博報堂DYホールディングスの研究開発部門マーケティング・テクノロジー・センター(以下、MTC)と、空間コンピューティング技術を活用した体験デザインとプロダクト開発をおこなうMESONは、都市空間を徒歩移動中のAR情報提示に関する実証実験を実施した。徒歩移動中の視覚的情報提示体験を「モーション・サイバービューイング」と定義し、ARグラスが普及した未来の都市空間におけるマーケティングコミュニケーションでどのように活用が期待されるか仮説構築・検証をおこなった。
今回の検証では、ARナビゲーションとARコンテンツが都市体験において異なる役割を果たしつつ、相互に補完し合うことが確認された。

実証実験の設計

同実験では、ARナビゲーションやARコンテンツがユーザーの能動的な情報接触行動にどのような影響を与えるか、また情報量やデザインがユーザー体験に及ぼす効果について、2つの仮説を立てて検証した。
- 仮説1:ARナビゲーションの有無やデザインが、ユーザーのARコンテンツへの能動的な接触行動に影響を与える
- 仮説2:ARコンテンツの情報量やデザインが、ユーザーのARコンテンツへの能動的な接触行動に影響を与える
同実験におけるAR体験のデザインにあたり、都市景観との調和を特に重視し、景観に用いられている看板の色彩などを詳細に分析。それらの要素をARナビゲーションやARコンテンツの配色・トーンに反映することで、ARが現実空間に自然に溶け込み、かつ魅力的に感じられるよう注意を払って設計された。
こうした景観に馴染ませるデザイン思想に基づき開発された複数のARナビゲーション方式(地図表示型、ライン型、光の柱型、アバター追従型)と、道中に配置された多様なARコンテンツ表現(テキスト型、アイコン型、画像型、アバター登場型、3Dオブジェクト型、インタラクティブイベント型)の組み合わせを検証対象としている。


これらの組み合わせがユーザー体験に及ぼす影響を、UXの主要な視点である誘導直感性(経路理解の容易さ)、周囲視認性(環境把握のしやすさ)、エンターテインメント性(体験の楽しさ)、安全性(事故防止への配慮)に加え、コンテンツ認知率やインタラクション率といった多角的な観点から評価。特にARコンテンツについては、前述のデザインアプローチを踏まえ、都市景観との調和や自然な視線誘導効果なども含めて総合的に検証した。
実証実験の実施方法
実験は恵比寿エリアで、Apple Vision Proを使用。観光体験を想定し、エリア未訪問の若年層を対象に、スタッフのサポートのもと都市空間を実際に歩きながらARグラスを用いた体験を実施した。
主な研究成果
仮説1(ナビゲーションの影響)
- ARナビゲーションは、手元で確認する2D地図よりもコンテンツ認知率・接触率が向上
- 経路を示す「ライン型」が接触率をもっとも高めた
- 「アバター型」は親しみやすい反面、周辺注目を抑制する傾向あり

仮説2(コンテンツデザインの影響)
- ARコンテンツは、「アバター型」が景観調和やインタラクションなど多方面で高評価
- 「イベント型」は注目度が高いものの、景観への影響も大きい
- 「テキスト型」はタップされにくい一方、物理的に引き寄せ熟読させる効果を確認

今回の結果から、ARは情報提示にとどまらず、生活者の移動・滞在・誘導・発見をつなぐ、都市体験設計の基盤となる可能性が示された。この結果をもとに、博報堂DYホールディングスは2025年6月に「ARグラスを通じた誘導デザイン」と「誘導中に表示するARコンテンツ」を統合的に管理・提示する技術の特許を取得。同研究の深化に際して追加の特許取得も視野に入れている。
両社は今後も、都市景観の調和と安全性・快適性を考慮した情報環境デザインの研究を進める。