ソニーグループ(以下、ソニー)は、2024年度経営方針説明会を開催した。説明会では、会長 CEOの吉田憲一郎氏が経営の方向性を、そして社長 COO 兼 CFOの十時裕樹氏が長期ビジョンとその実現に向けた取り組みを紹介した。
吉田氏は、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurpose(存在意義)のもと、コンテンツ、プロダクツ&サービス、半導体(CMOSイメージセンサー)という3つのビジネスレイヤーにおいてソニーが取り組んできた「クリエイションシフト」について説明しました。そして、CMOSイメージセンサーやゲームエンジンを用いた「リアルタイム・クリエイション」について言及し、今後もテクノロジーを通じて人々のクリエイティビティに貢献していくと述べた。
続いて十時氏が、第5次中期経営計画(2024〜2026年度)の先にある未来のソニーの長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」を紹介した。そして、この長期ビジョンの示す方向性に向けて、IP価値最大化の取り組みとそれを支える技術基盤の確立を着実に進めるとともに、事業と人材の多様性の継続的な進化により、さらなる成長の実現を目指すと述べた。
概要は次のとおり。
1. グループシナジーの加速と進化
ゲーム&ネットワークサービス、音楽、映画の3つのエンタテインメント事業は、2023年度のグループ売上高の約6割を占める。2021年のグループアーキテクチャー再編により、グループシナジーも加速した。パーシャル・スピンオフに向けて準備を開始した金融事業については、自立を通じたさらなる進化を、ソニーブランドの利用や各事業との連携強化によりグループ全体で支えていく。
2. クリエイションシフト
エンタテインメントへの注力に加えたもうひとつの経営の方向性として、次の3つのビジネスレイヤーの軸足を「クリエイション」側にシフトしてきた。
2-1.「感動」に直結するコンテンツ
2018年のEMI Music Publishingの買収を起点に6年間で約1.5兆円を投資し、コンテンツクリエイションを強化。2021年にはアニメに特化したDTC(Direct-to-Consumer)サービス「Crunchyroll」を買収し、アニメクリエイターコミュニティへの貢献を志す。
2-2.「感動」を生み出すプロダクツ&サービス
エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)分野では、クリエイターと共にエンタテインメントを創造することに注力。2023年度、ET&S分野においては、営業利益の8割以上がクリエイションに関わるビジネス(イメージング、スポーツ、バーチャルプロダクション、プロオーディオなど)から創出。
2-3.クリエイションを支える半導体
クリエイションを支えるCMOSイメージセンサーに注力し、過去6年間で約1.5兆円の設備投資を実施。CMOSイメージセンサーは、新たなエンタテインメント空間と位置付けているモビリティの安全にも貢献。
3. リアルタイム・クリエイション
「リアルタイム」をキーワードに、CMOSイメージセンサーやゲームエンジンのクリエイションテクノロジーに注力していく。
3-1.「瞬間」を捉えるテクノロジー
- グローバルシャッター方式のフルサイズイメージセンサーを搭載したミラーレス⼀眼カメラ「α9 III」は、今年3月に英・グラスゴーで開催された「2024世界室内陸上競技選手権⼤会」でも活⽤された。
- 今年発表した5G対応ポータブルデータトランスミッター「PDT-FP1」による撮影現場でのリアルタイム写真転送は、迅速な報道・制作を可能にし、スポーツの感動を届けることに貢献。
- デジタルシネマカメラ「VENICE」シリーズの映画業界での採⽤と、ほかの映像制作への活用拡大。
3-2.真正性(Authenticity)を検証するリアルタイム技術
クリエイターが現実世界を「ありのまま」に捉えることの意義は大きく、CMOSイメージセンサーは画像の真正性を検証することに活かされている。
3-3.アイデアをリアルタイムで形にするテクノロジー
