かつて「影響力」という言葉は、メディアに露出する人たちが持つものとして使われる言葉でした。ですがSNSが普及し、誰もが発信できるようになり個人が影響力を持つことが当たり前になりました。そして注目すべきは、この影響を意味する「インフルエンス」という価値が、技術者やクリエイターにも広がりつつある点です。
とくに顕著なのが、VTuberやVライバーを中心としたバーチャルカルチャーが広がりなかで起きている変化です。これまで「裏方」や「縁の下の力持ち」と捉えられていたクリエイターやエンジニアが、“表に出る存在”として注目を集め始めています。
なぜクリエイターがVTuberを通じてインフルエンス力を持つようになったのか
VTuber業界は、キャラクターや声優だけではなく、それを支える「つくる人」の力によって成立しています。Live2Dでのモデリング、衣装デザイン、リアルタイムモーションキャプチャ、音声合成、OBSなどの配信設計……。それら1つひとつが高度な専門性を持っていましたが、これまであまり表に出ることはありませんでした。

クリエイターや技術者がVTuberを通じてインフルエンスを持ち始めた背景には、SNSの発達が大きく関わっています。これまでクリエイターは制作会社やクラウドソーシングサービスを経由して仕事をしていましたが、SNSの普及により、企業を介さずに直接作品を発信できる時代になりました。
この変化の核心は「ネームクレジット問題」です。従来、クリエイターの最大の悩みは、自分が制作した作品であっても企業や案件の都合で名前を出せないことでした。ビジネスサイドから見ればとくだん違和感がないことかもしれませんが、クリエイターにとって自分が制作したものだと公表できないことは大きなジレンマでした。
SNSの発達によって「インターネット上で有名になった人に仕事を依頼する」といった流れも生まれました。その理由は単純明快で、「名前を知っているから」。これに尽きます。
SNSで名前を知られており顧客の要件を満たせるだろうと想像できる技術力がある人は、VTuberとして活動をしようと思ったときに名前を思い出してもらうことができるため、当然問い合わせも増えるでしょう。
そうやって名実ともに著名な人に仕事を頼むとき、この場合の依頼者にあたるVTuberは実績公開としてその人の名前を出すことが多いはずです。また依頼されたクリエイターも「こんな仕事をいただきました」と喜びを表す――。こうして作品とそれを制作した人の名前が結びついていくのです。「誰が作ったのかがわかる」ことにも価値が生まれる時代になりました。
VTuberとクリエイターは「相互利益」の関係
VTuberの存在で特徴的なのは、「制作したものが一回限りで消えないこと」です。通常、イラストやデザインはリリースの瞬間をピークに、注目度は下がっていくことが多いです。しかしVTuberは毎日、毎週、何年も活動を続けていくことも珍しくないため、配信や動画を通じて「誰がこのキャラクターを作ったのか」「このビジュアルの制作者は誰か」と繰り返し認知が生まれる。
一度だけのポートフォリオではなく、半永久的に動き続ける作品として、クリエイターの看板を背負ってくれるのです。そのため業界でも「このVTuberの制作に携わったのはこの人だ」と知ってもらえますし、著名なクリエイターが手がけることで、VTuberの注目度も高まります。
こういったVTuberとその制作に関わるクリエイターの構造は、相互利益を生み出します。VTuberの人気が出ればクリエイターも有名になり、著名なクリエイターが携わったことがわければ、VTuberの注目度も上がります。
その象徴的な例が、ホロライブ所属のVTuber・大空スバルさんを担当している、クリエイターのしぐれういさんです。純粋なイラストレーターとして活動されていましたが、大空スバルさんとのコラボをきっかけに、作品と名前が同時に拡散され、ご本人もVTuberとして注目されるようになりました。
adrenaline!!! / TrySail (covered by しぐれうい&大空スバル) https://t.co/murtBzOIbL
— しぐれうい🌂 (@ui_shig) September 15, 2021
100万再生ですって!ありがとうございます!!!
たくさんみていただけて嬉しいです……😢
こちらはMV用に撮りおろしたふたり🌂🚑 pic.twitter.com/3KwT7wEen0
「大空スバルさんを手掛けた、しぐれういさん」でもあり、「しぐれういさんが生み出した大空すばるさん」でもある。そんな関係が、両者の価値を高めているのです。