生成AI時代の到来、企業内で日本のクリエイターはゲームチェンジャーになれるか【アドビ×デザイナー対談】

生成AI時代の到来、企業内で日本のクリエイターはゲームチェンジャーになれるか【アドビ×デザイナー対談】
  • X
  • Facebook
  • note
  • hatena
  • Pocket
2024/02/07 08:30

 たったの1年で私たちの生活や仕事のやりかたを大きく変えた生成AI。クリエイターの生成AIとの向き合いかたを考える本連載の最終回は、SmartHRでデザイナーとして活躍する小木曽槙一さんをゲストに迎え、これからの生成AIについて語り合いました。

大きな可能性を感じる生成AI

阿部(アドビ) 生成AIに関しては2022年の夏ごろから話題にあがり始めたと記憶していますが、アドビの場合、製品として世の中に出すからには、企業のお客さまが安心して使えるような形で提供することが大切だと考えました。ですからAdobe Fireflyは、PhotoshopやIllustratorのようなツールと同じレベルで、商用利用を目的に企業が使う前提で設計しています。そこが他社の基盤モデルとは違うコンセプトではないかと思っています。

小木曽(SmartHR) 生成AIにはすごく大きな可能性がある一方、いわゆるクリエイターにとってはハイリスク・ハイリターンの側面があると思います。いちデザイナーとして阿部さんに聞いてみたいと思っていたのが、現状における僕らの仕事が減るのではないかということです。クリエイターの活動を後押しする立場でもあるアドビさんでは、生成AIの登場でクリエイターの仕事がどう変わると考えていますか?

阿部 「AIが奪うのではない。Copilotなのである」が決まり文句になりましたが、それ以上のことは語られていませんよね。個人的には、小木曽さんの連載記事を読んで、「一部の領域は生成AIに取って替わられることになる」という意見にとても共感しました。生成AIが一般的なものになり1年ほどですが、Macromedia時代から十数年クリエイティブにおけるコンピューティングの歴史を見てきた私から見ても、今回の生成AIの進化は今までとは違う。加えて、最近は人間の創造的な領域にかなり入り込んできていると感じます。

小木曽 2023年の1月と12月とではまったく状況が違いますよね。「AIが目を手に入れた」とも言われており、可能性が大きく広がっている。かつ検証のスピードが早まり、サービスも増えている印象です。僕がデザイナーではなくなる未来が来るのかもしれません。

株式会社SmartHR プロダクトデザイナー 小木曽 槙一さん
株式会社SmartHR プロダクトデザイナー 小木曽 槙一さん

少し脱線するのですが、Macromediaが開発したFireworksが大好きだったので、阿部さんがその開発元で働いていたことを知りとても興奮しています(笑)。当時のように、コンバージョンを気にせず、好きなものを作れた時期は、クリエイターにとって黄金時代でした。その中で培われた技術が一般化し、今のウェブデザインに昇華されたようにも思います。

阿部 ありがとうございます(笑)。今のような役割分担が定着する前は、UIもデザインもコーディングもすべてひとりで行うのが当たり前でした。Flashはとりわけ自由度が高いツールで、あの時代を経験した人たちは裏側の仕組みまで理解している分、海外からの評価が非常に高かった。中村勇吾さんのような人たちのコンテンツを見て、Macromediaの米国本社の人たちが「日本のクリエイターってすごいな」と驚いていました。そのためFlashの仕様決定でも、日本のクリエイターのやりたいことが尊重された。しかしその一方、現在の日本からは世界で活躍するクリエイターが登場してきているだろうか、という問いも生まれます。

組織で戦う海外のクリエイター、個人の能力頼みの日本

小木曽 海外は組織的に作るスキルが飛び抜けて高いと感じています。ゲームの世界では、組織的にチームワークを結集して作るやりかたにシフトしてきていますが、個人の能力頼みの日本は追随できていない。とはいえ、生成AIはその構図を変える可能性も秘めているのではないでしょうか。ひとりで行っていたことでも、組織の取り組みに匹敵するほど高い生産性を実現できそうですからね。

阿部 最近増えているお客さまからの相談に、「生成AIというテクノロジーが出てきたので、我々もクリエイティブ制作の内製化を進めたい。顧客体験提供のPDCAサイクルを早くしたい」というものがあります。これまでは、多くの企業が代理店や制作会社にプロモーションやキャンペーン施策を丸ごと依頼してきたからです。

一方、海外の企業にはクリエイティブディレクターのポジションにあたる人が必ずおり、自分たちのお客さまにどのような体験を提供するのか、責任を持ってプランニングしている。この差は圧倒的です。こうしたことに問題意識を持って状況を変えていかなければ、日本企業の中でクリエイターが活躍する道は拓いていかないと危惧しています。

小木曽 本当におっしゃるとおりだと思います。海外のデザイナーが専門スキルを身につけたプロフェッショナルとして扱われているのに対して、日本ではある意味で「なろうと思った人は誰でもなれてしまう」部分がある。テック業界はデザインに力を入れ始め地位が向上してきている印象ですが、日本全体で見ると、まだ「ビジュアルを作る人でしょう?」という認識。とてももったいないですよね。

阿部 私はこう考えているんです。以前、企業内にデータサイエンティストはいなかった。ですがデジタル施策の成否が収益に影響することがわかってきた。企業も専門的なスキルを持つ人材が必要だと気づく。ならばと、データサイエンティストを集めて部署を作る――。それと同じように、コンテンツを介した顧客体験の提供が収益向上につながるとわかったとき、クリエイティブを分析し、それを改善する専門の部署ができるのではないでしょうか。

小木曽 デザイナーの地位が上がらないのは、僕を含むデザイナーにも責任があると思っています。というのも、デザインにどんな価値があるか、その説明の機会を僕らは重視してこなかったことが一因だと感じているからです。ビジュアルを作って終わり、サイトのデザインを作っておしまい、ではなく、クリエイティブがどのような価値を生み出すものなのか、言葉で伝えていかなければいけません。

※この続きは、会員の方のみお読みいただけます(登録無料)。