「ゴールデンサークル」と「ふりかえり」で強くなる DMM流クリエイティブ組織のチームビルディングとは

「ゴールデンサークル」と「ふりかえり」で強くなる DMM流クリエイティブ組織のチームビルディングとは
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2024/02/21 08:00

 本連載では、DMM.comにおいて「育成・採用・評価・露出等の課題解決に取り組み、活躍する人を増やすことにコミットする」をミッションとして活躍するVPoE室のメンバーの日ごろの取り組みについて紹介していきます。第3回では、クリエイティブ組織に起こりがちなチーム課題に立ち向かうためのアイディアを紹介します。

 こんにちは。合同会社DMM.com 開発統括本部データ基盤開発部CDPグループアクティベーションチーム 兼 VPoE室 の内藤です。

 私が所属するデータ基盤開発部では、Google Analytics/Google Tag Manager/Big Query/ Looker などを用いた顧客データ基盤を開発しており、その中で私は顧客データ基盤のMOps業務チームでチームリード兼スクラムマスターを担当しています。

 また兼務しているVPoE室では、おもにアジャイル開発チームの運営支援や新人研修などを行っています。VPoE室での業務では、相談をもとに社内開発チームのメンバーに伴走しながらチーム運営のお悩み解消を支援していくことから「出張スクラムマスター 」と、私は自らを称しています。出張スクラムマスターを始めて約3年。寄せられた相談から悩みのタネを紐解いていくと、よく似たチーム課題にたびたび遭遇します。

 本記事では、出張スクラムマスター中によく出会い、クリエイティブ組織に起こりがちなチーム課題に立ち向かうためのアイディアを紹介していきます。自身の経験談がベースですが、読み終わったあとに少しでも「変化する熱意」「変化し続ける勇気」を持ってもらえたら嬉しいです。

想定する対象読者

  • 組織づくり・チームづくりに向き合うすべての人

前提:銀の弾丸ではない

  • 同じ人間が二人といない以上、同じ状況のチームも存在せず、同じアクションから同じ成果が保証されるわけではないが、意識して行動すると結果は必ず変わる。
  • ほかにも大切な要素はある。たとえばチーム内の技術的基礎力や、チーム間コミュニケーション設計も同じくらい大事。

もっとも伝えたいこと

  • チームでアジリティ高く価値を出すため、ゴールデンサークルを用いてチームの目的を揃える
  • 自己組織化チームを目指し、高頻度かつ定期的なふりかえりを用いて事実ベースの学びや気づきを獲得し、直ちに活かす

クリエイティブ組織における「目的」の重要性

 日ごろ、我々の身の回りではデザイナー、さまざまな領域のエンジニア、そのマネジメント、ディレクターなど、さまざまな立場の人々がプロダクト開発に関わっています。私はこれらプロダクトを生み出す人々とそのチームのことをクリエイティブ組織だと認識しています。

 クリエイティブ組織で行うプロダクト開発では、その複雑性から多くの意思決定が連続します。そのため、クリエイティブ組織も状況の変化から高い頻度で学びを獲得し、それを直ちにプロダクト開発へ反映していく必要があります。これがフロー効率を優先的に高めることにもつながります。

 組織のフロー効率を高めること、つまり組織のアジリティを高めるためには、組織内の迷いを減らすことが重要です。タックマンモデルが定義する5つのステージのなかの「混乱期」が示すように、組織における迷いは、チーム内の「議論」や「衝突」として表出します。しかし、自分たちの介在価値と存在意義を徹底的に議論し言語化しあうことで、徐々に深い相互理解へと至ります。その結果、今後さまざまな判断基準となる「チームの目的と理由」を得ることができ、不要な議論や衝突を最小限に抑えながら意思決定を進めていくことが可能です。

ゴールデンサークルとチーム

 ここでは、チームの目的と理由を議論する際に役立つアイディアを紹介します。広く知られているのはインセプションデッキですが、私はよくチームキャンバスを使っていました。どちらにも似た要素があり、いずれも突き詰めていくとゴールデンサークル(図参照)なのではないかと考えるようになりました。

ゴールデンサークルの図
ゴールデンサークルの図

 ゴールデンサークルとは、サイモン・シネックのTED登壇でも登場した概念で、商品マーケティングやプロモーションで消費者から共感を得やすくするための考えかたです。輪の中心であるWHY(なぜ)から順に考え始めるようにしなさいという、いわゆる「刺さるコツ」なのですが、この概念はチーミングにも有効だと私は考えています。

