会社員ならではの視点で描かれるビジネス小説『高宮麻綾の引継書』
続いて2冊目。こちらもデビュー作でいきなり話題となった『高宮麻綾の引継書』(講談社/城戸川 りょう)を紹介します。

食品関連企業で働く主人公の高宮麻綾。彼女がビジネスコンテストで受賞した企画を進めようとしたところ、昔同じような内容で死亡事故が起きた事例があったため頓挫。失意に暮れる高宮だが、実はこれが事故ではなく故意に起こされた可能性に気づいて……、といったお話です。
現在も某企業で働かれている城戸川先生だからこそ、会社組織のリアリティを描くことができたのでしょう。「読みやすいビジネスミステリの新風」と言いきれる1冊です。
ビジネス小説も長い間愛されているジャンル。実写化された半沢直樹シリーズなどが根強い支持を受けるのは、働きながらも日々鬱屈している主人公に共感するからではないでしょうか。崖っぷちからの大逆転が爽快感を生む。つまり「どんな逆境を作り出すことができるか」も良い小説のひとつの条件なのかもしれません。
ただそもそも「ビジネス書」は本屋さんに数多く並んでいますし、そのなかでベストセラーもたくさんあります。ただ小説となると書きかた自体が異なるため、なかなか同じようなペースで「ビジネス小説」は登場しません。
この小説のすごいところは、ビジネスだけではなくミステリの要素も入っていながら、文章が小難しくなく読みやすい点。だからこそ普段ビジネス書は読むけれど小説にはあまりなじみがないといった人たちにも届いているし、僕のように一回も会社で働いたことがない人でも存分に楽しむことができる。より多くの人たちが楽しめるものを届けるという、城戸川先生のビジネスパーソン精神が活きているのではないでしょうか。
今回紹介した2作品は、良い主人公が登場する物語でありながら、とても読みやすい小説でもある。つまり「伝えたいメインがはっきりしていれば受け入れやすい作品になる」と言えるかもしれません。
冒頭にもお伝えしたとおり、ストレス解消にも効果がある小説だと思いますので、煮詰まっているときなどにぜひ読んでみてください!