ソニーが出資するEpic GamesのUnreal Engineを、さまざまなクリエイションのプロセスに活用。
- Sony Pictures Entertainment(SPE)の次世代ビジュアライゼーション施設「Torchlight」は、映像コンテンツの制作前に、リアルタイムでのクリエイターのビジョンの探索、構想、具現化が可能。
- 撮影監督も俳優もその場で映像を確認できる撮影⼿法であるバーチャルプロダクションの提供。
- 現実空間に3Dコンテンツを重ねながらコンテンツ制作や編集ができる没⼊型空間コンテンツ制作システムにより、没⼊感のある制作体験を提供。
- 北⽶のプロスポーツリーグの「ライブ」の場でも、現実の選手の動きをトラッキングし、リアルタイムで3Dアニメーション化することで、新たなファンの裾野を広げる。
4. 長期ビジョン「Creative Entertainment Vision」
今後のテクノロジーの進化を⾒据えながら、10年後のソニーのありたい姿を描いた⻑期ビジョン「Creative Entertainment Vision」を策定。
「Creative Entertainment Vision」における3つのフェーズ
- テクノロジーを活⽤し、フィジカル、バーチャル、時間といった次元を超え、世界中のクリエイターの創造性を解き放つ
- 境界を超えて多様な⼈々や価値観を繋げ、熱量の高いコミュニティを育む
- クリエイターとともに、想像を超えたわくわくするストーリー性のある体験をつくり、感動の新たなタッチポイントとして世界中に広げる
5. IP価値最⼤化に向けた現在の取り組み
「Creative Entertainment Vision」が示す方向性に向けて、現在、さまざまなエンタテインメントカテゴリにおいてIP価値最⼤化の取り組みを進めている。
5-1.IPの創出
アニメ
- 日本のソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)傘下のアニプレックスによる、高品質な作品の制作。
- 1,300万⼈超の有料会員を抱えるCrunchyrollを通じた海外配信。
- アニプレックス傘下の制作スタジオ A-1 PicturesやCloverWorksを中⼼にSMEJ、ソニーグループのエンジニアと連携して開発中のアニメ制作ソフト「AnimeCanvas」を通じた、制作環境と効率の改善、作品品質を向上。
- アニプレックスとCrunchyrollを中核に、業界とも連携して海外のアニメクリエイターを育成するアカデミーの設立検討を開始。
映画
- SPE傘下のPixomondoがEpic Gamesと連携し、バーチャルプロダクションなどの技術を駆使できる映像クリエイターを育成。
音楽
- SMEJ所属の、⼩説を⾳楽にするプロジェクトから誕生したアーティスト「YOASOBI」など、ユニークなアプローチによる新たなIPの創出。
スポーツ
- Hawk-Eye Innovationsのトラッキングシステムによるプレー中の選手の骨格などのデータの取得と、Beyond Sportsの技術によるリアルタイムでの3Dアニメーション化を通じた、新たなエンタテインメントコンテンツの創出。
5-2.IPの育成
アニメ
- クリエイターをたたえ、アニメIPと文化をファンとともに育てていくCrunchyroll Anime Awardsは、過去最高の3,400万以上の投票数を記録(2024年)。
ゲーム / 映画
- PlayStation ProductionsによるゲームIPの実写映像化。「Horizon」「God of War」などを今後公開予定。
音楽
- 熱量の高いファンが新たな⽂化を創り出すファンダムアーティストを育成し、ファンコミュニティを拡大。
5-3.境界を超えてIPを拡張する「IP360」
ゲーム
「アンチャーテッド」などのゲームIPをロケーションベースエンタテインメント(LBE)に展開。
音楽
- グラミー賞を受賞したラッパー、シンガーソングライターのLil Nas Xが初のワールドツアーに臨む姿を記録したドキュメンタリー『Lil Nas X︓ Long Live Montero』の制作。
