないが、年明け早々に二度目の緊急事態宣言が発令されたため、判断としては正しかったと思っている。

開催予定だった展示会。2021年1月開催を予定していたため再度延期とした。
開催予定だった展示会。2021年1月開催を予定していたため再度延期とした。

 今回の決断には、覚悟や勇気が必要であった。二度目の展示会延期だったこともあり、その後の自身のモチベーションも不安であった。自分のなかで、[2.延期]が[3.中止]に傾いてしまうのではないか?という懸念である。

 しかし「展示会の開催は手段であり、人に作品を観ていただくことが目的である」という原点に立ち返ったとき、決断に迷いはなかった。不確実な時代では、原点が決断する勇気を与えてくれるのかもしれない。

変化する社会、変わる役割

 こういった私と似たような状況は、その規模に関わらず、ビジネスの現場で多々直面する。これまで準備をしてきたプロジェクトが、環境の変化により予定通り進まなくなることもあるだろうが、そのプロジェクトが一定の段階まで進んでいると、それを止めることは容易ではない。これまで投資していた時間とお金をサンクコストとして捉えてしまい、現場メンバーがなんとなくおかしいと感じていても、無理矢理進めてしまう。その結果待っているのは、管理工数が余計に膨らんだり、完成品の品質が下がるといった事態かもしれない。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する議論も同様のことが言えるだろう。ビジネス構造の変革を進めるためには、単純にシステム化を進めるだけでは不十分。カギとなるのは、ボトルネックになっている既存の方法を止めるという決断をすることだ。

 COVID-19により、顧客はよりオンラインでの世界に時間を使っている。リアル店舗の役割を見直すことで、ビジネスモデルや日々の業務を変革することが求められるだろう。1人ひとりの役割は確実に変化しており、それに対応していかなければならない。

 もちろん、アートの役割も変化していくはずだ。家にいる時間が増えれば、殺風景な日常に彩りを添えるために、自宅にアートを飾る人が増えるかもしれない。美術館やアートフェアがソーシャルディスタンスのために人数制限を続けるのなら、オンラインでも良いので作品を見たいという人が増えるかもしれない。

著者が撮影した「Art Basel Hong Kong 2019」の様子。このような大規模イベントの開催はしばらく難しいかもしれない。
著者が撮影した「Art Basel Hong Kong 2019」の様子。このような大規模イベントの開催はしばらく難しいかもしれない。

 最近では、Zoom Meetingの背景にアート作品を投影している人も増えていると聞く。彼らにとって、オンラインミーティングの背景は一種のファッションでもあり、投影されたアート作品が自己表現のひとつになっているのだろう。変化する日常の中で、アートの役割も少しずつ変わり始めているのだ。

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