今回は、Dentsu Lab Tokyoの若手メンバーの皆さんに技術を通した「あたらしいつくりかた」についてインタビューを実施。「あたらしいつくりかた」から一体どんなものがうまれているのか、一緒にみていこう。
Dentsu Lab Tokyoプロフィール
Dentsu Lab Tokyoは、研究・企画・開発が一体となり、いま世の中の⼈が求める社会の「課題」を最先端のテクノロジーと、裏付けのあるクリエイティブの力に加えてオープンイノベーションに繋がる各企業や集団とのタッグによる開発力と実装力で解決に導く社会派デジタルクリエイティブ集団。テクノロジーを起点として自主開発から行政や企業の研究所まで、言語、映像、デザイン、デジタル表現、サービス、プロダクト、イベントなどに対し、枠組みを超えたアイディアの力とオープンイノベーションによるデジタルクラフト力で新しい表現開発に取り組んでいる。
答えてくれた人
小柳祐介
1982年生まれ。東京藝術大学デザイン科、大学院でコマ撮りやアニメーション表現を8年間研究し、放送作家を経て、電通に入社。アートディレクター。現在はテクノロジーを起点とした新しい表現開発に取り組み、トラディショナル媒体での広告展開から、デジタル施策、スペースデザイン、ブランディングにも携わる。最近の主な仕事は、パラリンピック東京大会開会式(TECHNOLOGICAL CONTENT)、カモフラージュテキスタイルブランド「UNLABELED」、サントリー「話そう」、西武ライオンズ「プロ野球をやらせていただきます。」など。プレ・アルスエレクトロニカ栄誉賞、文化庁メディア芸術祭推薦作品選出。レッドドット賞。広告賞ではCanne Lions、D&AD、ONE SHOW、NYADC、CLIO、Spikes Asia、Adfest、ACCなどで受賞。
村上晋太郎
1991年生まれ。東京大学工学部、大学院で自然言語処理、画像認識を専攻する傍ら、フロントエンドエンジニアとしても活動。2016年電通入社後、クリエーティブ・テクノロジストとしてデータを起点にしたクリエーティブに取り組む。最近の主な仕事は、パラリンピック東京大会開会式、ヤッホーブルーイング「先輩風壱号」、江崎グリコ「GLICODE」など。CANNES LIONS ブロンズ、NYADC シルバー、文化庁メディア芸術祭推薦作品選出、Young Spikes Integrated部門ゴールドなど 受賞。
『あまりっこ動物』の開発過程から見えた、技術と表現の可能性
──広告と技術の接点と言うと、どうしてもウェブ広告やバナーなどが浮かんでしまいます。けれども、Dentsu Lab Tokyoでは「つくるプロセス」に技術があることで新しい表現が生まれていると伺いました。その事例からお聞かせいただけますか?
村上 小柳さんと自分はART担当とCODE担当の二人組ユニット「KOM」として、2019年頃からさまざまな試作を行っていました。その中で最初に形になった事例が『あまりっこ動物』です。印刷工程で出てしまう端材をAI(人工知能)で認識して、ゴミ・端材がどんな動物に似ているのかを判別し、それに合わせたパターンを印刷することで、子どもが遊べるおもちゃにアップサイクルする企画です。プロセスの中にAIというデジタルな要素があるため、アウトプットである紙と組み合わさることで見たことのない、新しい表現が生まれたと感じました。
あまりっこ動物:印刷業界で発生する年間約466万トンにもおよぶ端材を、おもちゃとして再利用するプロダクト。23種類の動物の形を深層学習したAIが端材と動物の形態的共通性を判定し、特殊印刷とレーザーカッターによりその動物の柄を自動で配置、加工するシステムを開発した。端材に新しい価値を与え、子どもたちに遊ぶことの創造性や、資源の大切さを知る機会を提供する。文化庁メディア芸術祭 第24回 エンターテインメント部門 審査委員会推薦作品。
小柳 ぼくはアートディレクターという職業柄、紙を多く使うのですが、広告制作の中で特殊な型抜きをすると、使用する部分以上に余りが出てしまうわけです。しかも、その余った用紙にカラーチャートがあったり、それが魅力的なんです。家に持って帰ったら、子どもがそれをちぎって動物に見立てて遊んだりしていて、良いなと思っていました。そんな折に、Dentsu Lab Tokyoとして主催したコーディングスクール内で、学習をあまりしていないAIにぼくのプロフィール写真を認識させると、顔なのにPCやパソコンだと誤認識したんです。その見間違えや「空見」みたいなものが、子どもの見立てる遊びにすごく似ていると思ったところから、村上くんと作品としてカタチにすることにしました。
村上 技術面の話をすると、最初に小柳さんに「端材の形をAIに認識させて、何かと誤認識させることができないか」と聞かれた時に、少し難題だと思いました。画像認識のプログラムは、ものを見分けるときにテクスチャーや色といった表面の質感や外形などを入力情報として判断するのですが、端材は輪郭の情報しか持っていないので、普通の手法だと難しそうだなと思ったんですね。僕はたまたまそのときにGoogleから出ている「The Quick Draw! Dataset」という、「人間が急いで描いた落書き」のデータセットでいろいろな実験をしていたんです。大急ぎで絵を描こうとすると輪郭だけを書くようになるので、そのデータセットの特徴が端材の「輪郭」と一致することから、このデータセットを組み合わせたら良いのではないかと思いました。
――「落書き」のデータセットを用いてつくっているんですね。
村上 そうです。このデータセットをもとに「輪郭のみ」から動物の種類を判定することができた点が、技術的にこのプロジェクトでジャンプできた、乗り越えられた部分ではないかと思っています。
――――このデータセット自体がはやく描かれた雑な手書きなので、小柳さんのお子さんがパッと見立てたものと、「リンゴといえば?」という質問を通して皆が描いたデータを活用するのは、イメージの想起のプロセスが似ていて非常におもしろいですね。小柳さんがおっしゃっていた「見間違い」や「空見」を再現することはできましたか?
村上 そうですね。モコモコしているとヒツジで、首が長いとキリンだったりと、半分以上は納得感のある「見間違い」をつくることができました。実験結果が出るまでは半信半疑だったのですが、プロトタイピングをしていくことで技術面での仮説が確信に変わっていくイメージで進めていきました。
小柳 あとは目を入れるとよりらしくなるのではないかと試行錯誤しました。27種類のパターン柄を印刷する際に、なるべく動物として判別されやすいように印象点の少し上に目を設置することにしました。目の位置をしっかりつくれたことで、しっかり動物にできたことは発見でした。
――おもしろいですね。人間がどのようにしてそこにある何かを「もの」として見立てるのか。「子どもの見立て」と「大急ぎで描いた絵」という学習データが重なるところもおもしろいと思いました。
村上 「The Quick, Draw! Dataset」は人間が書いているものなので、一度人間の脳を経ているんです。そのため、特徴がコミカライズされた学習ができるのが、普通の画像のデータセットと比較しておもしろい点です。