- SPEなどによる、各メンバーの視点からビートルズの歴史を振り返る伝記映画4本の同時制作。
全カテゴリ共通
- LBE︓ソニーのIPと技術を掛け合わせた、没入体験を提供するアトラクションを世界各地で展開。
- マーチャンダイジング︓IPをグッズ化し、ファンの愛着を高める。グループ間連携も加速。
- モビリティ︓センシングデータ等から搭乗者や周辺環境を把握して提供するエンタテインメントコンテンツや⾳響技術を活⽤。社内をパーソナライズされたエンタテインメント空間とし、移動体験の価値を向上。
パートナー企業のIP展開に対する貢献
- Crunchyroll Gamesがパブリッシングを⾏うモバイルRPG『Street Fighter︓Duel』
- 実在のオブジェクトを⾼品位な3Dモデルに変換する「ハイクオリティスキャンソリューション」を活⽤し、「ガンダムメタバース」内へスキャンガンプラを展⽰。
5-4.IP価値最⼤化のグローバル展開︓多様な⽂化的背景や地域に根差した魅⼒を持つクリエイターをサポート
- インドの有望なゲーム開発者を発掘、支援し、世界中に魅⼒的なゲーム体験を届ける「India Hero Project」において、現在、5本のゲームタイトルを開発中。
- アフリカでのエンタテインメント事業を育成するために設⽴されたコーポレートベンチャーキャピタル「Sony Innovation Fund︓ Africa」。新興国での投融資活動をしている国際⾦融公社とも提携。
6. IP価値最⼤化を⽀える技術基盤
クリエイターがIP価値最大化を高品質かつ効率的に⾏うために重要な技術基盤が、センシングおよびキャプチャリング、リアルタイム3D処理、AI技術及び機械学習。ソニーの強みとして研究開発・応用を進めており、将来的にはスピーディーかつ低コストにIPを幅広いファンに届けられるソリューションの構築を目指す。また、IP価値最大化の取り組みをより効率的に行うために、グループ共通のエンゲージメントプラットフォームの構築も検討する。
6-1.センシングおよびキャプチャリング
ボリュメトリックキャプチャスタジオは、フォトリアルな再現が可能で制作自由度も⾼いため、映画などの複雑なアクションシーンで使われている。今後はグループ各社で蓄積した3Dアセットの組織横断での活⽤と、外販を検討。
6-2.リアルタイム3D処理
Unreal Engineを軸にEpic Gamesとの連携を深め、バーチャルプロダクションで撮影したミュージックビデオと同じ世界観の中で遊べるゲーム制作のほか、CGのショートフィルムをリアルタイム制作する実証実験を実施。
6-3.AI技術および機械学習
- 『Marvel's Spider-Man 2』では機械学習を活⽤し、ゲームに特化した独自の音声認識ソフトウェアを使い、⼀部の言語において、登場するキャラクターのセリフに合わせて⾃動で字幕のタイミングを同期。これにより、字幕の制作工程の⼤幅な短縮を実現。
- インドにおける、映像コンテンツの吹き替えや翻訳の工程短縮の研究開発。
6-4.エンゲージメントプラットフォームの発展
- 強固なネットワークサービスを確⽴しているPlayStation Networkのネットワーク基盤をベースとしたアカウント、決済、データ基盤、セキュリティなどのコア機能を、拡大を続けるCrunchyrollに展開することで、ソニーグループとしてのエンゲージメントプラットフォームへの発展を計画。
- ソニーグループ全体の各種サービスのID共通化も進めるほか、モビリティやLBEなどに向けたグループ内の新規ネットワークサービスの展開をサポートしていき、将来的には、ファンエンゲージメント特化型の共通プラットフォームとして、広くエンタテインメント業界で活⽤されることを目指す。
7. 多様な事業と⼈材による成長の実現
ソニーは、多様な⼈材が集まり、異なる属性や経験を持つことを強みとしてきた。M&Aを通じて、エンタテインメント事業を中心に新たな考えかたや知見を取り⼊れている。また、外国籍役員比率や女性管理職比率は、年々増加している。今後も、事業と⼈材の多様性を継続的に進化させ、長期視点での価値創出とさらなる成長の実現を目指す。