博報堂DYホールディングス、博報堂テクノロジーズ、松尾研究所は、共同開発を通じて、大規模言語モデル(LLM)を広告領域向けに高度化し、広告コピーの「多様性」と「品質」を同時に実現する自動生成技術を開発した。従来の広告生成AIに比べ、より多彩な表現と高い説得力を兼ね備えたコピーを生成でき、広告制作の効率化とクリエイティブの質的向上を大きく促進する。
研究の背景
博報堂DYグループは、広告・マーケティング領域において、「生活者視点に立った価値創出」を軸に、AIを活用した広告表現の革新に取り組んでいる。これまでもテクノロジーを活用して生活者インサイトを深く理解し、顧客企業のマーケティング活動を支援してきた。しかし、生成AIが広告制作の現場に浸透するにつれ、従来の汎用的なAIモデルでは表現が画一的になり、生活者に響く独自性のある企業のメッセージを届けることが難しいという課題が顕在化している。
こうした状況を踏まえ、博報堂DYホールディングス、博報堂テクノロジーズ、松尾研究所は、それぞれの強みをいかして広告に特化したAIモデルを共同開発し、より多彩で人の心を動かす広告表現を生み出す新技術を確立した。
各社の強みである、博報堂DYホールディングスのもつ長期間にわたり蓄積した生活者インサイトとマーケティング戦略の知見による総合的な視点、博報堂テクノロジーズのもつ広告領域特化のテクノロジー戦略や独自データ活用・ソリューション開発力による先端的広告表現の実現、松尾研究所のもつ東京大学 工学系研究科 松尾・岩澤研究室との連携による最先端AI技術の知見と豊富な産業界実装経験を生かしたモデル開発、それらを統合し、広告表現の多様性と品質を向上させ、AI活用による広告制作の革新を目指す。
生成AIが直面する広告表現の課題
広告市場では、ターゲットを魅了するため、 オリジナリティあふれるアイデアや印象に残る新規キーワードを打ち出せるかが重要。しかし、汎用LLMは過去の大量データをもとに「次に続きやすい単語」を予測する構造上、生成される文章も平均的で似通った文章に偏りやすい性質を有する。このため、従来の汎用LLMを利用した広告コピー生成モデルは、広告表示回数の多いビッグキーワードに対応した平均的な広告コピーを大量に生成する一方、表示回数の少ないニッチな表現やロングテールキーワードを反映した広告コピーの生成が困難で、画一的な文調になりがちという課題があった。
より多彩で人の心を動かす広告表現の開発
そこで、博報堂DYホールディングス、博報堂テクノロジーズ、松尾研究所は、広告ドメイン特化のLLM開発を共同で実施し、Meta社が開発したLlamaをベースに、Supervised Fine-Tuning(SFT) や RLHF(DPO手法) などの先端的アプローチを組み合わせ、広告表現の多様性とコピー品質を両立する新技術を確立した。
本研究は、以下の技術的アプローチにより、リスティング広告のような短文コピーにも適した高品質・多様な生成を実現している。
1.Supervised Fine-Tuning(SFT)
- 一般的な言語知識を備えたLlamaをベースに、広告特化のデータを用いて追加学習を実施。
- 従来の汎用モデルでは難しかった広告ドメイン固有の文脈理解を強化。
2.人間のフィードバックを活用(RLHF、DPO手法)
- 人間のフィードバックをもとに、より最適なコピーを生成するようモデルを強化。
3.デコーディング戦略やセマンティックな後処理
- 生成候補の比較をおこない、もっとも効果的な表現を選択するアルゴリズムを採用。
4.ペルソナ・カスタマージャーニーの導入
- 消費者の属性や行動に合わせた広告コピーの自動生成を実現し、より効果的な訴求が可能。
評価
生成された広告コピーの品質評価には、広告領域のベンチマークや実際の広告配信データを活用し、多角的に検証を行った。これらの評価では、BLEU-4やROUGE-1などの品質指標でGPT-4oと同等水準を保ちながら、Distinct-NやHill numberといった多様性指標でより高い値を示すケースが確認されました。品質は社内にある過去のLPと広告例との対応、多様性はLPに対して複数生成した広告群に対して計測される。一方で、生成時のパラメータ設定やプロンプト設計によって多様性と品質のバランスが変化することもわかっており、さらなる最適化の追求が今後の課題。
おもな評価指標
- Distinct-N(多様性スコア):ユニークなN-gramの割合
- SELF-BLEU(類似度スコア):生成文同士の類似度を測定
- BLEU / ROUGE / BERTScore:従来の言語モデル評価指標

注:表中の数値はGPT-4oのスコアを基準(=1.0000)としてノーマライズした結果である。
太字は各評価指標において最も優れたスコアを示す。
マーケティング活用でのメリット
今回の研究成果により広告制作コストが低減され、規模や予算に関係なく、あらゆる企業が生活者に響く高品質な広告を展開できる環境整備に貢献する。企業はより多様で魅力的な広告を効率的に制作し、生活者1人ひとりにとって有益で心に響く広告体験を届けることが可能になる。これにより、企業と生活者双方にとっての広告コミュニケーションの価値がさらに高まる。
今後の展望
本共同開発で開発した広告コピー生成モジュールは、博報堂DYグループの統合マーケティングプラットフォーム「CREATIVITY ENGINE BLOOM」の広告文生成機能(CREATIVE BLOOM TEXT Ads)に導入を予定している。同プラットフォームを通じて誰もが手軽に質の高い広告コピーを生成できる環境を提供する。
今回の共同開発で開発された広告コピー生成技術は生活者1人ひとりに寄り添った広告体験を生み出す。博報堂DYホールディングス、博報堂テクノロジーズ、松尾研究所は今後もテクノロジーとクリエイティビティを融合し、生成AIを活用した広告制作フロー全体の最適化などを通して、生活者が求める真に価値ある広告表現の実現に向けて、さらなる技術革新を推進していく。