3つの事例から考察 企業から求められるアートドリブンのアプローチとは

3つの事例から考察 企業から求められるアートドリブンのアプローチとは
  • X
  • Facebook
  • note
  • hatena
  • Pocket

 人間の真の豊かさを問う時代、問題提起や理想の未来像(ビジョン/インパクト)は何かを示し表現することが重要になる。ユーザーの問題ありきのデザイン思考ではなく、もっと利己的にイシュー自体を生み出す0→1のアート思考へ。デザイン思考を長年扱ってきたクリエイティブディレクターが、今取り組むアート思考のプロジェクトを交えながらその道標をレクチャーする。第2回は、アート思考を取り入れたプロジェクトを例に、導入の背景、アプローチの方向性など、どのように実践しているのかの要点を紹介していく。

既成概念や固定観念からの逸脱による変革・革新

 まず、クライアントからアート思考の導入について明確なオーダーがあることは稀だ。組織・事業のビジョンメイキング、プロダクト/サービスの開発やグロース、組織変革など、さまざまな目的/課題が複合した与件からスタートする。ただし、共通するのは、変革・革新を望んでいることだ。さらにつけ加えれば、クライアントだけでは既成概念や固定観念の枠を超えて飛躍できなかった、またはできそうにないという課題を抱えていることがほとんどである。

事例1)新規事業をプロデュースできるビジョナリーな人材育成のプログラム

 たとえばひとつのケースは、ファッションビルのPARCOの研修プロジェクト。新たな事業をプロデュースできる人材を発掘・育成したいというオーダーから始まった。

 これまでデザイン思考を取り入れた事業創出の研修を行ってきたが、それだけにとどまらず「事業を立ち上げてグロースしていくうえで起こりうる幾多の困難も乗り越えていけるビジョンと、そのための情熱を持った社員を育成したい」ということだった。

 このプロジェクトは、連載の第1回でも紹介したスタンフォード大学でのアート思考導入のケースを参考にした。ユーザーの課題を解決する素晴らしいサービスを考えついたとしても、他人ごとの課題解決には本気になれないという内容だ。

 そこで、参加者個々人が、個人の欲望からありたい未来を想像し、実現した社会のナラティブを描くプログラムを開発。アウトプットは、個人の主義主張、趣味趣向の塊としてふさわしい小さな雑誌『ZINE(ジン)』とした。研修後も、共感の輪を広げるコミュニケーションツールとして、ZINEの使用を推奨した。

 個人の欲望が起点ではあるものの、周囲を巻き込む大きな影響力を持つ必要があるため、ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士が提唱する「パブリック・ナラティブ」のエッセンスも取り入れた。「他者の巻き込み方」に関する方法論であり、活動の背景や小さな物語を、まず自分自身が語りはじめ(SELF)、仲間や周囲と価値観を共有しながら(US)、いま行動する理由(NOW)に落とし込んでいくことで、共感を軸に個人の熱狂を集団のムーブメントへと転換していくものだ。

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。