常設のスタジオでミニマムに開始 MIXIのクリエイターたちが取り組む、バーチャルプロダクションのリアル

常設のスタジオでミニマムに開始 MIXIのクリエイターたちが取り組む、バーチャルプロダクションのリアル
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2023/03/10 08:00

 リアルタイム映像制作にバーチャルな映像を背景として組み合わせる手法「バーチャルプロダクション」は、映画制作や映像配信など幅広い用途で注目されており、市場の成長も高く期待されている。従来は、ディスプレイパネルをスタジオの背景や床面に敷き詰め、専門のスタジオとして構えているイメージも強い。一方MIXIは、配信用の社内スタジオを完備しているが、使用しているのはグリーンバックとゲームエンジン。つまり、通常の映像配信スタジオをバーチャルプロダクション用に活用しているのだ。今回は、同社の動画クリエイティブ室室長の越智純平さん、同室でクリエイティブディレクターをつとめる谷賢史さん、CGデザイングループマネージャーの原由佳理さんにインタビューを敢行。バーチャルプロダクションに取り組むようになった背景や、バーチャルプロダクションの捉えかたなどについて話を聞いた。

MIXI流バーチャルプロダクションは「Zoom背景を変える感覚で使用でき、自由度も高い」

――まずは、MIXIに入社してからのご経歴やご担当業務について教えてください。

越智 僕はMIXIに入社した当初、『モンスターストライク(以下、モンスト)』のYouTube動画の編集を担当しており、次第に同事業の生配信やイベント関連にも携わるようになりました。またそれ以外にも「家族アルバム みてね」「千葉ジェッツ」など複数の事業のクリエイティブにも関わりましたが、現在は現場から離れ、組織づくりがおもな役割です。

 最初は動画広告を制作するチームでモンストに関わっていました。そこからキャラクターのPVなどの動画制作にも領域を広げたのちに、デザイン本部に異動。MIXIには実写編集とCG映像の両方に携わっており、現在はモンスト以外のプロダクトや会社全体の動画を手掛けています。

 ゲームで使用される技術や知見を活かして、ほかのエンタメ領域にも携わりたいと思いMIXIに入社し、最初はサウンドデザイナーとして、モンストのSE制作やイベントのサウンド周りを担当していました。デザイン本部に入ってからは、スポーツのイベントや、社内社外両方のイベントなどのサウンド面に携わっていました。その後、映像配信業務にも関わるようになったのは、弊社をふくむ渋谷に拠点を置くIT企業4社が共催したカンファレンス「BIT VALLEY 2021」で配信周りを担当したことがきっかけです。

――では、バーチャルプロダクションの活用が始まった背景からお聞かせください。

 現在バーチャルプロダクションには、LEDパネルをスタジオの背面に敷くICVFX型と、グリーンバックを使ったもののふたつに大別されます。前者のLED ICVFXは、映画やCMのような質を求める撮影によく使われており、設備投資も相当なものになります。一方、後者のグリーンバック型でも質を追求することはできますが、工夫次第で比較的安価に組みあげることも可能です。グリーンバックで背景を差し替えるという意味では、Zoomの背景を変える感覚に近いですね。MIXIでは後者のやりかたを採用しましたが、より「インタラクティブであり自由度が高い」点はウェブ会議ツールの背景などとは大きく異なります。

越智 たとえばカメラで足元まで映す際、バーチャルな空間に撮影した人の映像を組み合わせると影も映しだされ、その空間にいるかのような作りこみを行うことが可能です。こういった部分が、合成を使ったバーチャルプロダクションのおもしろさでもあると感じています。

株式会社MIXI デザイン本部 動画クリエイティブ室 室長 越智純平さん
株式会社MIXI デザイン本部 動画クリエイティブ室 室長 越智純平さん

また、「これを使えばゲーム内でできることは何でもできる」と谷に教えてもらったことがきっかけで「Unreal Engine」というゲームエンジンをMIXIでは利用しています。バーチャルプロダクションを活用して配信を行った場合、たとえばボタン操作ひとつでリアルタイムにエフェクトを表示することが可能なため演出の幅も広がります。もちろんUnreal Engineの存在は知っていましたが、こうした活用法があることは知らなかったためとても驚きました。

 私は、10年以上前からUnreal Engineを使ったゲーム開発に携わっており、最近でも新機能の情報をキャッチアップはしていました。そんな中、ここ数年で、実写合成をする機能が充実してきたため、これを使っておもしろい配信ができるのではないかと思ったのが取り組みの始まりです。MIXIにはすでに撮影スタジオがありましたし、ゲームではない領域や、内部向けプロジェクトで使う場合、Unreal Engineのライセンスに柔軟性もあり、トライアルのハードルが低かった点も良かったですね。

越智 大型のディスプレイパネルを揃えるような配信方法だと導入コストがかさみますが、Unreal Engineを活用すれば、グリーンバックとPC、キャプチャーボードなどがあれば最低限スタートできるため、すぐにチャレンジできる。実際に社内にあったデスクトップPCと8万円ほどのキャプチャーボードを組み合わせ、小規模に始めることができました。日本では、まだバーチャルプロダクションに挑戦する企業は限られていますが、こうした手法を選択することで障壁も減り、参入企業も増えていくのではないでしょうか。

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