デザイナーとエンジニアへの示唆
Stitchの登場は、「デザインやコーディングのスキルが不要になる」という話ではありません。むしろ逆で、自動化される部分が明確になったからこそ、人間にしかできないスキルがより浮き彫りになったと言えます。
デザイナーに求められるのは、ユーザーリサーチを通じて課題を言語化し、情報や体験設計に落とし込む力。エンジニアに求められるのは、持続可能な設計やセキュリティ、パフォーマンス、チームに合わせた技術選定といった判断力です。これらはどれだけ高度なAIでも、現状は肩代わりできない領域です。
言い換えれば、Stitchは（またはその他のAI活用のUIデザインツールも）「作業の削減」ではなく、「専門性の輪郭を照らし出す存在」なのかもしれません。ツールが進化するたびに「私たちの価値はどこにあるのか」を問い直すことこそ、デザイナーやエンジニアに突きつけられた本質的な課題だと言えるでしょう。
UIUXデザインの未来
では、この先UIUXデザインの風景はどのように変わっていくのでしょうか。Stitchやv0.appのようなジェネレーティブツールの普及は、間違いなく「UI制作」そのもののハードルを下げる未来につながります。
プロトタイプの生成やUIの叩き台づくりは誰でもできるようになり、デザイナーは「初稿を描く人」ではなく「体験の方向性を定義する人」へと役割をシフトしていくでしょう。さらに、デザインとフロントエンドコードの距離が縮まることで、「設計と実装の間に存在していた摩擦」は限りなくゼロに近づいていきます。その先では、役割としての「デザイナー」「エンジニア」の境界が揺らぎ、「プロダクト体験を設計する人」と「それを社会実装する人」といった新しい協働関係が生まれていくはずです。
もちろん、そこに至るまでにはツールの精度や倫理的課題も残されています。しかし確実なのは、AIがUIUXデザインを「省力化するテクノロジー」から「発想を拡張するパートナー」へと変えていくことです。量産型デザインの海の中で「このアプリ、なんか良い」と思わせる余白こそ、今後のデザイナーの存在理由になるのです。
まとめ
Googleの「Stitch」は、プロンプトひとつでデザインとコードをつなぎ合わせるという新しい可能性を示しました。これは単なる効率化の物語ではなく、チームの働き方や役割の境界、そして「デザインとは何か」といった根源的な問いそのものを揺さぶる出来事だと感じます。
ツールはこれからも進化を続けるでしょう。しかし、そのたびに私たちに返ってくる問いは変わりません。
「効率化・自動化された世界で、私たちはどこに価値を置くのか――」
だからこそ、Stitchに限らずさまざまな生成AIツールを試してみることが重要です。活用すること自体が目的ではなく、AIでは埋められない課題や、人だからこそ発揮できる強みが、実際に使うことで浮き彫りになるからこそ、私たちデザイナーが関わる意味があります。その差分を確かめ続けることが、これからのデザインを考える上での大切な営みになるでしょう。Stitchが本当に縫い合わせているのは、画面やコードではなく、人とテクノロジーの未来の関係なのかもしれません。
この記事が、みなさん自身の仕事やチームにとっての「次の一歩」を考えるきっかけとなれば幸いです。それではまた次回、デザインの未来を一緒に探しにいきましょう。
