矢野経済研究所は、国内のメタバース市場を調査し、市場概況、メタバース事業者の動向を明らかにした。
市場概況
2023年度の国内メタバース市場規模(プラットフォーム、コンテンツ・インフラなど、XRデバイスの合算値)は、前年度比135.3%の1,863億円と推計し、2024年度は同147.6%の2,750億円まで成長する見込み。2023年度は、コロナ禍で企業のDX化が加速し、メタバース市場への新規参入企業が急増した2021〜2022年度に比べ、一時的に成長率が減速した。
現状、国内のメタバース市場はPoC(Proof of Concept:概念実証)の段階を経て戦略的な投資に進む企業と、ROI(投資収益率)が向上せず事業から撤退する企業への二分化が進んでいるとみられる。2023年度から2024年度にかけて、メタバース役所(オンラインで一部の行政サービスを利用できるサービス)や、地域復興イベントなど自治体におけるメタバースの導入が積極的におこなわれている。また、産業分野においては教育や小売、エンターテイメントなどの領域で具体的なユースケースが普及しており、メタバースは特定分野で実用的な価値が認識される段階に進んでいると考える。
注目トピック
自治体におけるメタバースの需要拡大
自治体におけるメタバースの活用は、特に地域格差の解消に向けた取り組みとして注目されている。メタバースは、空間と時間の制約を受けずに活動できるというメリットがあり、今後、地域格差を解消する手段としての活用が一層進む見込みである。
具体的には、次のような分野が挙げられる。
教育分野での取り組み
過疎地や離島といった教育資源が限られる地域では、メタバースを使った遠隔教育が導入されている。たとえば、VRや3D空間を利用して、生徒が地理的な制約を超えて都市部の授業や専門的な教育プログラムに参加できる環境を提供している。これにより、物理的に参加が難しい地域でも、同等の教育を受ける機会が生まれる。そのほか、メタバースを活用した、不登校の子どもを支援するための自治体の取り組みが増えている。
医療サービスの拡充
医療資源が不足している地域では、メタバースを活用した遠隔診療や医療教育が試験的におこなわれている。医師や医療従事者が仮想空間で診療や相談をおこなうことで、過疎地の住民が都市部に移動せずに高度な医療サービスを受けることが可能に。また、医療従事者のトレーニングにおいても、メタバース内で技術習得がおこなわれることで、地域の医療レベルが向上することが期待されている。
観光産業の振興
地域振興の一環として、地方の観光地をメタバース上に再現し、仮想観光を促進する事例も増えている。これにより、都市部に住む人々や外国人がメタバース空間を通じて地方の観光地を仮想観光体験でき、地域の魅力を広く発信する機会が増加する。実際の訪問者を増やす前段階として、メタバース内でのプロモーション活動が重要な役割を果たしている。
将来展望
現状、国内市場においては、グローバル市場に比べてメタバースが消費者にまだ十分浸透していない。特に地方や高齢者層においては、メタバースに対する認知度が依然として低い。現在、メタバース関連業界では国内のメタバース市場を黎明期または幻滅期にあると認識されており、成功するビジネスモデルがまだ形成途中の段階であると考える。
このような状況下で、今後1~2年においては、爆発的な成長よりも継続的な投資やAIなどの周辺技術の研究開発が進み、エンタープライズ(法人向け)市場からコンシューマー市場へと徐々に浸透していくかたちになると予測する。5年程の長いスパンでみると、特にXRデバイスと組み合わせることで市場が成長していく可能性があると考えられる。
今後、コンシューマー市場にメタバースが広く浸透するためには、XRデバイス普及のタイミングが重要な鍵になると考える。これを前提に、2027年度以降にはXRデバイスの進展に加えて、AI技術によるコンテンツ開発の効率化・高度化がさらに進み、コンシューマー市場の成長が加速することで、2028年度の国内メタバース市場規模(プラットフォーム、コンテンツ・インフラなど、XRデバイスの合算値)は1兆8,700億円に達すると予測する。
調査概要
- 調査期間:2024年8月~10月
- 調査対象:メタバース関連の技術やサービスを提供する国内事業者
- 調査方法:同社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、ならびに文献調査併用