特許庁、「中小企業におけるデザイン経営の効果・ニーズに関する調査」報告書を公開

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2025/05/09 12:00

 三菱総合研究所(以下、MRI)は、特許庁の委託で実施した「令和6年度 中小企業におけるデザイン経営の効果・ニーズに関する調査」報告書を公開。同調査では、デザイン経営支援プログラムに参加した中小企業90社超を対象に、デザイン経営の実践がもたらす変化や成果を明らかにし、共通して見られる3つの効果の発現プロセスを「デザイン経営の効果発現モデル」として体系化した。

1. 背景

 2018年に経済産業省と特許庁が「デザイン経営」宣言を発表して以降、全国各地で、経済産業局や地方自治体などの支援機関による、企業のデザイン経営を後押しする取り組みが広がっている。

 しかし、デザイン経営は成果が見えるまでに時間を要し、その価値を客観的に示すことが難しいため、支援現場では「説明力のある普及」が課題となってきた。また、デザイン経営とは具体的に何に取り組むものなのかが企業に十分に理解されず、その有効性に懐疑的な見方や、関心はあっても実践には至らないケースが多く見られる。

 こうした背景を踏まえ、本調査では、デザイン経営が企業内部の変化を引き起こす非財務的な効果に注目し、それが企業の持続力向上につながるプロセスを「デザイン経営の効果発現モデル」として提示した。本モデルは、企業における実践の後押しや、支援者による説明・評価の補助ツールとして活用されることを意図している。

2. 概要

デザイン経営の効果発現モデル

本調査では、経済産業局や地方自治体が提供するデザイン経営支援プログラムに参加した中小企業90社超を対象に、多くの企業に共通して見られた3つの効果が、どのような取り組みを通じて発現するのかを体系化し、「デザイン経営の効果発現モデル」として整理した。

デザイン経営の効果発現モデル 出所:特許庁「令和6年度 中小企業におけるデザイン経営の効果・ニーズに関する調査」報告書より三菱総合研究所作成
デザイン経営の効果発現モデル
出所:特許庁「令和6年度 中小企業におけるデザイン経営の効果・ニーズに関する調査」報告書より
三菱総合研究所作成

3.デザイン経営の効果発現モデル

デザイン経営の3つの効果

調査対象となった多くの企業において、共通して見られた主な効果は次の3点だった。

自社らしさの明確化

経営者が自社の個性や強みを言語化し、社内外に発信。これにより、企業変革の方向性が明確になり、組織内に共感やビジョンが共有される。

人材の採用と定着化

経営者が自社の魅力を言葉で表現し、従業員が共感・主体的に行動することで、人材の採用や定着につながる組織文化が醸成される。

新規事業の創出

自社の強みと意思が融合し、顧客やパートナーとの関係性が深まるなかで、新規事業や商品コンセプトが自然と生まれる。

 くわえて同報告書では、今後の支援制度設計や知財活用のありかたへの示唆とすべく、デザイン経営と知的財産との関係性、デザイン経営を継続している経営者像や企業の状況、支援プログラムの詳細も整理し、実践促進に向けた包括的な知見を提供している。

3. 今後の予定

 MRIはこれまで、公益財団法人日本デザイン振興会との共同研究や各種委託調査を通じて、企業におけるデザイン経営の実践状況やその効果、支援のあり方に関する知見を蓄積してきた。これらの取り組みにより、デザイン経営が企業の共創力や競争力を高め、持続的な価値創出を実現する重要な経営手法であることを確認している。

 今後は、こうした知見を、企業の経営ビジョンやパーパスの策定、中期経営計画の立案、ブランディング、新規事業開発といった経営コンサルティング領域へ横断的に活用し、より高い付加価値の提供を目指す。

 今後も関係機関との連携や実践的な調査活動を通じて、企業が自社の個性や強みを起点に、顧客や地域との関係性を深めながら新たな価値を生み出すプロセスを支援し、日本の産業競争力強化と経済の持続的発展に貢献する。