生成AIが席巻するクリエイター経済――AIクローンと多言語展開が生む新ビジネスチャンス

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2025/07/28 08:00

MrBeastも実践:AIによるグローバル戦略

 このトレンドを象徴するのが、世界的YouTubeスターである「MrBeast(ミスタービースト)」の戦略である。彼はすでに自身の動画を10以上の言語に吹き替え、多言語チャンネルネットワークを構築。数千万人規模の新たな視聴者を獲得している。

 もともとMrBeastは、人力で翻訳や収録を行っていたが、近年ではAIによる音声合成や自動字幕生成を積極的に取り入れている。これにより、彼は効率と拡張性を同時に実現し、グローバルな視聴者層へのリーチを拡大。彼のようなトップクリエイターがAIを活用することは、ほかの中堅層にあたるクリエイターにも強いインパクトを与えている。

 AIによる言語変換とパーソナライズされたボイス再現技術の進化は、「同じ動画をグローバルに届ける」という概念を根本から変えつつある。日本のクリエイターにとっても、世界市場を視野に入れたコンテンツ戦略が現実的なものになってきた。

生成AIが再定義する「個人ブランド」と「収益モデル」

 こうした動向は、クリエイター経済の本質に大きな変化をもたらしている。かつて「個人の影響力」は、時間や物理的制約に縛られていた。しかしAIによって、クリエイターは“分身”を生み出し、24時間365日、複数言語・複数チャンネルで活動できる存在へと進化しつつある。

 これにより、収益化の方法も変わってきた。広告収入やタイアップに依存するモデルから、AIコンシェルジュによる相談サービス、学習用AI、購買誘導チャットボット、グローバル課金チャンネルなど、スケーラブルかつ高粗利なマネタイズ手段が増えている。

 さらに、AIはデータを通じて視聴者の関心や反応を分析し、パーソナライズされたコンテンツやレコメンドを提供できる。これは、単なる拡散だけでなく「ブランドエンゲージメント」の深度を高める要素ともなり得る。

VCらの熱視線をうけ、次のフェーズへ

 Delphi社やLinguana社の成功例からもわかるように、生成AIとクリエイター経済の融合領域には、ベンチャーキャピタル(VC)を中心に熱視線が注がれている。これは単なる技術革新ではなく、個人の影響力をAIで複製・拡張し、グローバル規模でスケールさせる新たなビジネスモデルとして期待されているからだ。

 たとえば、従来は多くの人的リソースを必要とした多言語展開やファン対応、コンサル業務などが、AIクローンや自動翻訳によって少人数でも運用可能になりつつある。こうした構造の変化により、投資家からは「スケーラブルかつ高収益な事業モデル」として注目されている。

 実際、音声合成やローカライズ、パーソナルAIのAPI化といった領域では、すでに数十社が資金調達を進めており、「ひとりのクリエイターが10市場を同時に開拓できる」という将来像が現実味を帯びてきた。VC側にとっては、SNSやYouTubeのインフルエンサーという“既存の影響力”を、AIによって資産化・複利化できるかどうかが重要な評価ポイントとなっている。

 このように、生成AIはコンテンツ制作だけでなく、クリエイターの事業そのものをアップデートする力を持っており、今まさにその「第2フェーズ」が始まろうとしている。