車好きのUIUXデザイナーが考察する、車載インターフェース進化論

車好きのUIUXデザイナーが考察する、車載インターフェース進化論
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 デジタルプロダクション「factory4」でアプリやさまざまなIoTプロジェクトのUIUXデザインを手がける新谷友樹さんが、UIやUXにまつわるトピックを解説する本連載。今回は「車載インターフェース」についてです。

 こんにちは!Cosmowayが組織するデジタルプロダクション「factory4」のUI/UXデザイナー新谷です。

 今回は、自身が車好きでもある新谷が、車のコクピット、おもにインフォメントシステムに関するUIUXデザインに注目してみました。

 UIUXデザインというと、ウェブサイトやスマホのデザイン、最適化に取り組むことが多いかもしれませんが、車載インターフェースでは一考する必要があります。普段わたしたちが設計するインターフェースは、静的環境下で、ユーザーがタスクに集中して操作することを前提に構築されています。

 走行時におけるインタラクションエラーは、生命に危害を及ぼす可能性を内包するクリティカルなシステムです。しかもその主要タスクは「『運転』であってインターフェース操作ではない」という厳しい制約のなかで、デザインされなければならないのです。

 本記事では、自動車HMI(Human-Machine Interface)デザインの進化と将来展望について、歴史的変遷から最新テクノロジーまでを包括的に考察してみました。

1.アナログからデジタルへ――インフォテインメントシステムの進化

黎明期:スイッチとダイヤルの時代

 1950年代の車のダッシュボードを見ると、機械的な計器と物理的なスイッチのみ。ラジオのチューナーを合わせるには、ノブを回して周波数を探す必要があったため、当時のデザイナーの課題は「直感的な操作感」を物理オブジェクトで表現することでした。スイッチの形状、抵抗感、クリック感など、触覚フィードバックが情報伝達の要と言えます。

 そして、80年代当時のナビゲーションシステムは「紙媒体地図読解と口頭指示」、つまり人が地図を広げて伝えるといったアナログなインターフェースでした。子供のころ、父親が地図を広げて確認していたのを記憶しています。

1990年代に世界初のGPSカーナビが実用化

 1981年にホンダが開発した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケーター」は、GPSではなくジャイロセンサーを用いた世界初の地図型ナビ。この登場は、自動車インターフェースの進化において画期的でした。この時期のカーナビUIはタッチスクリーン型とは異なり、物理ボタンやダイヤルによる入力が主流で、表示もモノクロ液晶やシンプルな描画に限定されていました。

出典:ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ|テクノロジー|Honda公式サイト
ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ|テクノロジー(出典:Honda公式サイト

 そして90年代に入り、マツダやホンダが世界初のGPSカーナビゲーションシステムを実用化し、本格的なデジタルナビゲーションの時代が到来します。タッチパネルの採用により、物理ボタンに頼らず直感的に操作でき、GPSによる現在地の更新で運転中のルート案内もスムーズに。それによりユーザーは地図を確認する手間が減り、運転に集中できるようになりました。これらは革新的ではあったものの、UIUXの視点からみると「情報の可視化」や「直感的操作性」などの課題を抱えていたと言えます。

  • 情報設計の未成熟:メニュー構造が複雑で機能へ素早くアクセスしにくく、直感的な操作が難しかった。
  • 視認性の問題:低解像度ディスプレイで視覚的負荷が高く音声案内の実装も限定的であり、視覚的負荷が高かった。
  • 操作性の制約:タッチパネルがまだ一般的でなかったため、物理ボタンやダイヤル操作が主流で、操作感は直感的でなかった。

 これは、モバイルウェブ開発初期におけるレスポンシブデザイン不在の問題と類似しているように思います。モバイルサイトがデスクトップの縮小版だったように、初期のカーナビゲーションUIも既存のメンタルモデルをそのまま移植したにすぎず、コンテキストの最適化が欠如していました。ただ、デジタルナビの導入自体が画期的であったため、のちの「タッチインタラクション技術」や「音声操作の普及」につながる重要な布石となっています。この90年代のカーナビ登場を経て、より洗練されたデジタルHMIへと進化していくことになりました。

2000年代:デジタル統合フェーズ

 2000年代のカーナビは、タッチパネルの普及や高解像度ディスプレイの採用によって、いっそう直感的で視認性の高いUXへと進化していきます。音声案内の向上やVICSによるリアルタイム交通情報の活用で、運転中の負担も軽減。さらに、HDD・DVDナビの登場によりルート計算が高速化し、車両システムとの統合が進んだことで、ナビは「単なる道案内」から「車の頭脳」へと生まれ変わりました。

 たとえば、2001年から登場したBMWのiDriveは、中央のロータリー式コントローラーを回して画面上のメニュー階層、車両設定などが統合。単なるナビゲーションシステムではなく、「車全体の情報ハブ」としての役割も果たすようになりました。

2001年のBMW 7シリーズにも採用されたiDrive(出典:BMW)
2001年のBMW 7シリーズにも採用されたiDrive(出典:BMW

 これは、のちにほかのメーカーもダイヤル式コントローラー+ディスプレイUIを採用するひとつの流れを生みました。現在ではタッチスクリーンやジェスチャーコントロール、AIアシスタントとも統合され、さらに進化を続けています。

 ただし、タッチパネルの感度や操作性にはまだ改善の余地があり、メニューの階層が深く直感的な操作が難しいモデルも存在していました。また、当時の処理性能ではルート再計算や画面スクロールのレスポンスが遅く、運転中にストレスを感じることも。安全面では、タッチ操作に視線を奪われるリスクもあり、運転中の利便性には依然として課題が残されていました。

現代:タッチインタラクションの再定義

 タッチインタラクションは2000年代初頭から車載ナビゲーションに採用され始め、スマートフォンの普及とともに一般化してきましたが、今日ではエントリーモデルの車にも標準装備として高度なタッチスクリーンナビゲーションシステムが搭載されるようになり、直感的な操作と情報の可視化、ユーザーエクスペリエンスが劇的に進化しています。とくにテスラがModel Sで17インチの大型タッチスクリーンを導入したことは、既存のタッチインターフェースを大幅に拡張し、リアルタイムフィードバックや高度な運転支援システムと統合することで、ドライバーと車両のインタラクションのありかたを再定義しました。こうした進化により、タッチインタラクションは現代の車両において不可欠な要素となり、車内体験を大きく向上させています。

Model S(出典:Tesla)
Model S(出典:Tesla
  • OTA(Over-the-Air)アップデートによる機能追加:ハードウェアを変えずにソフトウェアで機能追加や改善が可能に。
  • スマートフォンとの連携強化:スマートフォンを使用して車両を遠隔操作できる機能を提供。
  • シームレスな体験の追求:エンターテイメント、ナビゲーション、車両管理がシームレスに統合され、ユーザーが煩わしい操作をしなくても車両を快適に利用できる。

 これらは現代の自動車業界におけるUXデザインやインフォテインメントシステムのスタンダードに反映されました。テスラはEV業界だけでなく、全体的なカーインフォテインメントシステムの進化にも大きな影響を与えたのです。