タイポグラフィの進化がブランドを動かす──Frontifyウェビナーから学ぶ8つの視点と2025年注目のフォント

タイポグラフィの進化がブランドを動かす──Frontifyウェビナーから学ぶ8つの視点と2025年注目のフォント
  • X
  • Facebook
  • note
  • hatena
  • Pocket
2025/05/19 08:00

 クリエイティブやテクノロジー領域を中心に、海外で話題のトピックをお届けする本連載。今回は、「タイポグラフィとブランド体験」、「フォント」がテーマです。

 2025年、デザインの世界においてタイポグラフィの存在感がますます高まっている。無限に広がるスクリーン、そして注意力が短くなったなかで、文字は単なる情報伝達手段ではなく、ブランドの物語を語る“語り手”としての役割を担い始めている。フォントはもはやデザインの一部ではなく、ブランドそのものの個性を形成する重要な要素であり、消費者との感情的なつながりを生み出す力を持っている。

 ブランド構築プラットフォーム「Frontify」が開催した最新ウェビナーでは、タイポグラフィがブランド体験の中で果たす戦略的な役割に迫った。モデレーターはFrontifyのマーケティングのヴァイスプレジデントDigge Zetterberg氏。ゲストには、ロンドン、ニューヨーク、上海に拠点を置くクリエイティブエージェンシーJones Knowles Ritchie(JKR)のKatie Rominger氏と、家庭用電子機器で使用するデジタル写植と書体デザインを専門とする米国企業MonotypeのPhil Garnham氏を迎え、現代の書体の可能性と今後の展望について語られた。

 ウェビナーで語られたポイントは、単なるデザインの技術的側面にとどまらず、タイポグラフィがブランドのアイデンティティをどのように形成し、消費者との絆を深めるかという戦略的観点からも深く掘り下げられた。以下に、ウェビナーから得られた8つのキーポイントを紹介する。

 さらに、2025年にはタイポグラフィのトレンドも大きく変化しており、デザイン界では注目のフォントとそのスタイルが続々と登場している。それを受け、英国のデザイン系ウェブメディア「Creative Boom」がコミュニティに向け調査した2025年注目のフォントと注目すべきトレンドについても紹介する。

1. インタラクティブな書体の台頭

 AIの進化により、タイポグラフィは自動化と対話的な表現へと進化している。Phil Garnham氏は、書体が周囲の環境や動きに反応することで、デザインがよりダイナミックかつインタラクティブになる可能性を説明した。「AIは私たちにあらゆるコミュニケーションの形態を提供してくれます。光や音、動き、ジェスチャーすらも、書体と対話することができるのです」と述べ、インタラクティブなデザインが新たなブランド体験を生み出す可能性について触れた。

2. メタバースにおける書体の可能性

 現代のデザインは、物理的な世界だけにとどまらず、デジタル空間、とくにメタバースにおけるタイポグラフィの役割を模索している。Phil氏は、「仮想空間でのグラフィティが空間を占拠し、その空間を自分のものとして表現する新しい形態」が登場していると指摘。メタバースでのタイポグラフィは、空間を文字で表現する新しい手段として、さらに進化していくと予測されている。

3. 創造性と実用性の両立

 2025年のデザインでは、書体は視覚的に魅力的であるだけでなく、さまざまな使用場面でも効果的に機能しなければならない。JKRのKatie Rominger氏は、「書体の選択は、クリエイティビティと機能性を上手くバランスさせることが重要だ」と語る。大企業のブランドにおいて、書体は一貫性を保ちながらも、視覚的な魅力を提供しなければならない。これにより、フォントがさまざまなメディアでシームレスに機能し、ブランドの一貫したメッセージを強化する。

4. ワークホース vs ブランドの個性

 大手ブランドにおけるフォント選びは、単なる“選択肢”ではなく、ブランドのターゲット市場とそのニーズに応じた戦略的な選択である。たとえば、Burger Kingでは、ジューシーで食欲をそそるような書体が選ばれ、Walmartの書体は、目立たないが確実にブランドメッセージを伝えるものとして設計された。ブランドの個性を強調しつつも、用途やコンテキストに適したフォントを選定することが求められる。

5. デザインプロセスは広く始める

 カスタムフォントをデザインする際、JKRのアプローチは広範囲に渡るブリーフからスタートし、自由な発想と実験を促進することだとKatie氏は説明する。「最初に広いブリーフを与えて、デザイナーに自由に試させる。その後、クライアントのニーズに基づいて、最終的なフォントを洗練させていく」。このアプローチにより、革新的でかつブランドにマッチしたデザインが生まれる。

6. クライアントの感覚的なフィードバックを尊重

 フォントに対するクライアントの反応は、しばしば論理的なものではなく感情的なものだとKatie氏は指摘する。「フォントをクライアントに提示した際、その反応は感情的なものです。デザイナーはその感情的な反応を理解し、それがブランドの目標に沿っているかを見極めることが重要です」。クライアントの直感的なフィードバックを尊重し、共感する姿勢が求められる。

7. 実用的な設計要件の考慮

 フォントデザインには、視覚的な美しさだけでなく、実用的な側面も重要だ。Phil氏は、「フォントがどれだけ小さくても読みやすく、印刷媒体やデジタル端末でしっかりと機能することが求められる」と述べ、最終的にはその書体がどのような環境で使用されるかを考慮する必要があると強調した。

8. コラボレーションの力

 書体開発には、デザイナーだけでなく、フォントファウンドリーやソフトウェア開発者との密な連携が必要である。Monotypeでは、AdobeやMicrosoftと協力して、複雑な可変フォントの新しい仕様を作り上げた。Phil氏は、「こうした協力関係によって、書体が技術的に実現可能なものとなり、最終的にはブランドのニーズを満たすものになります」と述べ、コラボレーションの重要性を再確認した。