技術に寄り添いながら驚きを生み出すために――Dentsu Craft Tokyoが目指す制作のありかたとは(後編)

技術に寄り添いながら驚きを生み出すために――Dentsu Craft Tokyoが目指す制作のありかたとは(後編)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2022/05/31 08:00

 東京オリンピック・パラリンピックに沸いた2021年の夏。選手たちの輝きに胸を打たれた人も少なくないだろう。輝かしい舞台の裏側には、それを支える技術や表現、そこに至るまでの探索がある。そんな舞台を支え、技術を通して新しい表現を創り出し続けているのが、Dentsu Lab TokyoとDentsu Craft Tokyoだ。両社が携わる領域は、スポーツや身体表現、美しさの探求、遊びやゲームなど多岐にわたる。データやテクノロジーを活用することで、どのような表現が生まれるのか。今回は若手メンバーを中心に日々の創作について話を聞きながら、技術と表現の探求へと迫る。

答えてくれた人たち

西村保彦:Technical Director

1980年長崎県生まれ。大学卒業後、WEBプロダクションでFlashサイトの構築等に携わる。WEBだけでなく、フィジカルな体験を伴ったコンテンツを提供することを目指し、2011年電通クリエーティブX入社。テクニカルディレクターとして、イベントやサイネージ、アプリ等のコンテンツ開発のディレクション及び実装を担当。

村田洋敏:Technical Director/Engineer

1982年兵庫県生まれ。 フリーランスの映像ディレクターを経て、2016年よりテクニカルディレクター/エンジニアとしてさまざまなインスタレーションやライブ演出などを手掛ける。 2020年よりDentsu Craft Tokyoに参加。

黒川瑛紀:Engineer

1994年生まれ。神奈川県出身。大学卒業後、広告代理店の営業を経てSONICJAMに入社。エンジニアとして数々のインタラクティブコンテンツの開発、またWebフロントエンドの開発に従事。個人でライブ演出やMVなどの映像制作も行う。2020年よりDentsu Craft Tokyoに参加。

配信を使った新たなライブ体験創出を目指して

――Dentsu Craft Tokyoではさまざまな自主開発のプロジェクトが行われているそうですが、最近の事例から教えてください。

村田 コムアイさんとオオルタイチさんによる「YAKUSHIMA TREASURE」というプロジェクトが、屋久島で滞在しながら制作した曲をリリースされました。コロナ禍でライブができない中、クリエーティブ・ディレクターの菅野薫さんのところに、配信を使って新しいライブ体験をつくれないかという相談がきたんです。

とくに「見たことがない」表現というのは、難しいお題だと思いました。VRにしたりとか360度で撮ってみたり、あとは森の中で考えられる方法──ドローンを飛ばしてみる、3Dスキャンを使うなどの実験を屋久島を想定したキャンプ場で行い、もっとも良い手法を検討していきました。今回は辻川幸一郎さんに監督として入っていただいたのですが、表現としても新しいものが生まれるのではないかということで、3Dスキャンに絞っていく方向に決まりました。

 

屋久島のガジュマルの森にPAシステムを360度のサラウンドで構築し、ライブパフォーマンスの一発録りを実施。360度の3D点群データとして空間をスキャンし、色彩、動き、音像を再構築。視聴者はアーティストと近づいたり、森の中を自由に飛び回り、物理的な制約を超えた視点でライブパフォーマンスを体感することができる。作品のテーマとなっているのは、沖縄・久高島に伝わる「輪廻転生の死生観(奄美群島のニライカナイ信仰)」。生前から埋葬までを表現する楽曲「殯舟」から始まり、埋葬〜死後の世界を表現する間奏を経て、楽曲「東」で輪廻転生の東の空へ到達するという世界を可視化している。

――新しいライブ体験をより豊かにするために、どのようなことに挑戦したのですか?

黒川 一般的なミュージックビデオとの差別化は苦労した部分ではありますが、リアルと映像の違いは「空間に自分が実在しているかどうか」が大きいと思っています。今回の配信ライブでは自分が実在する体験をどうにかつくろうと試行錯誤した結果、視点を自分で操作できたり、自分が体験した視点の情報をサーバー側に記録し、あとからほかの人の視点の軌跡を辿ることができる仕掛けを施しました。

村田 実際に屋久島に行ってライブをしてもらい、それを一発録りしたのですが、現地ではできるだけ多くのデータを記録することに専念。帰ってきたあとに、どのようなカメラワークであれば曲で表現したいことにつながるのかを、多くの時間を使いながら監督と一緒につくったことはとても印象的でした。長回しで最初から最後までワンカット構成にしたのですが、すべてのカットやアングルに意図をつけ、裏テーマの「魂の浮遊体験」が感じられるようなカメラワークに。実際のライブでは味わえない、デジタルの空間だからこそできる体験づくりに力を注ぎました。

――技術があるからこそ「魂が浮遊する体験」を設計できる。技術によって、新しい実在、実存が引き出されているのだと改めて感じました。

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。