拡張現実の現在地とポテンシャルとは――ARの基礎知識と体験における活用例を解説

拡張現実の現在地とポテンシャルとは――ARの基礎知識と体験における活用例を解説
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 総合広告代理店・D2C IDが、ARを活用したプロモーション施策のノウハウをお届けする本連載。第2回は「ARの基礎知識や現在の環境、広告をはじめとする体験への活用方法」がテーマです。

 こんにちは。株式会社D2C ID / IMG SRC STUDIOのプロデューサー、上林です。

 私が所属する部署「IMG SRC STUDIO」は、もともとIMG SRCという社名でさまざま先進デジタル体験の制作を生業としてきました。AR(Augmented Reality = 拡張現実)とは2010年ごろからの付き合いになるため、10余年ほどその可能性や進化を見届けてきました。

 今回はARについての基礎知識と現在のARを取り巻く環境、広告をはじめとする体験への活用などについてお伝えしていきたいと思います。

 まず、「AR/拡張現実」という言葉の定義をWikipediaで見てみましょう。「ARの種類」という項目には、次のように記載されています。

ARはロケーションベースAR、マーカー型AR、マーカーレス型ARの3種類に大別される。

1. ロケーションベースAR

ロケーションベースARまたは位置拡張ARとは、GPSをはじめとする各種センサーによって位置情報を取得し、その場所に応じた3Dグラフィックスなどのコンテンツをカメラ映像に合成して表示する技術。

2. マーカー型AR

マーカー型ARとは、マーカーと呼ばれる図形をカメラで読み取ることで、その位置にコンテンツを合成して表示する技術。コンテンツを表示する位置を細かく制御できるという利点がある。

3. マーカーレス型AR

マーカーレス型ARとは、カメラ映像に含まれる実際の風景や建造物、看板などを識別し、それぞれに合わせたコンテンツを合成して表示する技術。マーカーを使わずにコンテンツを表示できることがメリット。

出典:Wikipedia

 この分類については、読まれる方のリテラシーによって物言いがつくところかもしれませんが、今回はこれに沿って進めていきます。この3種類をひとつずつ見ていきましょう。

1.VPSがカギとなる「ロケーションベースAR」

 従来の「ロケーションベースAR」と言うと、世界初のARアプリと言われた「Wikitude」や、日本製ARアプリの草分けともいえる「セカイカメラ」などが代表的ではないでしょうか。GPSやモーションセンサーなどを搭載したスマートフォン(当初はiPhoneのみ)の優位性を活かし、今自分がいる場所や見ている方角にまつわるさまざまな情報をカメラ画面越しに可視化してくれるという、黎明期のARアプリではよく見られた形。スマートフォンを使った新時代の技術として絶賛され、私もいくつか同様のアプリを愛用していました。ただ、当時の自己位置推定の技術では精度もいまひとつであったり、有用性が限られてしまったりといった部分で、OSの基本機能やウェブ周辺などほかの技術やサービスの進化に取って代わられたのではないかと思われます。

 しかし、「セカイカメラ」のサービス終了から10年あまりが過ぎ、ここ数年でこのロケーションベースARが再び注目を集めています。

 「VPS(Visual Positioning System)」という技術の台頭により、従来とは比べ物にならない精度で現実空間を認識し、それを拡張することができるように。それにより、あらゆる日常の風景を鮮やかに彩ることが可能になりました。

 このVPSの仕組みを端的に示すなら、「スマホなどのカメラから得た可視情報(画像)を解析して周囲の平面や壁面などを検出し、自己位置(自分の位置や方角)を高い精度で推定する」ということになります。現在では、事前に用意された3Dマップの特徴点を照合することでさらに精度を高めたり、街中のようなオープンな空間でも数センチ単位という極めて高い精度で正確な自己位置を取得したりすることが可能になっています。

 古くからカーナビなどでお馴染みのGPS(Global Positioning System)は素晴らしい技術ではありますが、地球周回軌道にある人工衛星からの電波を使用するため、屋内や高層建築に囲まれた都市空間のような場所では詳細な位置が割り出せず、スマートフォンでは誤作動が多いのも事実。地図アプリで道を調べようと思ったら「あれ?全然違う場所にいるじゃん!」となることもありますよね。

 それと比較し、VPSを使えば「どんな景色の中で、どの位置に、自分がどの方角を向いているのか」を、ピンポイントかつ正確に把握することができます。これにより、ビルなどの建造物や看板、街路樹やガードレールなどの障害物に至るまで、その位置や形状を認識し、3DCGによるARオブジェクトを高い精度で合成することができるようになりました。

 たとえば、ビルの背後や隙間から巨大なロボットが現れたり、まるでプロジェクションマッピングのように建物の壁面にビタッとハマる演出を施したり、今いる空間をまるごと未来にタイムスリップさせたり……。想像するだけでも楽しくてワクワクするような表現が可能になっています。

 広告やプロモーションの文脈ではどうでしょう。車のビルボードにスマートフォンをかざすとそこから車が飛び出してくる、といったAR広告があったとします。「車が飛び出してくる」ところまでは従来のARでもできるかと思いますが、VPSを使えばいっそうリアルに、その車を目の前の道路で走行させることが可能です。

 さらに目の前に停車したり、車内空間などの細部を見れたり、車体色の変更やオプションの付与など見た目の変更も即座に反映できたりします。そのため、その流れのままアプリ上でディーラー担当者とリモートで商談を行い、即決購入!といった夢のような購買体験も、すぐそこまで迫っています。

 そういった大型の屋外施策だけではありません。歩道の幅や障害物、階段やちょっとした段差まで教えてくれるバリアフリーな歩行者用ナビ、建物の内部をまるでツアーガイドさんのように案内してくれるガイドアプリといったものまで、VPSの応用によってみんなにやさしい世の中を実現させる可能性も秘めています。

 そしてこのVPSには、ひょっとすると我々の生活をガラッと変えてしまう(かもしれない)ような、大きな可能性が秘められています。

 「ミラーワールド」や「デジタルツイン」という言葉を聞いたことがある方も少なくないと思います。近い将来、この「現実世界のすべてのモノや情報がデジタル化されたもうひとつの世界」が、ウェブやSNSに続く次世代の巨大プラットフォームになるのではないかとの声もあるほど、VPSはまさしくこの分野を切り開く重要な「カギ」になる技術だとされています。

 もちろんこれはまだ想像の域を出ない話ではあります。しかし、Google EarthやGoogle Streetviewを使い、実際に行ったことのない異国の地の風景を眺めたり、ポケモンGOのような位置情報ゲームでリアルな街をゲームの世界とリンクさせて夢中になったり、といった体験はすでに共有できていますよね。リアルとバーチャルを融合させる際、その中核となる技術がARやVPSといった世界が訪れるのも、遠い未来の話ではないのかもしれません。

 少し話が逸れてしまいましたが、ロケーションベースARはVPSという強力な技術と融合することで、将来的にさまざまな発展を予見させます。近い将来のARを語るうえで、もっとも注目すべき分野と言えるでしょう。

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