牽引するのはクリエイティブディレクター freee流企業ブランディングの進めかたとは

牽引するのはクリエイティブディレクター freee流企業ブランディングの進めかたとは
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2019/09/05 08:00

 「クラウド会計ソフト freee(フリー)」の開発・運営で知られるfreee株式会社は、2017年より、企業全体のブランディングに注力している。その中心人物のひとりが、今回お話を聞く小川テツヤさんだ。出版系制作会社にてデザイナー・アートディレクターを経験後、自動車などの部品メーカー「デンソー」にてBtoB企業のリブランディングや、広告プロモーション制作に従事。その経験を活かすべく、2017年10月よりクリエイティブディレクターとしてfreeeに加わった。BtoBのスタートアップ企業がどのようにブランディングを進めているのか。新しいコンセプトを社内に浸透させていくために取り組んでいることとは。数字の変化はあったのか――。現在もなお進行中のfreeeのブランディングについて、話を伺った。

freeeらしさを定義するためにまず行ったこと

――freeeに入社された小川さんには、どのようなミッションが与えられていましたか?

2017年10月に入社した当時は、クリエイティブの大事さを理解はしているものの、とにかくアウトプットしていくことが求められていました。クリエイティブの質を揃えたり高めるという部分は、人数が増えてきたことも重なり、個々に任せられているような状態でした。

僕らのようなサブスクリプションのサービスを提供している会社は、顧客との長い付き合いになることが多い。だからこそ、いろいろな接点でユーザーがfreeeのアウトプットに触れ、そこで感じとるメッセージやデザインが統一されていないことはとくに大きな課題でした。そんな中、僕はクリエイティブディレクターとして加わり、「freeeとして世の中に出していくクリエイティブの基準をつくること」。そして、「何が『freeeらしさ』であるかを定義しfreeeの人格をつくること」のふたつに取り組むことになりました。

freee株式会社 ブランドエクスペリエンス チーム クリエイティブディレクター 小川テツヤさん
freee株式会社 ブランドエクスペリエンス チーム クリエイティブディレクター 小川テツヤさん

――『freeeらしさ』の定義は、どのように進めていったのでしょうか。

まず定義するために始めたことのひとつは、言葉の抽出です。弊社の代表含めた経営陣や、プロダクトデザインの担当者、マネージャーたちと一緒に、どんなときにfreeeらしさを感じるか。また、プロダクトを使っているときに、どういう感情になってもらうことがfreeeらしさかなど、UXの観点もふまえながら話し合っていきました。これは最初の数ヵ月間、定期的に設けました。

ふたつめは、現状分析です。定義されたfreeeらしさをもとに施策を進めるのは主に、マーケティングや営業担当です。そのメンバーに1on1をしながら、運営の実態や、それぞれがどのような場面でfreeeらしさを感じているのかなど、ヒアリングをしていきました。

その結果決まったブランドフィロソフィーが、「もうひと手間かけられる余裕」、「ちょっとした楽しさ」、「心地よい開放感」の3つです。

そしてこの3つをもとに、デザインハンドブックを作成しました。これにはカラースキームや指定のフォント、写真の使いかたなどのクリエイティブに関するルールを記載しています。社内のスライドや営業資料、個人で登壇するカンファレンスなどで使用するためのアイコンやイラストも150個ほど用意。それ以外にも、freeeとして世の中に出しているものをすべてリスト化し、数が多いものから順番に修正していきました。

また、この3つの言葉とコーポレートカラーを合わせると少し重い印象になってしまうのではないかと感じ、濃い紺からブルーに変更。モチーフにもなっているつばめの翼のエッジも、少し丸みを帯びるような形に変えたんですよ。

左が旧ロゴ/右が新ロゴ
左が旧ロゴ/右が新ロゴ

ブランドフィロソフィーの策定、ロゴの変更、デザインブックの作成。この3つを全社の集会で発表し、今後クリエイティブを同じ方向に揃えていきましょうと呼びかけました。

――社内での反響はいかがでしたか?

中には、クリエイティブにルールを定めることで自由度が減ると捉えられてしまうケースもありました。決められた枠の中で、自由度を追求していくことももちろん可能ですが、それはある程度経験値がないと難しい。

たとえば今回のケースだと、新しく用意したイラストをウェブに入れてA/Bテストを行った結果、その数字が下がっていたとします。ですが、デザインはまわりの要素にとても影響を受けるので、イラストの横にどんなコピーを入れて、どれくらいの文字数にしたのか。そのイラストの選びかたは適切かなど、そういった部分を少し変えるだけで、大きく数値が変わることもありますよね。そのため、イラストだけでなく、そこまで含めて検証をする必要があると思い、僕もそこまで首をつっこんで一緒に効果を追っていきました。クリエイティブ刷新のラスト3ヵ月は、こういった検証に時間を費やすことが多かったですね。

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。