行動指針をデザインし、言葉で文化をつくる――行動指針の設計・運用メソッド

行動指針をデザインし、言葉で文化をつくる――行動指針の設計・運用メソッド
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 本連載のテーマは「チームの壁」。リンクアンドモチベーションで中小ベンチャー企業向けの組織人事コンサルティングに従事し、そののちデザイナーへと転向した辻井さんがチームづくりのポイントをお伝えします。第3回は「行動指針」について、その効果的な設計・運用方法について考えていきます。

なぜ行動指針が必要なのか

 「Value」「Style」「Way」など、行動指針にはさまざまな呼びかたがあります。しかし、その本質は変わりません。チームとして大切にしたい考えかたや、ひとりひとりに求める望ましい行動を明文化した、まさに「行動の指針」となるものです。

 なぜ行動指針が必要なのか。ここでは3つの理由を取りあげたいと思います。

1.コミュニケーションの効率化

行動指針を定め、積極的にその言葉を活用することで、メンバー間の意思疎通が容易になります。フィードバックやアドバイスを行う際に、ゼロから説明する必要がなくなり、「○○という行動指針に沿って進めよう」と簡潔にすり合わせることが可能になります。

2.判断基準の明確化

行動指針があることで、業務を進めるうえでの判断をより的確・迅速に行うことができます。行動指針をひとつの判断基準とすることで、都度上長や先輩に確認せず、属人性にとらわれない判断が可能になります。

3.チームの文化づくり

チームとして大切にしたいことが詰め込まれているので、行動指針を運用することがそのまま文化づくりにもなります。個々人の行動や判断を変えることに留まらず、チームらしさやカルチャーを形づくることにもつながります。

 行動指針の必要性や重要性については、数多く言及されていますが、一方で運用が難しいことも事実です。その難しさについて、少し考えてみましょう。

行動指針が陥りやすい落とし穴

 行動指針には、さまざまな落とし穴があります。

  • そもそも行動指針が認識されていない
  • 文章が長くて、覚えられない
  • 数が多くて、覚えられない
  • 言葉は知られているが、解釈がすり合わない
  • 具体的にどう動けばいいかが分からない
  • 導入直後は良かったが、段々使われなくなる
  • リーダーが行動指針の言葉を使わない
  • かっこいいカードは作ったが、見られていない

 ご自身のチームに当てはまる項目はありましたか?どれもチームで行動指針を運用するうえで、陥りやすい「あるある」だと思います。

 なぜこんなことが起こるのでしょう。それは、「具体性」と「自分ごと化」に課題があるからです。

 多くの場合、行動指針は会社全体で共通のものを設定します。もちろん、全社共通の行動指針をうまく運用できている会社もたくさんあります。しかし、事業内容や職種・役割の違いを反映できないため、どうしても抽象的な言葉になりがちです。

 「顧客第一」という言葉はどんなチームでも大事にされうる考えかたですが、何をどうすれば「顧客第一」を実現したことになるのか。それには、事業部・部署ごとの解釈が必要になるでしょう。「結局自分たちは日々どう動けばいいのか」を判断できる具体性がないため、運用しづらいと言えます。

 また、全社員を巻き込んで行動指針を定義することは、ほぼ不可能に近いです。すると、どうしても経営陣や本部からトップダウンで提供されるケースが多くなります。結果として、行動指針に対するオーナーシップが芽生えづらく、現場での定着に苦戦することとなります。

 それらを解決するアプローチとして紹介したいのが、全社とは別に「チーム行動指針」を定めることです。

「チーム行動指針」のメリットとリスク

 その名のとおり、チーム行動指針は、業務を一緒に進めるチーム内で定める行動指針です。

  • チームのミッションや業務と連動させることで、具体化しやすい
  • 自分たちで議論して決定するため、行動指針が自分ごと化されやすい

 といったメリットがあります。

 一方で、会社全体の行動指針がある場合には、上手に両立させるための工夫が必要になります。あまりにも相反する内容であれば設定自体を見直すべきですし、メンバーが混乱しないような棲み分けも必要です。

 今回、私が所属している開発チームのチーム行動指針について、その策定プロセスと運用方法を紹介します。チーム行動指針を導入したのには、大きくふたつの理由がありました。

  1. 会社全体の行動指針が、プロダクト開発における判断基準として抽象度がやや高かった
  2. 業務委託のパートナーが過半数を占めるチーム構成で、企業理念以外の統合軸が必要だった

 そこでプロジェクトメンバー全員を巻き込んでチーム行動指針を定め、運用していくことになりました。

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