知っているからこそ見える部分と、知らないからこそ見える部分
僕はVTuber業界に7年以上携わっていますが、解像度が高いがゆえに気付けないこともあります。他業界の方とお話をするなかで、業界に対する新たな発見を得ることがあり、実際その新たな発見が事業に活きています。
そんな「業界に対して解像度が高いからこそわからない部分」を考えるときは、「自分の出身地」について考える場面をイメージするのが想像しやすいでしょう。
本屋さんでふとあなたの出身地の観光本を手に取ると、自分の知らないスポットが掲載されていたり、テレビ番組の地方特集で聞いたことのない料理がご当地グルメとして紹介されていたりしたことはありませんか?
自分の出身地だからこそ知っているその地域の魅力が存在する一方、他県で生まれた人から見える魅力もたくさんある。意外と地元民だからこそ見えていない部分は多かったりするものです。
このように、他業界の人間として対象となる業界をとらえることで、多くの人がまだ気づいていない業界の魅力を見つけられる。これはどんなケースでも存在すると思っています。解像度があまり高くないからこそ見える視点を上手く取り入れ、事業をより良いものにしていくことは、新規事業を行う上でとても重要です。
解像度の「高い」「低い」を上手く活用することが、新たな魅力発見につながる
では、「まちスパチャプロジェクト」を例に、解像度の高い側とそうでない側の意見をどういった形でおりまぜ、事業を行っているのかをお伝えします。
先述した「まちスパチャプロジェクト」は、VTuber業界と官公庁・公社・団体業界が手を取り生み出される事業のため、とくに自治体さんと一緒に取り組みを行っています。その問い合わせのきっかけは、「地方創生」がうたわれているものの、シティプロモーションに困っているというケースが多いです。
東京都や北海道、京都府、大阪府などは、資源の豊富さから国内でも有数の観光都市として注目されていますが、それ以外の地域では「自分たちも頑張ってPRをしなければならないことも理解しているけれど、何をどのようにプロモーションしたら良いかわからない」といった悩みを抱えている自治体さんが非常に多いように感じます。
これはまさに地域の解像度が“高い”からこそ、その地域にどのような魅力があり、何がPRの材料になるかわからないケースと言えるでしょう。
「まちスパチャプロジェクト」は、このような悩みを持つ自治体さんのシティプロモーションのお手伝いをさせていただいているのですが、その地域に何も接点がないような、つまり、その地域に対して解像度が低いVTuberさんたちを数名起用しています。解像度があまり高くないからこその視点を活かしながら、プロの意見や地元の方が語る「住んでいるからこそわかる魅力」もふまえたうえで、その地域の魅力を届ける“代弁者”となることを心掛けています。
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ときに「その地域に関わりのあるVTuber(通称「ご当地VTuber」)さんを起用しないとダメなのではないか?」といったご意見をいただくこともあります。ただ、さまざまなVTuberさんを起用しているのは、解像度の低い人は「まだその土地を知らない人の代弁者」として、解像度が高い人は「地元のインフルエンサー」として、というように、両方の気付きを大切にしたいと考えているからです。
もちろん、地域創生に関する取り組みでは、その地域に関わりのあるご当地VTuberさんが起用されることも多いです。鬼霧シアンさんが地元の釧路市観光大使に任命されたり、各都道府県のご当地VTuberさんが集結した「ご当地VTuberサミット」といったイベントが開催されていたりします。
【シアン情報】
— 鬼霧シアン🌟🍙北海道釧路市公認ご当地VTuber【cool釧路市観光大使】 (@cyan_onikiri) February 2, 2025
北海道釧路市公認Vtuberになりました!
cool釧路観光大使としてこれからも釧路の魅力をたくさん発信していきます☆
活動3年にして釧路市公認になれたのは日頃応援してくださる皆様のおかげです!
ありがとうございます♪pic.twitter.com/mRNuWE0owm
都道府県を代表してVTuberが起用される場合は、地元の方が親近感を持ちやすく、ご当地キャラクターのように愛される存在になるでしょう。ただ、まちスパチャプロジェクトは、「地域の魅力を発信する」ことが目的のプロジェクトであるため、より広く深くその地域の魅力を発信する必要があります。
よって、その地域に関わりのないVTuberさんを起用することは、より多くの方に地域の魅力を発信できるチャンスをつくることができます。また、解像度の低さが多くの視聴者の「代弁者」として良い効果をもたらし、地元の方も知らないような地域の魅力を再発見することにもつながるのです。
「良いVTuber事業」が生まれる土壌とは
VTuberはSNSで発達した業界であるため、SNS上で共通の関心や価値観を持つ人々のコミュニティが構築され、その中に業界独自の文化・ルールが存在します。
これはSNSに関わるすべての業界に通じるものでもありますが、SNSに関わる業界で事業を行う際はコミュニティ内の文化やルール、そこで過ごす人たちの価値観を十分に理解することが必要です。
僕たちは「VTuber」という新しくキャッチーなコンテンツを駆使して、他業界の問題を解決するためにさまざまな事業を行っていますが、事業のターゲットであるユーザー企業さんは、自身の領域への知識は豊富でも、もう片方の業界に対して解像度がそれほど高くないケースも多いように感じています。
そんなときに、VTuberを「代弁者」とし、多くの人が賛同できるような状態を上手くつくること。そして素直な感想を引き出すことで、取り扱う商品や取り組みを行う自治体について知っていただくきっかけを創出していきたいと思っています。
事業者さんや自治体さんの課題を解決ができないかと日々模索をするなかで、VTuber業界は独自の文化を持つまだ歴史の浅い業界なこともあり、「VTuber」を良く知らない方もたくさんいます。そのため、事業開発を行う際は、相手と自分とでは専門となる業界の知識量に差があることをしっかり理解する必要がありますし、まだあまり詳しくない人たちがこの業界に対してどのような印象を抱いているかを考えなければなりません。
このように、ユーザーだけではなく、事業者さんや自治体など事業に関わるステークホルダーの声も大切にしながら、ポイントをおさえながら事業をつくりあげること。これが、ほかの業界とともに事業を開発していく上で非常に重要です。
解像度があまり高くない人たちの視点や意見に配慮しながら、両者の折り合いをつけることができるようにコミュニケーションをしっかり行うこと。これが、業界を超えた事業を成功させるポイントになのかもしれません。