顧客と共創し、ブランドの未来をつくりあげるために――必要なテクノロジーとこれからの変化を探る

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2022/04/25 11:00

メタバースとNFTが新たな選択肢に 今クリエイターが担うべき役割とは

 大量消費とは対局にあるSDGsの価値観が広く浸透しつつある現代。とくにZ世代やアルファ世代と呼ばれる若者たちは、自分の趣味嗜好や主義と合うかどうかが、商品購入の大きな判断基準になっている。一方、コミュニティや投資への意識も強くなっており、社会全体でESG(環境・社会・ガバナンス)の動きが本格化している。

「そういった時代になったときに、ブランド単一での成長には限界があるとフラクタは考えています。つまり、新しい選択肢が必要なのです」

 従来のような物理的なモノやサービスの保有・利用が必要とされなくなる時代の新しい選択肢。それがWeb3.0の大きな文脈として語られる「メタバース」と「NFT」だ。これらをわかりやすくとらえるためには、「メタバースを“共通の舞台”、そこで使われる“共通の道具やチケット”をNFTととらえると良い」と狩野氏は言う。

 すでに一部のブランドで取り組みは始まっており、アディダスはアーティストやインフルエンサーとコラボしたアイテムで、ナイキは仮想スニーカーでNFTに参入。クリニークは会員向けプログラムとしてNFTを配布している。

 NFTを購入することで、モノを所有したくない消費者であっても、ブランドへの支持や参加の意思表明が可能だ。商品購入やSNSのいいねに加えて、NFTがブランドをフォローする新しい選択肢になりうるとフラクタは考える。

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 これは単にブランドと顧客がつながるだけではない。NFTはブランドやクリエイターにとっての資金調達、つまり「金融」としての役割も持つ。狩野氏は、顧客から資金を調達している例として、スターバックスが展開する「スターバックス カード」を挙げた。2019年時点で同社は、約16億ドルをプリペイドカードの負債額として計上している。これは顧客から無利子でお金を借りているのと同じことだ。

 いずれ、NFTもこれに近い存在になっていくと説明する狩野氏。消費者が応援や投資の意思表示としてNFTを購入し、ブランドはその資金で設備投資やプロダクト開発を行う。Web3.0時代では、そうした新しい仕組みでブランドを発展させていく動きが現れてくるだろうと続けた。とはいえ、その前提としてなによりも重要なのは「ブランド自体の価値をいかに高めるか」。これが根幹であることを忘れてはならない。

「無味無臭のブランドに消費者はコミットしてくれません。個性やパーソナリティ、クリエイティビティは必要不可欠です。ブランドは『商品』、クリエイターは『作品』。それらふたつやその中間を橋渡しすることにも価値が出てくるでしょう」

 さらに今後は、アーティスト、グッズ、ゲーム、ブランド、エンターテイメント、金融といったさまざまな価値が合わさる体験が「ニューノーマル」になると狩野氏は言う。

「異なる領域をつなぎ合わせて化学反応を起こしていくことが、これからのクリエイターの担う領域だと思っています」

購入をはじめ、ブランドに対するアクションは顧客の意思表示

 続いて狩野氏は、時代が移り変わろうと「“ブランド”の概念は普遍であり、ブランディングの取り組みは必要不可欠」だと述べ、「ブランドがもつべき一貫性と柔軟性」について解説を進めた。その際に強調されたのは、Web3.0時代になろうとも「守破離」、つまりブランディングの基本的姿勢や取り組みが必須だ、という点である。

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 すべての根本となる「Why」が明確で魅力的であるほど、「Who」(顧客・消費者)の共感を得ることができ、Web3.0時代の新しいビジネスの展開にもつながる。

「根本となる大地がしっかりと整っていれば、そこから芽が出て、新しいビジネスへの転換にもつながってくる。先ほどのたとえで言えば、メタバース上の舞台や道具といった着想の原点になると思っています」

 さらに狩野氏は、購入をはじめとする顧客の意思表示を「参加」ととらえて中心に置き、その前後の体験すべてが大切であることを説明。ブランドを知り、「参加」し、それを続けてもらうといった循環によって消費者とブランドがつながることは、ビジネス上の負荷を減らし、利益率を向上させることにも貢献するだろう。

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 こうしたビジネスとして健康な状態を実現するには、顧客の「参加」と「共創」をいかに促していくかがポイントだ。そのためのカギとなるのが「遊び」と「余白」だと説明。ブランドは一方的にモノを提供するだけではなく、遊ぶための仕組みやきっかけ=参加ができる「余白」をつくっていくことが重要になると指摘する。

「『参加』するための方法を購入だけにしぼらず、多様な入口を用意することが大切です。さらに顧客と価値を『共創』していくには、ブランド側が余白や遊びをつくりだすことがカギとなるのではないでしょうか」