ただライブを撮るだけでは足りない 全天球映像作家「渡邊課」が模索する実写VRの新たな表現

ただライブを撮るだけでは足りない 全天球映像作家「渡邊課」が模索する実写VRの新たな表現
2019/10/07 08:00

 創業から50年近い歴史を持つデザイン会社「コンセント」には、「渡邊課」なる名前のチームが設置されている。実写を中心に360度VRの制作を手掛けるこの課の「課長」に就任しているのが渡邊徹さん。渡邊課を率いる渡邊さんは、これまで、ORANGE RANGE、フジファブリック、水曜日のカンパネラ、Little Glee Monsterといったミュージシャンや、朝日新聞社、ユニオンテックといった企業とのコラボレーションを展開しながら、VRという新たな表現を切り開いてきた。2014年頃からVRに触れ始め、独学で研究を積み重ねていったという渡邊さん。いったいどんな視点からVRというメディアを捉えているのだろうか。

雑誌デザインからVRへ

──渡邊さんは、どのようなきっかけでVRに携わるようになったのでしょうか?

もともと、コンセントには雑誌のデザイナーとして入社しました。新卒で入社して以来、10年以上コンセントに所属しているのですが、メインに手掛けてきたのはずっと雑誌のエディトリアルデザインだったんです。

エディトリアルデザインからVR映像へと移っていきましたが、雑誌をやっている時にも「紙媒体をつくっている」という意識より「コミュニケーションデザインを行っている」という意識が強かった。時代が変わり、ウェブやSNSといった媒体を手がけるようになっても、一貫してやっていたのはコミュニケーションのデザインだったんです。

VRに触れたきっかけは、コンセント代表の長谷川がヘッドマウントディスプレイを持ち込んだこと。2014年頃ですね。彼は新しいものが好きなので、いろいろ買ってきては会社に置いていくんですが、社員の誰も触ろうとしない(笑)。そこで、僕が仕事とは関係なく遊びとして使っていたんです。そうやって触りながら、視聴者にとってどのような点が響くのだろうということを、デザイナーの気づきとしてブログで発表していたところ、いろいろな人からおもしろがってもらえるようになっていきました。

──初めてVRに触れたときにはどのような感想を抱きましたか?

今までのメディアとは明らかに違うものだと感じましたね。ほかのメディアが「鑑賞」である一方、VRは「体験」だった。VRならば、オフィスにいても異なった世界に連れて行かれるという体験ができますよね。それは、いくら大きな映像を投影しても実現できないことだった。今まで作ってきたものとは違う「体験」というVRの特性がもたらす感動が、ショッキングでおもしろく「時代が変わる」と感じたんです。そこで機材を買い揃えてもらい、仕事にしていきました。

株式会社コンセント 全天球映像作家「渡邊課」課長 渡邊徹さん
株式会社コンセント 全天球映像作家「渡邊課」課長 渡邊徹さん

──VRコンテンツを作るにあたって、渡邊さん自身、ノウハウはあったのでしょうか?

完全に独学でした。映像制作の技術も、大学の授業で少し学んだ程度。手探り状態のまま、国内外のさまざまな文献を読みながら研究していったんです。

VR映像の最初の作品は、『Vampillia』というバンドのミュージックビデオでした。どんな視点からの映像であればVRが楽しくなるのかを探っていくうちに、「何かの渦中だったらおもしろいのではないか」と考え、ボーカルが人々に取り囲まれてめちゃくちゃにされるという映像をつくったんです。

当時は、こちらから企画を持ち込むなどして、クライアントともお互いにチャレンジしながら、VR映像の実験として作らせてもらっていました。2014年からVRを手がけていますが、事業として成り立つようになってきたのはここ2、3年ほど。それまでは、持ちだしはないものの、収益までにはならないという程度でした。その代わり、僕らとしても、さまざまな実験を積み重ねることで、VR映像の論法を積み重ねていくことができました。

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