 組織をひとつのプロダクトだと考えたとき、チームの目的を揃えるためには「なぜ我々は存在しているのか」「何の価値が期待されているのか」「世の中にどうやってインパクトを残すのか」といった根源的な問いをチーム全体で考えることから始めます。これは、一見遠回りに感じるかもしれませんが、非常に重要です。

 第一ボタンを掛け違えたまま最後まで締めてしまい、終わってからようやく根本的なズレに気づいてすべてやり直しとなった。「ちゃんと掛かっているね」と個々のボタンだけを眺めてやり過ごしてしまったことで「第一ボタンから全部ズレていた!」とあとでわかった――。そんなもったいないコミュニケーション、つまり目的の根本のズレやねじれを誘発しかねないからです。

 今後のチームのフロー効率を高めるためにも、私たちクリエイティブ組織は自らのWHY(なぜ)を言語化し、判断基準としての「チームの目的と理由」という根源的なものさしを手に入れる必要があります。

 次に、WHYの別の効用を考えてみましょう。私はサン・テグジュペリの名言「船を造りたいなら、木材を買い、道具を揃え、仕事を分配し、仕事を整理するために人を集めるのではなく、広く果てしない海への憧れを人に教えるのだ。」が大好きです。チームをリードする観点でこの言葉を考えてみると、そのポイントは「どのように船を造るかではなく、『なぜ船が必要なのか』を伝えることで聞き手の理解が進み(腹落ち)、自身の理解から生まれる内発的動機づけがなされ、結果的に船造りが自分ごとになっていく」点です。

 私たちはつい良かれと思いさまざまな情報を聞き手に教えてしまうことがありますが、必要なのは内発的動機づけを導く腹落ちであり、WHYの部分です。チームリーダーだけでなく各メンバー自身も、チームをリードする前にまず自分自身をリードできる状態になることが重要なのです。話し手は、聞き手との温度感(心の火加減)を合わせ、相手の心の薪に着火するよう小さな火種を渡し、火がつくように燃えやすい小さな枝をくべ、丁寧に空気を送り込み、薪まで燃えだしたら徐々に手を放して離れたところで様子を見る。そんな、状況に応じたグラデーションのあるアプローチが求められます。

 HOW(どのようにして)は、チームの向かう方向性が共有できる度合い、必要十分な程度を整理します。細かく定義しすぎる必要はありません。チームや個人の状況と能力にもよりますが、やりかたや実現方法は状況に応じて変化するものだからです。あまり細かく指定することは、チームの自主性(自己組織化)を損なうことにもつながります。あくまでHOWはWHYを実現するための手段であり、手続きや方法や行動のひとつ。目的ではありません。

 野球でたとえると、いくら素振りや守備練習を積み重ねたとしても、目的と目標のつながりが欠けていては、過剰・過少・見当違いなどのムダが発生してしまうかもしれません。ただし、チームが状況対応型リーダーシップ「SL理論」(参考記事)で言うS1のようであれば、HOWについてもすり合わせていくことが有効かもしれません。

 プロダクトをチームと仮定した場合、WHAT(なにを)はチームそのもの、つまり到達したい状態と言えます。いわば「山の頂上」が言語化された際、現在地であるチームの足もとをあらためて見てみることで、その差分を理解できるようになります。

 たとえば、山の頂上が「メジャーリーガーになりたい」だとしたら、そのためのステップとして「甲子園で優勝する」「プロ野球でホームラン王になる」など、よりブレイクダウンした具体的な中間目標が描けるようになるでしょう。そしてその目標達成のために「何をやれば良いのか」「何が不足していてどのように獲得したら良いか」を考えやすくなります。目標に向けて少しずつ進みながら歩みをふりかえり、周囲の状況や自分たちの変化を捉え直し、次の目標に向けた作戦に反映していくわけです。

 しかしもちろん、上手くいかないこともあると思います。その原因は作戦ミスなのか、熟達不足なのかは、よく見極める必要があります。人間はもとの形に戻ろうとする力のほうが強いです。だからこそ、ふりかえりを通じて困難ななかにある小さな成果をひとつずつ祝いあい、学びや気づきからポジティブな動機づけを自ら獲得し、自分たちで自分たちを励まし、変わる熱意と続ける勇気を持ち続ける必要があります。一朝一夕でできることではありません、ベイビーステップです。自分たちが守破離のどのフェーズにいるのかをよく考えて行動することが必要です。

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