「人」とデザインを起点に長い歴史を持つ研究所
1921年に創業し、BtoBのファクトリーオートメーションや人工衛星、BtoCとして生活家電など幅広く事業を展開する三菱電機。高度な技術をもって社会課題を解決し、持続可能な社会を実現すべく、数多くの研究開発ネットワークを展開している。
そのなかでも同社の開発本部に属し、全社を横断したR&D組織としてデザイン関連の研究開発を行っているのが統合デザイン研究所だ。「デザインの行き先は、人。」を理念に掲げ、「人」を起点に多様な価値を生み出すべく、日々活動している。
所長室を筆頭に、大きく分けて3つの研究開発部署で構成されている。そのひとつが、サービス・ソリューションのデザインを担う「ソリューションデザイン部」。さらにBtoBを中心に担当する「産業システムデザイン部」、さらにBtoCが中心の「ライフクリエーションデザイン部」に分かれる。
研究所の歴史は長く、開発本部に所属する組織として活動を開始したのが1977年。当初はプロダクトデザインがおもな領域であったが、「最近では立ち位置がまったく変わっている」と言う。2023年4月に同研究所・所長に就任した長堀将孝さんは次のように続けた。
「モノからコトへの変化が起こる中で、デザインが貢献できる領域は徐々に広がっています。その中で、統合デザイン研究所はもともとプロダクトデザインが中心でしたが、サービスデザイナーやUXリサーチャーといった多様な人材も増えるなど、活動の幅を広げてきました」
長堀さんは1993年に三菱電機へ入社。白物家電などBtoC商品のデザインを担当して長く、2008年にいったん組織を離れるも4年ほどで復帰。以降はデザイン戦略部門として研究所全体の戦略立案や企画を担い、この4月から所長を務めている。
「現状課題の解決」と「未来志向」の双方でデザインを活用
その名のとおり、統合デザイン研究所における活動は事業に直結したデザイン開発だけでなく、将来の社会を見据えた新たな価値創出も重要なミッションとなる。具体的には「デザイン思考」を基本としたプロセスで、サービス・ソリューションのニーズや課題を探索し、得たインサイトをもとにアイディアを創出。さらにその視覚化や実証などの取り組みを経てブラッシュアップする――。そんなサイクルを回している。
統合デザイン研究所のノウハウが詰まったソリューションとして挙がったのが、鉄道で目にする「トレインビジョン」。グラフィックに関するUI研究の歴史は長く、多言語対応やユーザーにとってわかりやすい情報の表示方法などには、多くのノウハウが生かされているのだと言う。
一方、「デザイン思考は、現在の課題に対するアプローチと考えられます」と長堀さん。統合デザイン研究所では、そうした現状課題へのアプローチだけでなく「未来の価値」を洞察する活動にも注力している。全社横断のR&D組織として、起こり得る未来からのバックキャストで将来事業の機会領域や新たな研究開発テーマの探索活動も主導する。
具体的な活動として、2050年までの社会変化や価値観の変容に関する「兆し」となる情報を収集・分析する「未来価値洞察」の取り組みでは、同社が未来にあるべき姿を創出し、サステナビリティ経営における課題の整理なども実施している。
「ある意味で正解がない取り組みですが、こういったアクションによって社内の別部署との交流が生まれたり、社外も含めて将来を考える機運が高まるきっかけになったりすることを期待しています」
こうした活動が実を結び、社外からの表彰実績も豊富だ。デザインには「貢献度の数値化が難しい」といった課題が挙がりがちで、「長年研究所の成果をどのように外部へアピールすべきかには悩んできた」と長堀さん。だが、「そのなかで第三者の評価を得るのもひとつのやりかただと考えるようになり、受賞もデザインの成果としてアピールしています」と心境の変化を語った。
そのほかのユニークな取り組みとしては、2013年度に開始した「Design X」がある。「オフィシャルなアンダーグラウンド活動」を銘打ち、研究所に所属するデザイナーが自らの課題意識をもって自由にテーマを設定できる公募型のプロジェクトだ。