2030年度のDX投資金額市場、3.8倍の予測 交通・運輸などが牽引し拡大見込み/富士キメラ総研調査

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2020/10/28 05:00

 マーケティング&コンサルテーションの富士キメラ総研は、業務変革による生産性の向上や効率化を進めるうえで注目されるDXの国内市場を調査。その結果を「2020 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望」にまとめた。

 同調査では、DXの国内市場(投資金額)を製造、流通、金融、医療/介護、交通/運輸、不動産、その他業界、業界共通である営業・マーケティング、カスタマーサービスに大別して市場を明らかに。加えて、DXに関わる12の基盤技術の市場動向、関連事業を展開するソリューションベンダー21社の取り組みをまとめた。また、DXへの企業の取り組み状況を把握するためアンケート調査を実施した。

 同調査結果の概要は、次のとおり。

DXの国内市場(投資金額)

 IoT、AI、RPA、5G、ブロックチェーンなどDXの基盤となるデジタル技術が実用段階に入ったことでDXへの投資は本格化。また、新型コロナウイルス感染症の流行により非対面や人手を介さない業務プロセスの確立が求められるなどデジタル化への関心がさらに高まっており、業務変革や顧客接点改革などがDX投資を加速させる一因となっている。

 2019年度では、交通/運輸の市場規模がもっとも大きく、2030年度に向け最大規模を維持しながら拡大していくとみられる。社会的な課題である安全に向けた取り組みに加え、CASEへの対応をはじめ新領域への投資が活発化。また、製造や流通、不動産、その他業界は人手不足とデジタル化の遅れにより非効率なビジネスプロセスが多く、業務変革のための投資が増加しており、2030年度に向け高伸長するとみられる。

交通/運輸

 高齢者による交通事故やあおり運転をはじめとした危険運転による事故未遂が社会的な課題となっており、各事業者がこれらを防止するための取り組みを進めている。危険運転や交通事故を防止し、個人や法人ユーザーが安心して利用できる輸送サービスへの積極的な投資が進められている。

金融

 次世代金融基盤サービスやデジタル審査・予測への投資が中心。次世代金融基盤サービスは、2017年度の改正銀行法を契機にAPIの構築が進み、2019年度から2020年度にかけて、API公開などの体制が整い始めた。今後は複数のサービスが相互に連携することでシームレスな金融サービスの普及が期待される。デジタル審査・予測は、以前から業務の自動化や省力化を計画していた企業が、新型コロナウイルス感染症の影響により計画を前倒ししていることから伸長している。

製造

 スマートファクトリーやサービタイゼーションへの投資が中心。スマートファクトリーの実現に向け、生産設備の稼働状況の可視化を目的とする投資が進められている。ラズベリーパイをベースとするIoTシステムや安価で実装可能なクラウドサービスの普及により導入のハードルが下がり、幅広いユーザー層で可視化に向けた取り組みが進められている。また、可視化された情報の分析、AI予測などによる作業効率の改善や予兆保全に向けた取り組みも活発化している。

流通

 デジタルオペレーションへの投資が中心となっており、在庫の最適化による逸失利益の削減に向けた取り組みが進められている。また、季節性やイベントなどの外部要因も含めた複雑な判断をシステムが支援することで、業務属人化の防止を目的とした投資も増加している。今後は人手不足への対策として、業務効率化を目的とした投資が積極的に行われるとみられる。

医療/介護

 医療業界におけるデータ活用のニーズが高いことに加え、政府が注力している医療ビッグデータ分析支援の需要が増加している。なかでも厚生労働省が主体となり、医療データや健診データの分析を基に保険事業の効率化を図るデータヘルス計画が推進されていることから、健康保険組合向け分析支援が伸びている。今後は病院向け分析支援や二次利用分析支援の需要増加が期待される。

不動産

 特に賃貸管理や仲介業務でICT化が遅れており、属人的で労働生産性が低く、顧客にとっても手続きに手間や時間がかかることが課題である。これらを解消するための投資が拡大しており、在庫状況のリアルタイム性向上と管理会社における物件確認などの応対の自動化、内覧のウェブ予約/管理、スマートロックを利用した内覧時の鍵の受け渡し業務の削減、セキュリティ向上、VR内覧、申込や契約の電子化/ペーパーレス化などが進められている。

その他業界

 社会インフラ、農業、建設などの投資が中心。就業者の高齢化や人手不足の解消を図るため、今後も投資が拡大していくとみられる。

営業・マーケティング

 業務効率化を主としたソリューションが中心となっている。CRM/SFAはSaaSベンダーを中心に高機能なサービスの開発や提供が進められており、メールやウェブ会議との連携、営業業務のテンプレート共有、案件見込み度のスコアリング、最適行動の提案など、ツール間連携やAIによる機能拡充などが進められている。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機にオンラインでの営業活動管理の必要性が認識され、高機能なSaaSを導入可能な大手企業を中心に市場は拡大していくとみられる。

カスタマーサービス

 リモート型コンタクトセンターなどへの投資が中心である。コンタクトセンターでは従来オペレーターの管理やセキュリティの懸念から在宅勤務に取り組む企業はわずかであったものの、2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大対策としてクラウドサービスを活用しリモート業務に取り組む企業が急増した。今後は感染拡大対策としてだけでなく、人材不足を背景に企業拠点での業務が難しい被雇用者の採用を進めるなどリモート業務に取り組む企業が増加するとみられる。

アンケート調査(インターネットリサーチ)

勤務先におけるDXの導入状況 ※N=616(シングルアンサー)

 DXを導入済みユーザーは19.5%と、前回調査を行った2018年より7.4ポイント増。また、実証実験を行っている企業と今後3年以内に導入計画があるのは29.8%と2018年より2.2ポイント増となった。

勤務先におけるDXの導入もしくは実証実験を行っている目的 ※N=228(マルチアンサー)

 もっとも回答が多かったのは「業務効率化/省人化」であり、次いで「コスト削減」「売上拡大」である。

新型コロナウイルス感染症の影響により、優先度が高まったDXの目的 ※N=307(マルチアンサー)

 新型コロナウイルス感染症の影響による戦略転換によって優先度が高まった取り組みは「業務効率化/省人化」がもっとも回答が多く、次いで「コスト削減」となった。リモート化や売上減少をカバーするための投資が重要視されているとみられる。

市場調査概要

調査対象
調査方法

富士キメラ総研専門調査員によるヒアリングおよび関連文献、データベース活用による調査・分析

調査期間

2020年6月~9月

アンケート調査概要

調査対象

年商10億円以上の企業に所属し、DXに関する自社の取り組みを把握している従業者616名

調査方法

インターネットリサーチ

調査期間

2020年8月4日~5日