エンタメと社会貢献の融合──VTuberもその一翼を担える存在へ
エンタメが社会課題の解決に貢献する事例は、私たちの身近に存在しています。たとえば、人気YouTuber「フィッシャーズ」は、2019年に日本財団パラリンピックサポートセンターが主催するパラスポーツ体験イベント「i enjoy ! パラスポーツパーク」とのコラボレーションを実施。この取り組みは、東京おもちゃショー2019の会場内で行われ、子どもたちを中心にパラスポーツの魅力を伝えたり、理解を深めたりしてもらうことが目的でした。
イベント内で実施された「フィッシャーズと一緒に学ぶ!パラスポーツ博士への道 クイズラリー」では、会場内に設置されたメンバーの等身大パネルを“探しながら”クイズに挑戦することができるなど、楽しみながらパラスポーツの知識を深められる構成でした。クイズに参加した子どもたちには「パラスポーツはかせ認定ステッカー」が配布されるなど、遊びの延長のように学べる仕掛けが施されています。
また、アニメ『鬼滅の刃』は、2021年に徳島県赤十字血液センターとのコラボレーションを通じて地域の献血促進に大きく貢献しました。
この取り組みで実施されたのは、献血協力者に向けて『鬼滅の刃』の限定A3ポスターをプレゼントするキャンペーン。アニメイベント「マチ★アソビ」に合わせて制作された約3,000枚の非売品ポスターが目玉となり、普段は献血の予約が埋まらない日にも多くの申し込みが殺到。当時、外出自粛や商業施設の閉鎖などによって献血者数の減少が深刻化するなか、急きょ献血バスが追加派遣されるほど盛況でした。
本来であれば行動のハードルが高くなりがちな「献血」も、人気キャラクターの力を借りることで自分ごととして捉えてもらえるようになったのです。(参考記事)
このように、VTuberが果たせる役割は今後さらに広がっていくと考えています。VTuberが持つ「キャラクターとしての親しみやすさ」「ライブ配信などで双方向のコミュニケーションが取れる」「長期的な関係構築ができる」といった強みを活かすことで、「防災情報を伝える」「介護や認知症ケアを紹介する」「伝統産業の職人と一緒に配信を行う」など、エンタメの枠を超えた活躍ができる可能性を秘めています。
たとえば2024年には、VTuberの旅のそらさんが衆議院総選挙の開票速報配信をして話題になりました。
ほかにも美術館とのコラボ、観光誘致などへの展開が模索されており、認知を広げていくための「語り手」としての役割に注目が集まり始めています。
従来のキャラクターマーケティングでは、企業のマスコットがかわいさや親しみやすさの点から重視されてきました。しかし、ユーザーと直接やりとりでき、関係性を築くことも可能な存在だからこそ、ファンとの絆を深めることもできます。その特性を活かすことで、エンタメ以外の領域でも「好き」から「信頼」へとつながる体験設計が可能になるのです。
VTuberは、エンタメを超えて社会と共鳴する存在へ
VTuberは、配信で視聴者を楽しませたり、グッズを売ったりするだけの存在ではありません。それだけにとどまるには、あまりにも多くの可能性を秘めていると私は感じています。
「自分の魅力を表現する手段」「知られていない世界に光を当てるインターフェース」「社会課題とエンタメをつなぐ“語り手”」など、VTuberはより多くの業界や場面で今後活用されていくことでしょう。
そのなかで私は、VTuberという存在の本質的な可能性を信じ、社会とつながるキャラクターづくりにこれからも挑戦していきたいと思います。