VRやメタバース文化には興味はあるものの、実際にどうやって始めたら良いのかわからず、なんとなく最初の一歩を踏み出せずにいるクリエイターもいるのではないでしょうか。現状、VR/メタバースプラットフォームは多岐にわたり、小さなコミュニティがあちこちに散在していることもあり、その実情が見えづらいように感じるかもしれません。
今回は、数あるVRコミュニティの中で活動するひとりのクリエイターにフォーカス。どのようにVRの世界への一歩を踏み出しスキルを身に着けていったのか、どのような活躍の場があるのかなど、インタビューを通してその実態をお伝えしていきたいと思います。
藍上アオイさんと青色クラブ
今回話を聞いたのは、藍上アオイ(@aiue_aoi_)さん。もともとは映画祭を主催したり映像制作をしたりするなど、リアルな世界でクリエイティブを手掛けていた方です。3D/VRの知識やスキルはなかったものの独学でVRChat内でワールド「青色クラブ」を制作。現在も継続的にイベントを運営されています。
青色クラブは、地下駐車場をテーマにした独特の雰囲気があるイベント空間。月2回のイベント実施のほか、2024年にはイギリスの「レインダンス映画祭」のイマーシブ部門にて、そのパーティー会場にも選定されました。
ここからは実際の取材の様子をお届けします。
きっかけは「実空間で難しかったことがVRならできるかもしれない」
――まずはVRに興味を持ったきっかけを教えてください。
もともと『攻殻機動隊』や『メタルギアソリッド』シリーズなど世界観にバーチャルな側面を持つ作品が好きで、VRには関心がありました。2020年ごろ、Valve社の名作アクションゲーム『Half-Life』のVR版が発売されたのですが、これを体験するためにVRヘッドセットを購入したのが最初のきっかけです。それ以降、VRChatの存在も知り、ワールドを巡るようになりました。はじめのうちは友人がいたわけではなくひとりで遊んでいたのですが、次第にのめりこんでいくようになったのは、日本コミュニティのワールドで知り合いができてからです。
――興味をもったあと、なぜ実際にVRChat内で制作活動を始めようと思ったのですか?
私はもともと映画祭を主催しており、イベントの空間設計も手がけていました。会場装飾や美術、世界観の設計などにこだわった特殊な映画祭でした。その延長で、VRならリアルでできなかったこと、たとえば地下駐車場でイベントをやりたいといった夢も実現できるかもしれないと思い、VR空間づくりに興味を持ちました。
主催していたリアルな映画祭では、場の文脈づくりを大切にしてきました。たとえばディスニーランドでも待ち時間を楽しめるように工夫されていると思いますが、そういった場所づくりのノウハウが、VRでの空間設計にも活かすことができていると感じます。
――実際にVRを制作するとなると技術的なハードルがあったと思いますが、どのように乗り越えていきましたか?
クリエイターコミュニティの存在が大きな支えになっていました。ワールド内では、仲間で知識をシェアしたり、わからないことがあれば教え合ったりする文化があります。金銭が絡まない、趣味のサードプレイスのような場所でお互いを高めあうような空気があったため、挫折することなくやってこれたと思っています。また、自分はもともと独学が好きで、新しい技術を学習するのにとくに抵抗がなかったことも大きいかもしれません。
――青色クラブは、イギリスの名門映画祭であるレインダンス映画祭で、イマーシブ部門のパーティ会場に選ばれました。その経緯を教えてください。
昨年イマーシブ部門にノミネートされた方が日本との架け橋となり、日本のワールドを海外に紹介してくださいました。このつながりが、パーティー会場として選ばれたきっかけです。
映画祭での記念写真を撮る撮影背景パネルを制作したり、スパークリングワインを用意したりと、イベントに向けていろいろな準備をしました。リアルな世界でもみんなでシャンパンやスパークリングワイン(ノンアルを含む)を用意して楽しもうという企画も行い、さまざまな方がXで事前に用意した飲み物を報告してくださいました。
――ちなみにVRChatでの活動は、実際の仕事につながっていますか?
青色クラブをきっかけに縁があり、Vsinger(VTuber)やVRChatのワールドの背景デザイン&モデリングのお仕事などをお引き受けしてきました。VRChat内での青色クラブの活動はあくまで趣味ですが、そこで培った技術をベースに、そして、ある意味自分のクリエイティブのプロモーションの場になって新しい仕事につなげることができているように感じます。もともとリアルで行っているお仕事の比率のほうがまだ大きいですが、少しずつ新しいクリエイティブにシフトしてきているように感じています。